「筋肉マニア」ではなく「肉質マニア」と自覚した
トップのスポーツ選手の体にはムダがない。100m選手は100mに必要な、砲丸投の選手には、砲丸投に必要な筋肉がついている。ほかのスポーツも同様で、トップの選手にはその競技に最適な筋肉、そして脂肪がついていて、バランスが崩れると競技成績に大きく関わってくることもある。
ちなみにスポーツ選手のなかで最も美しい筋肉を持つのは、陸上の800m選手と聞いたことがある。彼らは短距離的な速筋と持久的な遅筋がバランスよく付いている。5000mや1万mの選手のようにギッチリと絞り上げているわけでもなく、100m選手のように筋肉もそこまでついていない。ほかの種目や競技の選手からは、物言いがつくかもしれないけれど、中距離の選手は確かに理想的な感じがする。
陸上の全米オリンピック選考会は「Do or Die(のるかそるか)」、「Hardest team to make(代表になるのが最も難しい)」と言われているように、選考会への標準記録も他国とは比較にならないほど高い。だから、みんなベストコンディションで挑んでくる。というわけで皆、余計なものなど一切体に付いていない。コロナで引きこもって、ゴロゴロ&食っちゃ寝していた私とは大違いである(あたりまえだ)。
脱線したけれど、先述したようにアメリカのオリンピック選考会は一発勝負で、3位は天国、4位は地獄と言われるもの。選手たちはギリギリのところまで練習で追い込み、大会に臨む。
ピーキングやコンディショニングも、薄皮を一枚ずつ剥いでいくような作業になる。手荒くすれば怪我につながるし、躊躇すれば最後の一押しがないまま大会に臨むことになる。
そんな中で目を引いたのは、するっと痩せた選手たち。筋肉に張りがあり、肌ツヤもよく、時間をかけてしっかり鍛え、余計なものを落としてきた選手たちが何人かいた。
特に2019年ドーハ世界陸上に出られなかった選手たちに顕著に見られた。走幅跳のデンディや200mのプランディーニが好例で、2年間、体質改善も含めて頑張ってきたとはっきりわかる体つきに変貌していた。
逆に大会前に怪我をしたり、コンディションが上がらず、無理やり減量したような場合は、張りがなかったり、肌ツヤもちょっと良くなかったり、吹き出物があったり。目の充血や爪の乾燥なども見逃せないポイントだ。
コロナの前は、試合会場で選手にハグをした際に、さりげなく肩や背中を触って、状態を確かめていたけれど(別に変態ではない)、最近は見てわかる領域に入ってきているように思う。試合前に選手を見ただけで、ある程度、勝負の行方は見えてくる。
という話を日本人コーチに話したら「及川さんは筋肉マニアじゃなく、肉質マニアですね」と指摘された。
言い得て妙である。
確かに私は選手を『筋肉』ではなく『肉質』でコンディションを判断しているのだと思う。シーズン初めの4月くらいにうっすら乗っていた脂肪が、6月の選手権で無くなっているのを見るのがとても好きだ。
仲のいい代理人は、3、4月の肉付きでその選手のシーズンの活躍を占えると話していた。
五輪をテレビ観戦する際には、アップで映った選手の表情、肉質にも注目してほしい。レース前、試合前に、そこから見えて来るものが必ずあると思う。
写真:200mで2位のプランディーニ。以前よりも脂肪が落ちて、いい感じの体つきになっていた。