ゴーストタウンの「夜」
1
夜の灯は絶え、
不気味な影が通りを漂う。
つたない懐中電灯だけが、
今、私の足元を照らしている。
書店の廃墟から、
作家たちの魂は締め出され、
公民館の扉にも鍵が掛かり、
夏のボーイスカウトも帰って来ない。
白いマスクをした遊女の霊が、
街の顔を半分に覆っている。
彼女たちに尋ねてはいけない、
空白の中に存在してゆく理由を。
かつての奴隷も、君主も、
精気のない世界では似た姿。
ゴーストタウンの夜ーー
古文書に沈む愚かな記憶の数々。
2
地図から消えた街の名を、
誰も知ることはない。
手を叩いても、
律儀な反響音が答えるだけ。
客の消えた劇場で、
古びたトロンボーンたちがささやき合う、
「どんなふしだらな女でも、
いないよりはましだった」と。
音楽を生み出すのは、
演奏家か、それとも街そのものか?
「歌う」のはとても簡単なこと、
そこに共鳴する心があったとしたらね。
霊たちが物音をたてる、
自らの記憶を辿ってーー
ゴーストタウンの夜に、
物語を語らないジャズを。
3
豪華な幽霊船が、
港で朽ち果てている。
時間はかつてのセレブたちから、
栄光をすっかり奪い去った。
ローブをまとった白骨が、
大鎌に寄り掛かって眠る。
「愛」と呼ばれるコートは、
命ある者のためだけの衣装。
3Dメガネを掛け、
ホラー映画を観ている気分。
「生きるか、死ぬか、それが問題」とは、
霊と化したキャストには皮肉なセリフ。
回らないメリーゴーランド、
弾けないポップコーン。
ゴーストタウンの夜を、
静かに流す乗り手のないリンカーン。
4
さよなら、
星空の下で語られた恋愛よ、
美しい鈴の音の響きよ、
酒場での口喧嘩と笑いの日々よ。
人類は小さくなるーー
かつては地球を支配していたのに。
今ではアクリルの板に分断され、
生まれた町にも帰れない。
勝者への褒美を、
運命は手配したりしない。
奇妙なことは奇妙でなく、
驚きは驚きではない。
ブルースがグレイハウンドに乗って、
影となったビルや店を回る。
ゴーストタウンの夜が、
街路の隅々を覆い尽くす。
5
死の街を、音もなく動く、
光り輝く天使の足。
彼女は魂たちに息を吹きかけ、
眠る目に祝福を与える。
邪悪な亡霊にも、そして、
彼らの憐れな獲物にも、
天使は丘の上から慈悲をかけ、
飢えを消し去ってゆく。
黄金のライオンが、
夜空の国で涙を流している。
彼は羊たちの囲いの守護者で、
けして死ぬことがない。
地上のものすべてが眠り、
ただひとり目を覚ましている私ーー
ゴーストタウンの夜に、
ウィリアム・ブレイクの詩を重ねて。