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800字日記/20221216fri/160「西村賢太に捧ぐ」
背筋が痛い。死ぬほど痛いのか、と問われたらそれほどではない。二日前から痛む。立ち上がって少し身体をねじるだけで、あばらのまわりに張りつく左右の背筋に、ピシッと氷を割ったような痛みがはしる。
寒い。そうじをしながら、夜、足先が冷えて温まらないのは洋間の床の冷えのせいと今頃になって思い、和室の五畳を仕切る。
そうじを終え、寒さで鈍くなったネコが膝でふみふみ。ネコ自体は臭わないが、そこかしこにマーキングの臭いがする。
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ネットで、背筋 痛み でググりながら、横でネコが丸くなる机の左にあるメモの山を見ると、パーカー、靴、年末の米、猫はまだ仔猫、完璧な祖母のきんぴら、平壌の地下に巨大暗黒物質、ウワダイラから五万がまだ、富山に電話。左手は白い雲に覆われた冬空がどんよりとしている。
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この背筋痛は、はな志村けんが罹って笑い一つ取れずにまたたく間に死んでいったあの流行病なのかと恐れていたが、結局はただのどこにでもある寝ちがえという凡庸な検索の結果に、出会い系アプリで女をただ己の肉体に溜まった毒素のような慾を吐き出すためだけに引っかける肝っ玉や度胸などなにひとつ具えていないうすっぺらな胸を大きく撫でおろす。こんな女々しい自分の思考に、腐りきった葡萄の房のごとくしみったれた修飾語が性液のようにべったりとへばりついたこの文章も、昨晩よんだ西村賢太の「けがれなき酒のへど」それらの文体に似てきているな、と思い、それを一刀両断に断ち切る。
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前回の記事は、昨日本当に投函した手紙に宛名を変えただけのドキュメンタリー日記なのにもかかわらず、いいねひとつついていない。かたや、ただ己のため、他の作家の文体を研究するためにタイプした中島らもの文章にいいねがつく。読者はやはり節穴だと毒づくもまだ西村賢太が、書き残したい怨念があってなお成仏しきれず、生き霊のようにこの日記に憑いているのか。
首を振る。左の窓の外で雲が割れ、陽射しが射した。
(800文字)
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