冒頭で出会うVol.20_海が見える部屋
わたしはわたしが嫌いだ。雨水薫という名前もすべて大っ嫌いだ。頭ではそう思いながらもわたしはじぶんの足先を、まるで別の意志をもったヒトデの触手のように手嶋琢哉の股にからませる。
「閉めてよ、寒いんだから。部屋が冷えちゃうじゃない。暖房もつけっぱだし、あんたがこの部屋の光熱費を払ってくれんの?」
わたしはじぶんの冷たく渇いた踵を琢哉の股間に擦りつける。琢哉は言葉につまっているようだった。
「なんだよ、裸じゃないか」
琢哉の言葉を無視して、つめたくなった足先を琢哉のトランクスにひねりこませ、親指と人さし指で琢哉のペニスをつまむ。白んできた東の海をみていた琢哉が窓からふりむく。
「なにやってんだよ、朝っぱらから。なんか着ろよ。風邪ひくぞ」
足の指で感じる。固くなってきている。ねえ、あんたが、それをいっちゃうわけ? 素っ裸のわたしをまだ脱がしたりないくせに。昨日の夕方にいきなりわたしの部屋に入ってきて有無も言わさずに服ぬがして、ご飯もお風呂も入らずに一晩中、わたしを弄っておいて?
男の汗で臭くなった毛布をまとってわたしは明かりのない部屋の床に転がるデジタル時計を弄ってライトをつける。1/17/Mon 6:21、と点滅している。東の空は白んできているがまだ日の出前だ。琢哉は窓を開けて海をみていた。
手嶋琢哉。あなたのその名前に、いったいなんの意味があるっていうの。ただの記号じゃない。べつに、清野恭介でもいいんじゃないの、ペニスさえついてれば。わたしだって別に雨水薫じゃなくてもいいんじゃない? わたしの穴にあなたを入れたいだけなんでしょ?
「なにニヤニヤ笑ってるだよ。気持ちわいりぃな」
うるせえんだよ。やりてーくせによ。もうびんびんに固くなってんじゃん。
雨水薫は手嶋琢哉に笑ってあげるのだ。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければサポートおねがいします
サポーターにはnoteにて還元をいたします