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冒頭で出会うVol.9.0_マクドナルド_石田衣良【4TEEN】編
直木賞受賞作品。「4TEEN」 著者・石田衣良
始まりは春休みに入ったばかりの月曜日。ぼくは月島駅の階段をのぼったところにあるマクドナルドのまえにいた。もんじゃ焼きの店が百件はある西仲通りのほうの出口だ。マウンテンバイクにのったまま片足をガードレールにかけたり、ときどきはその足もはずしてスタンディングスティルの練習をしたりしながら、クラスの友達を待っていた。
(日時の提示。主人公は14歳。おなじ年の友達がいる。丁寧な描写だ。とくに、漢字をひらかせている。【漢字をひらく】☞大和言葉にする例、着席☞すわる、こしかける。同年代☞おなじ年。など)
午後三時、斜めの光りに薄オレンジの縞になった横断歩道をわたって、最初に内藤潤がやってきた。ジュンはぼくと色違いのトレックマウンテンバイクにのってる。真っ赤なフレームにリアサスつき。背が低いからサドルの位置はだいぶ下。ちなみにぼくのは青だ。
(時間の提示。ひらがなの使い方。非常にうまい。前回の直木賞の「私の男」(桜庭一樹)も、え、そこまで「ひらがな」にするのっ!というところまで漢字をひらかせている。これは芥川賞(新人作家)にはない。ベテランの直木賞作品に非常に多い。
「ダイはまだ」
ジュンは顔の半分くらいある黒いセルフフレームのメガネを中指で押しあげていう。ぼくは肩をすくめた。小野大輔はもうひとりの待ちあわせ。ダイはだいたい時間に遅れる。
「それよりナオトは大丈夫なのかな」
今度はぼくがきいた。
「わかんないよ。うちにも連絡網で電話があっただけだから。でも終業式まで元気そうだったのに、いきなり、入院するな……」
ぼくたちのうしろで自動ドアが開いた。
(ここで三人目が登場。じつに巧みな構成だ)
「よう、待った」
ダイの太った声がする。胸のまえにあだ名の元になったフレンチフライをもってマックをでてきた。ダイは大輔のダイじゃなくて、フレンチフライの大中小のダイ。揚げ油の臭い。むりやり締めたベルトの上下から、ポテトでいっぱいの中身がこぼれそうだった。
(体言止め。それを14歳の語り手にうまく使せている)
「いこう、時間だ」
ぼくが声をかけるとダイはジュースでものむように口のなかにポテトの残りを流しこんで、あさひ銀行のほうへママチャリをとりにいった。うしろから見てもほっぺたの肉が顔の横にでっぱっているのがわかる。
(上記の一文、じつはすごい一文だ。ひらがな、カタカナ、漢字のバランス。なぜひらがなで「あさひ銀行」なのか、さすがプロ)
「つぎに入院するのはきっとダイだな」
ジュンがいう。ぼくは少し笑った。三人がそろうと、ぼくたちはナオトの見舞いに出発した。
(石田衣良、4TEEN、冒頭)
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人の作品を書いてみて感じたこと、
⑴挟んでメモしたが。ひらがな、カタカナ、漢字の、絶妙なバランス、日時、時間場所の提示、
⑵最初の三人の集まり(場面、月島、もんじゃ焼き通り、マクドナルド前)のわかりやすさ。登場人物(4人)の提示、
⑶道具(カマキリ自転車など)、登場の仕方、三人がどこへ向かうかの明示。
⑶ちなみにこの後は、
月島駅から隅田川の堤防まではほんの二百メートル。横になったW字型の自転車登坂路を立ちこぎでのぼると佃大橋だ。
とつづく。
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