脚本 謝るくらいなら言わなきゃいいのに。
こんにちは、山野莉緒です。
今日は、演劇ユニット小雨観覧車の旗揚げ公演「謝るくらいなら言わなきゃいいのに。」の脚本を公開します。
小雨観覧車は、わたしと秦さやか、ふたりの団体でした。
わたしたちは高校の演劇部で知り合いました。同期は最初は17人で、卒業公演のときは14人でした。
次の年から2年間は劇団浅葱色として、大学生になったみんなと活動しました。解散公演は4人で打ちました。劇団員じゃなかったけど、虹雄やさくらやヒナやオーキド、みんなが一緒にいてくれました。
それからふたりになって、演劇ユニット小雨観覧車になりました。
高校3年の夏、さやちゃんと茂原の花火大会に行きました。幕総は自称進学校なので、夏休み前に文化祭があって、わたしたちはそこで引退しました。卒業した先輩たちの団体を中心に、よく大学演劇を観に行っていたので、わたしも、卒業しても演劇続けたいなと思っていて、帰りの電車で初めて人にしゃべったら、じゃあやろうよって、さやちゃんがその場で参加を決意してくれて、浅葱色ができました。
解散して、さやちゃんは学校のサークルで音響を、わたしは養成所でお芝居を続けてたけど、たぶん半年くらい、連絡は取ってなかったです。久しぶりに会って、ふつーにお酒飲んで、お互いに近況報告していたら、やっぱりあさぎの本が好きだから、食べていけなくてもいいから、もう一回やりたいって言ってくれました。わたしは養成所を辞めたばかりで、お芝居はもうおしまいと思ってたし、書きたいことが何も思いつかなくて、もう書けないと思ってたから、返事は少し待ってもらったけど、さやちゃんといるために、ほめてもらえるように、救えるように、この台本を書いて、それで、小雨観覧車ができました。
当て書きってパラレルワールドなのかなってこの頃思います。台本直してて、久しぶりに会えた気がした。
会いたい。ごめんねって言いたい。ありがとうって言いたい。話したいこといっぱいあるのに。
このお話は、「彼女の話」と「彼の話」の二軸で進みます。
ふたりがすれ違う、「彼と彼女の話」から始まります。立ち読みできますのでどうぞ。
予告編の映像もご一緒に。YouTubeチャンネルにはキャストインタビューも上がってます。みんながどんな風にいて、どんな風にしゃべったか、すごくよくわかると思うので、よかったら。
こちらも再掲してます。
出会って、一緒に雨宿りして、別々の道に消えていく、わたしと彼女と彼の話。
夏の匂いがします。お楽しみください。
「謝るくらいなら言わなきゃいいのに。」
山野莉緒
【登場人物】
五十嵐薫(いがらし・かおる)
半田旬(はんだ・しゅん)
クドーミチカ
朝倉和臣(あさくら・かずおみ)
朝倉美和(あさくら・みわ)
小熊千智(おぐま・ちさと)
「彼と彼女の話」
一
燦々と照りつける日射しに、道路から立ち上る熱気。道を挟んだ向かいに青々と茂る木々からは、蝉の合唱が響いている。
改札を出た和臣は、果てしなく広がる夏の景色に圧倒され、目眩に襲われた。堪らずジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩める。蜃気楼に霞む信号を睨みつけ、その先にある日陰を求めて、誘われるように、公園に足を向ける。
そよ風が吹くこの並木道を行けば、美和の勤める美術館もある。そう思うと安堵してしまう自分を軽蔑しながら歩いていると、ふいに女性の歌声が耳に入り、辺りを見回す。声のする方へ一歩踏み出すと、植え込みに遮られていたベンチが視界に現れ、そこに一人の少女がギターを抱えて座っていた。
彼女は同じフレーズを何度も歌っては止め、歌っては止め、繰り返している。和臣は何げなく隣に腰を下ろした。
薫 「あ、すいません」
薫は彼に気がつくと慌てて立ち上がり、ギターを肩から下ろす。
和臣 「あ、大丈夫です。すいません」
薫 「いえ、大丈夫です」
和臣 「いやいや」
薫 「あの、ほんとに」
和臣 「でも、あの、他に日陰ないですよ。座れるところ」
間。
薫は辺りを見回し、嘆息を漏らす。
薫 「ああ」
和臣 「あの、だから、俺も。すいません」
薫 「いえいえ。でも」
和臣 「あの、ほんとに大丈夫なんで。気にしないで、弾いてください」
間。
薫 「じゃあ」
和臣 「どうぞ」
薫 「すいません」
和臣 「いやいや。あの、暑いですね、今日」
薫 「ほんとですね。あの」
ふたり、互いにはにかみつつ、それぞれベンチの両端に腰を下ろす。
和臣、スマートフォンを取り出そうとポケットに手を入れる。すると何かの別の柔らかい感触がある。恐る恐る取り出して見るとそれは、夏の気温と彼の体温で溶けきったスニッカーズだった。
和臣 「うわ。溶けてる」
そんな彼を横目に、薫は遠慮がちに弦を鳴らし始める。しかし、旋律はどれも長くは続かない。
和臣 「あ、やべ」
間。
和臣 「まっず」
薫、思わず吹き出す。
和臣 「え? あ、すいません。うるさかったですか」
薫 「なんでもないです。すいません」
間。
和臣 「ん」
薫 「くっついちゃいました?」
和臣 「くっついちゃってますね」
ふたり、笑い合う。
薫はその後も何度か曲を奏でようとするが、思うようにいかない。ため息をついて、「空も飛べるはず」を弾き始める。鼻歌を口ずさむと、隣からも小声で歌が聞こえてくる。爪先で静かにリズムを取っていた和臣は、見られていることに気がつくと、照れながらふにゃりと笑う。
やがて曲が終わる。薫は決意のような、諦めのような息をひとつついて、ギターを下ろし立ち上がる。
薫 「じゃあ」
和臣 「あ」
和臣は会釈を返し、薫の姿が木々の向こうに消えるまで見送った。
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