及川彩子

NY在住のスポーツライター。大リーグ、オリンピック、パラリンピックスポーツを取材。岩手…

及川彩子

NY在住のスポーツライター。大リーグ、オリンピック、パラリンピックスポーツを取材。岩手日報で大リーグ特任記者。Numberなどに寄稿。Email: blueriver.brooklyn@gmail.com Twitter: @AyakoOikawa

最近の記事

「あんた、これで満足しないでロス五輪も出てきなさいよ」:サンドラ・ペルコビッチ(円盤投げ銅メダル)

 女子円盤投げは米国のヴァレリー・アルマンが五輪連覇、サンドラ・エルカセビッチ(クロアチア:旧姓ペルコビッチ)が銅メダルを獲得した。  ペルコビッチ(あえてここではこう呼びます)はロンドン、リオ五輪で金メダル、東京は4位でメダルを逃したものの、34歳で迎えたパリで再びメダルを手にした。 「メダルを手にできてうれしい。素晴らしい選手たちと戦えて誇りに思う」  ライバルたちをたたえた後、アルマンの方を向いてこう言った。 「私は金メダル2つ、銅メダル1つでメダル数ではあんたよ

    • 楠との出会いがなかったら、今の僕はない:アブラハム・グエム(南スーダン)

       男子800mに日本に縁のある選手が出場した。  アブラハム・グエム選手。  南スーダン出身の25歳だ。  アブラハム(彼の周囲の人々は彼をそう呼ぶので、ここではそう呼ぶ)は、東京五輪の際に前橋で事前合宿をしていた縁で、日本の楠康成選手と知り合いになり、東京五輪後に再び来日し、今は日本拠点で活動している。  本来は1500mの選手でパリ五輪も標準記録の突破、そして世界ランキング入りでの出場を目指していたが叶わず、800mでの出場になった。  昨日行われた予選では1組目9着な

      • 自己肯定感との戦い:米国女子100mハードル、ラッセル・マサイ

         チームスポーツと比べて個人スポーツは、勝敗の責任の所在がはっきりしている分、負けた時の敗北感が大きいのではないかと思う。 「ああしていれば、こうしていたら」と振り返らない選手はいないだろう。    米国女子100mハードルのマサイは大学時代から将来を嘱望された選手だが、全米選手権でハードルにぶつけたり、思うような走りができず、層の厚い米国でなかなか代表になることができなかった。  今年3月に世界室内に出場したが4位でメダルを逃すと、「全然自分らしい走りができなかった」としょ

        • シファン・ハッサンが皆の姐さん化している件

           パリ五輪で長距離3種目(5000m、1万m、マラソン)に出るシファン・ハッサン。3年前の東京五輪では1500m、5000m、1万mの3種目だったけれど、さらにパワーアップした。  昨日5000m決勝で銅メダルをとったハッサンは「今回は私はメダル無理だと思ってたでしょう」と、してやったりの表情だった。  記者会見でもいつものハッサン節が炸裂した。 「今回一番自信がなかったのは5000m。以前は1500mのスピードがあって、私はスピード型だったけれど、今はマラソン練習に注力し

        「あんた、これで満足しないでロス五輪も出てきなさいよ」:サンドラ・ペルコビッチ(円盤投げ銅メダル)

          ドジャース番じゃなくてビジオ番だよ、と言い訳した話

           五輪期間中だけど、メジャーの話を少々。  パリに来る直前にブルージェイズの菊池雄星投手の登板を取材するためにトロントに行った。6月はドジャース取材が多かったので、ブルージェイズ取材もトロントも久しぶりだった。  菊池投手はトレードが濃厚とされており(先日アストロズへ移籍)、本拠地最後の登板になるかもしれないので、やっぱりこれは取材しないと、と思ってトロントに飛んだ。   番記者たちも選手もなんとなく元気がなかった。成績不振のブルージェイズは売り手に回るため、誰がいつトレード

