タイピング日記006 / 「若い小説家に宛てた手紙」バルガス=リョサ
駆け出しの小説家君、そろそろ文学に適用された危険な概念、つまり真実味について語るときがきたようですね。真実味のある作家である、というのはどういうことでしょうか?
小説というのは本来ペテン(現実でもないのにそのふりをしているもうひとつの現実)であり、小説というのは例外なくいかにも本当らしい顔をしている嘘なのです。
そうして生まれてきた作品の説得力というのは、ちょうどサーカスや劇場で魔術師が鮮やかな手並みで魔術、あるいは奇術をやってみせるように、小説家が効果的にテクニックを用いられるかどうかに関わっています。
小説というジャンルにおいてもっとも真実味があるのは、ペテン、目くらまし、幻覚なわけですから、その中に見られる真実味について論じるのは果たして意味があるのかどうかという疑問が生じてきます、意味はありますが、それはあくまでも以下のような理由によるものです。
真実味のある作家とは、人生が自分に押しつけてくる命令に素直に従ってテーマを選びはするけれども、自分の経験の奥深いところから生まれてきて、これだけは語らなければならないと考えられるテーマ以外のものすべて排除する人のことなのです。
小説家の真実味、あるいは誠実さというのは、その点にかかっています。
小説家は、自分の内なる悪魔を受け入れ、自分のおよぶ範囲内でその悪魔に仕える人なのです。
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