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神秘の森

神秘の森が今、私の視界を覆う。
四方に伸びた枝が月明かりを遮る。
風が悲鳴をあげ、森を駆け抜け、
私の耳に「夢」の終わりを告げる。

優しさが崩れ去る音だった。
自然はどこまでも、儚く、厳しい。
強者の顎は容赦なく、弱者の頭を噛み砕く。
私が生きてきた「夢」とはまるで別の世界。

私はその森に足を踏み入れる。
方角も分からず、感覚だけを頼りに。
猿たちが目を光らせ、木から木へ飛び移る。
蛇が真っ赤な口を開き、私を威嚇する。

そこは不気味な色の植物に囲まれた世界。
ギシギシと、虫の大群が地面を這う。
私の体は恐怖に震えるが、
ここには隠れる扉はない。

 恐怖心が理性をも飲み込んだとき、
 彼は寿命に抵抗し、自らの死を選んだ。
 私はその男の後を追い、森を歩いている。
 彼を赦すこと、それは神への挑戦なのか?

死を身近に感じるたび、生に憧れる。
夜空には埋め尽くすほどに生命が輝く。
フクロウが鳴く、妖艶な女のように。
地面の葉の一枚一枚に星が映り込む。

流れ落ちる汗も拭かず、私は森を歩き続ける。
湿った土が疲れた足跡を捕まえる。
ついに私は森の一番深い所で動けなくなり、
身を横たえ、永遠の休息を取るーー

ここに時間は存在するのか?、
空間は存在するのか?
すべての花に手足があり、
風にさえ顔がある。
私の肉体は虫に食べられ、
土へと溶けていった。
この森は
私を殺すのか?
それとも
私を生み出すのか?

境は消え、
内と外が繋がり、
一つが全部となる。
世界は大きく、
そして世界は小さい。
私は60兆の細胞のどれかであり、
140億光年先の宇宙のどこかである。
私はここにいながら、
そこにいる。
もしくは、
どこにもいない。

ーー雨が降り注ぎ、森を揺らす。
カエルが歌い、リスが巣から顔を出す。
ライオンの横で寝そべり、私は見とれていた、
トカゲの求婚のダンスを、蝶の羽が宙に描く絵を。

夜明けに、一筋の光が差し込み、
私のまぶたを開き、私の頬をさすった。
光に導かれ、私は森の出口にやってきた。
日の光が、東を、西を照らしていた。

神秘の森の先に、私の行く道があった。
いつの日も太陽は輝き、夜に月は灯る。
私の目には光が宿り、心には闇が潜み、
私はもう一度「夢」を見る、
人生という夢を。

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