《語彙の三語三文》:手書き帖 5.7〜5.13
五月七日(火)
【算・さん】
⑴あの賊ら、算を乱して逃げていった。
⑵机だの、卓子(テーブル)だの算したなかを拾って通った(鏡花➡︎婦系図)
⑶胸中の目論見が、算するがごとく、当たった。
【赤銅色・しゃくどういろ】
⑴赤銅色は赤銅のような色です。
⑵黄色みがかった暗い赤茶色が赤銅色です。
⑶「赤銅色がしゃくどういろって読むのを、初めて知りました」
「だから、それは胸の内に思っていればよろしいことです」
【半弓・はんきゅう】
⑴半弓をかまえる。
⑵大弓が長さ七尺五寸(約2.25m)普通の弓で、その半弓。
⑶半弓よりちいさい楊弓は約85cm。遊戯用の弓です。
五月八日(水)
【眼底・がんてい】
⑴その光景はあまりにも鮮やかに私の眼底に残っている。
⑵「これは眼底恐怖症です」
「そんな病名はないぞ」
⑶「君の眼底に魚が泳いでいるのが見えるぞ。ややこれは大漁だ!」
「先生、この患者がきっとこれが眼底恐怖症です」
「そのようだな」
【詮ずる・せんずる】
⑴理を詮ずる。
⑵「詮ずるところ、教師も一人の人間だ」
⑶「つまり、詮ずるに今回の敗因はチームワークの欠如だ」
「違う!予算不足だ!」
「そうだ!」
【蟄居・ちっきょ】
⑴終日、蟄居に書に親しむ。
⑵「今般の松永殿の沙汰はいかがじゃったか」
「永蟄居だ」
「切腹でなくて良かった」
⑶土竜は土に潜って目を閉じる。地中で蟄居を至った。
五月九日(木)
【チッキ】
⑴「チッキってことば、いまは聞かないですね」
「どんなのです?」
「鉄道などが旅客から手荷物を預かって輸送するときにわたす引換券です」
⑵アパッチ族はチッキのごとく私を地面に放りだした。
⑶私はチッキのごとくグウの音も出ないほど、地面に叩きつけられた。
【縷縷・るる】
⑴私は事情を縷縷と述べた。
⑵女と別れ話を縷縷と語った。女は別れを認めなかった。
⑶人の列は次から次へと縷縷として続いた。
【御感・ぎょかん】
⑴大曾長(だいしゅうちょう)は山田の処刑にいたく御感があった。
⑵「拙き和歌の御感に預り」➡︎(露伴・二日物語)
⑶「天子の宸翰(しんかん)を読み、その宸筆(しんぴつ)に御感を極まれた」
「天皇の宸翰を読んで、だれが御感を極まれたんだ?」
「そこよ。問題は」
五月十日(金)
【玉命・たまのみこと】
⑴「玉命って辞書に載ってなかった」
「それって神の名前だろ。日本神話にみえる神の名。玉を用いて祭りを行う司祭者」
「玉(ギョ)!玉(ギョ)!玉(ギョ)!」
⑵玉命(ぎょくめい)を持って関西軍を攻撃せよ!(造語)
⑶「東京は死守せよ!玉命(ぎょくめい)だ!」(造語)
【がしんたれ】
⑴「がしん」は餓死のことを関西地方で意気地無し。「たれ」は人を罵る言葉でつかう。
⑵お前は告白すらできないのか! がしんたれやな!
⑶「アナタ! またクビ! ほんまに、がしんたれや!」
【ふいご・鞴・吹子・吹革】
⑴美樹の胸はまるでふいごのようにおおきく膨らんだ。
⑵もっと踏め! せーの! 皆でふいごを踏むと、炉のなかの火が真っ赤に染まった。
⑶ふいご祭りに行こう! 11月8日のたたら祭りね。
五月十一日(土)
【誦する・ずする】
⑴僧が経を誦する。
⑵親玉はかえすがえす歌を誦する。
⑶あいつはうどんをすするように歌を誦する歌人だ。
【やっとこ】
⑴「やっとこって前に書いたっけ?」
「…書いたなあ、たぶん」
⑵やっとこすっとこ逃げ延びたぜ。
⑶やとこさぁうんとこさ。もういっちょ。やっとこちゃぁうんとこな!
【猖獗・しょうけつ】
⑴猖獗を極めた病原体は秋になってようやく下火になった。
⑵日本中に猖獗するぞ!われらが大空翼の党!
⑶「あの新党猖獗党を抑え込め!」
「それこそ表現の自由だ!」
「時代の流れだ!」
「右へ左へどっちへ転ぶか」
「おまえ、見てるだけか!」
五月十二日(日)
【無筆・むひつ】
⑴手紙を書こうにもご存じの無筆だろうに(漱石➡︎道草)
⑵彼は無筆だった。
⑶大酋長は無事だった。だが彼が偉大なる政治軍略家であったかはおいおいわかることだった。
【夜陰・やいん】
⑴夜陰に乗じて攻撃を仕掛ける。
⑵夜陰の逢瀬。
⑶夜陰の中かれは倒れ、そのまま姿を消した。
【岩戸・いわと】
⑴天の原岩戸を開き(➡︎万葉集・一六七)
⑵「岩戸景気ってすごかったんすか?」
「おまえ、いくつだ?」
⑶「みなさま、ほんとうにありがとうございました! 次回の公演は《岩戸開き》やりまーす! では次回まで! さようなら! 」
(ワー! 会場は大喝采で沸いた)
「前回の学園祭は《岩戸隠れ》だったんですね」
「次回は三年後か、あるいみ、長丁場の演目だなー」
「めっちゃ楽しかった! 私、卒業してもぜったいに観にきます! 」
「ちょとまった! じゃあ今回の公演はなんだったんだ? 」
「めちゃくちゃ楽しいミュージカルでした! 」
五月十三日(月)
【デレスケ・デレ助】
⑴デレスケどもよ! まだ金で女を買おうとするか! 自分を磨け!
⑵「あいつデレスケだなあ」
「いつもデレデレと、まるで締まりがねえ」
「おれもなりたい」
⑶「おれはいまから、デレスケになる!」
「で、どうやって?」
「まずは君からだ!」
「ぎゃー!」
【燦・さん】
⑴燦と照りつける陽光。
⑵燦たる黄金の光。
⑶「愛欲が燦々たるあの場所に行きたい」
「ソープランドか?」
【襤褸・ぼろ】
⑴細長い襤褸のつなぎを着た大男。
⑵ぼろで靴を磨く。
⑶みろ、あいつまたぼろを隠した。あの調子じゃあ、今回の試合もダメだな。