舞台恐怖症
1
開演まであとわずかだが、
ダンサーたちはお喋りをやめない。
司会者はまだチケットの手売りをし、
バンドは錆びたトロンボーンを鳴らす。
彼女は最高のシンガー、
この場末のバーレスクの。
客は彼女のパフォーマンスに興奮し、
メガネやパンツを白く濁らせた。
狭い楽屋では、
チンピラが金を巻き上げ、
パンチを1発置き土産に、
芸人にピエロの目をプレゼントする。
今夜も音楽とともにショウが始まるーー
世界の片隅のバーレスクと、
きらびやかな舞台恐怖症との間で。
2
愛に興味のない粗暴な色男たちは、
彼女のラブソングを聴きもせず、
彼女が歌い終えた後も、
手袋のまま軽く拍手した程度。
彼女と相方がライオンとの、
命がけのコントをやるときだって、
彼はバーカウンターで若い女を捕まえ、
喋れるだけ、自分の話をしていた。
額が汗ばみ、口も乾き、
頭をバカな考えがよぎるーー
しかし、彼女は自分の歌に立ち向かう、
それが正解だろうと、不正解だろうと。
彼女は長い間、成功を夢見てやってきたのだーー
世界の片隅のバーレスクと、
きらびやかな舞台恐怖症との間で。
3
スポットライトは彼方に浮かぶ星。
歌は心から落ちる涙。
舞台を怖がるシンガーにとって、
華やかなステージは真っ暗な監獄。
成功とは世界に隠された宝物。
報酬で人生を買い戻すことだってできる。
しかし姿のない美女がいないように、
失敗に似た成功はない。
君の声で彼女を抱きしめてやれ、
笑顔が彼女を満たすときまで。
「スキ」は心臓を貫く銃弾にも、
命を繋ぐ糸にもなりうるのだから。
今日も彼女は強い意志で堂々と歌うーー
世界の片隅のバーレスクと、
きらびやかな舞台恐怖症との間で。