          ドジャース番じゃなくてビジオ番だよ、と言い訳した話

          田中希実選手の五輪前のポイント練習を見に行った

           開会式の翌日、田中希実選手のコーチに「可能なら練習見学したいのですが」とダメ元でお願いしたら「いいですよ」と快諾いただいたので、バスに乗ってパリ中心部から20分ほどの場所にある街に向かった。  あいにくの雨だった。  指定された競技場は週末で閉鎖されていた。練習のために開放してくれるはずが、担当者に話が通っていなかったらしい。  どうしよう。  今日、ポイント練習できないかもしれない。  一回、宿舎に戻ろうか。 「柵を乗り越えましょうか」と提案すると、コーチが「いや、さす

          田中希実選手の五輪前のポイント練習を見に行った

          開会式、どう思った?とパリ在住の男性に聞かれたこと

           パリ五輪が開幕した。  開会式の日はあいにくの雨模様、しかも気温も低かった。選手がボートに乗ってセーヌ川を下ってくるという、なかなか斬新なアイデアだったけれど、そのアイデアを聞いた時にいくつか懸念が浮かんだ。 1)観客は高い金額を払って開会式のチケットを購入するのに、下ってくるボートを見るだけでは? 2)テロは大丈夫?  東京五輪の時に閉会式に行ったけれど、スタジアムで入場してきた選手を見つつ、横目でテレビで実際に流れてくる動画を見るというのはなかなか酷だった。しかも

          開会式、どう思った?とパリ在住の男性に聞かれたこと

          肺にやりが刺さる事故から復活した400m選手:イライジャ・ゴッドウィン

          「ちょっとどうしたの?」   ニューヨークグランプリのレース後、声をかけるとイライジャは顔を歪めた。  イライジャ・ゴッドウィン。  米国の400m選手で自己ベストは44秒61、東京五輪、世界陸上オレゴン大会ではミックスリレーや男子マイルリレーの代表としてメダルを取っている。  昨オフにプロ選手になったが、記録がいまいち伸びていない。ニューヨークGPも46秒35と「らしくない」レース運びだった。 「何があったの?」  そう尋ねると、ぽつりぽつりと答えてくれた。  「プロ契約を

          肺にやりが刺さる事故から復活した400m選手:イライジャ・ゴッドウィン

          走幅跳7mジャンパーのタラ・デイビスがセイコーGGPに出たい理由がかっこいい

           陸上ファンにはおなじみの(?)陽気な7mジャンパー、タラ・デイビスは5月のセイコーGGPに行きたくてたまらない。 「ねぇねぇ、セイコーに出たいのに女子走幅跳ないんだけど、出たいの。なんとかして〜」  両親や周囲の人も、必死のタラの様子に苦笑している。  いやーー、私に言われてもない袖は振れないし、私、そういった権利も何も持っておりませぬ。 「東京行きたいの?」 「ハンター(タラの旦那さん)がパラ種目に出るの!」  ハンターと一緒に東京に行きたいだけかなと思っていた

          走幅跳7mジャンパーのタラ・デイビスがセイコーGGPに出たい理由がかっこいい

          エンゼルスのフレッチャーと小声で会話したこと

           選手も1人の人間。あなたたちと同じように血が通った人間だから、モノや駒として扱わないでほしい。  そう教えてくれたのは東京五輪で女子砲丸投銀メダルをとったレイブン・ソウンダースだ。ミックスゾーンで試合のことを聞かれるのはいいけれど、他の時は普通の話をしようよ、と言われ、好きなもの、家族のことなどいろんな話をするようになった。相談事もする。ごくごく普通の友人のように。  大リーグでは選手は駒のように扱われ、選手の動向はGMや代理人に委ねられている。    エンゼルスからウ

          エンゼルスのフレッチャーと小声で会話したこと

          🇺🇦のマフチフのインスタ用写真撮影をしたら、変顔大会になった

           ユージーンのホテルでマフチフにばったり遭遇。 「インスタ用の写真を撮ってくれない?」 「いいよー」  最初はおすまし顔だったのに、なぜか変顔大会に。    結論。    変顔でも可愛い。

