ドロシー・マローンのヴィジョン
1
ドロシー・マローンの幻が、
バーで私を見つめていた。
それから家に帰るダンサーを、
ギャングに恫喝される客を見送っていた。
この街は探していた、
どこかで無くした記憶を。
あらゆるドアをノックして、
誰もがゴーストになるのだ。
彼女のどの映画を観たのか、
タイトルさえ思い出せない。
彼女のブルーの瞳とブロンドの髪、
私はゲームをやらされている気分になった。
機関銃がドラムを叩き、
ジャズが眩しく輝く。
私は彼女の口ずさむメロディについてゆく、
今夜のミステリーが解けるまで。
2
スモッグが街を包み、
裏切り者たちが港に並ばされる。
掟と忠誠が彼らの影をもみ消してゆく、
短くなった煙草のように。
彼女はダンスを終えると、
私に西海岸へ連れて行ってとささやいた。
冷たい血とロマンス、
私は彼女の真っ赤なドレスを見つめていた。
楽園など見たことはないが、
存在していることは知っている。
彼女が私のダイスを転がすと、
私のカードを持つ手は震え出すのだ。
彼女はシーツの中で笑い、
おとぎ話の中で私にキスした。
ネオンが通りを照らし、
新聞紙が私たちの後を追ってくる。
3
悪魔が汽車に揺られ、
古いブルースを連れてくる。
私は雨の中で彼女ともつれ合い、
靴を台無しにしてしまう。
蝙蝠の追っ手どもが、
至る所から私たちを監視する。
彼女は私の帽子に隠れたが、
その美しい髪が見つかってしまう。
私は頭を殴られ、
彼らが何を言ったのか思い出せない。
目が覚めるとベッドの上。
彼女は連れ去られてしまった。
摩天楼が歌い、
娼婦たちはみんな酔い潰れ、
野良犬が王様の振りをし、
銀行の窓に小便をかける。
4
私は車を走らせた、
手には銃を持って。
彼女を見つけなければならない、
たとえ誰かを殺すことになっても。
この街は探していた、
どこかで無くした記憶を。
あらゆるドアをノックして、
誰もがゴーストになるのだ。
私は銃を手に歩き回ったーーまるで、
『風と共に散る』のロバート・スタック。
その時、音楽が聴こえ、
私はバーの中へと吸い込まれーー
ドロシー・マローンの幻が、
バーで私を見つめていた。
それから家に帰るダンサーを、
ギャングに恫喝される客を見送っていた。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?