          🇺🇦のマフチフのインスタ用写真撮影をしたら、変顔大会になった

          ファイナル前日、コールマンは選手たちが帰った後も一人で黙々と練習していた

           ダイヤモンドリーグファイナル、男子100m、ドーハ世界陸上金メダルのコールマンが今季世界最高の9秒83で制した。  コールマンはドーハ世界陸上後に競技会外の抜き打ちドーピング検査を受けなかった(指定した場所にいなかった)ため資格停止になり、東京五輪には出場できなかった。  昨年のオレゴン世界陸上はワイルドカードで出場したものの、精彩のない走りで6位、今年のブダペスト世界陸上も5位でメダルに届かなかった。  プレッシャーの少ないレースではフォームの乱れもなく、とてもいいレ

          ファイナル前日、コールマンは選手たちが帰った後も一人で黙々と練習していた

          シファン・ハッサンが、明るくおしゃべりになった理由

           東京、ユージーン、ブダペストで何かと話題を振り撒き、ミックスゾーンでも楽しく陽気な性格を存分に見せてくれたハッサン。今でこそニコニコとメディア対応してくれているけれど、数年前まではミックスゾーンで取材拒否することも多かったし、話してもポツリポツリと一言ということも多く、正直、記者泣かせの選手だった。   ハッサンが変わったのはドーハ世界陸上以降。つまり、それまで師事していたアルベルト・サラザール氏がドーピング関連で資格停止処分になり新しいコーチについてからだ。  別人な

          シファン・ハッサンが、明るくおしゃべりになった理由

          東京五輪のトラウマを乗り越えて:女子ハンマーのディアナ・プライス(米国)

           試合後に選手に取材をするミックスゾーンでは選手はいろんな表情を見せてくれる。あふれそうな笑顔、怒りに満ちた顔、何が起こったのか分からないというような呆然とした表情で足早に立ち去る選手もいれば、涙でぐしゃぐしゃの選手もいる。  いろんな感情が渦巻く場所、それがミックスゾーンだ。  ちょっと遡るけれど2015年北京世界陸上でこんなことがあった。女子走幅跳で最終跳躍で米国のティアナ・マディソン(当時はバートレッタ)が7m14を跳んで、7m07の英国新を跳んだシャラ・プロクター

          東京五輪のトラウマを乗り越えて:女子ハンマーのディアナ・プライス(米国)

          世界陸上と大リーグとマーシュ兄妹。

           元NFL選手で現在は走高跳のコーチをしているランドール・カニンガム氏に以前こう言われた。 「いろんなスポーツを取材するのはいいことだ。深みが出るからね」    大リーグ取材を初めて、陸上との違い、それぞれの取材の良い部分、そうでもない部分などが見えてきて、とても興味深い。    違いだらけなのだけど、まず大リーグはハグの文化ではないのにびっくりした。  米国の陸上はハグに始まり、ハグに終わる。  まったく知らない相手、さほど近くない相手とはしないけれど、長くつきあいの

          世界陸上と大リーグとマーシュ兄妹。

          女子100mハードル 「メダルの価値を決めるのは自分」 ケニー・ハリソン(米国) 

           女子100mハードル、12秒20の自己記録を持つ前世界記録保持者のケニー・ハリソン、12秒12の現世界記録保持者のトビ・アムソン、東京五輪金メダルのカマチョ・クインなど群雄割拠のレース。それを制したのは、ジャマイカのダニエル・ウィリアムズ。好スタートを切り、12秒43で逃げ切った。2位はカマチョ・クインで12秒44、ケニー・ハリソンは12秒46で3位に入った。  ハリソンの世界大会の結果をみるとメダル常連になってきている。金メダルまではもう少しのところまで来ている。 2

          女子100mハードル 「メダルの価値を決めるのは自分」 ケニー・ハリソン(米国)