カテゴリ短歌祭 家族短歌賞
こんにちは。蒼井杏です。
このたびは次世代短歌さんの企画、
第一回カテゴリ短歌祭、家族短歌賞にたくさんご応募くださいましてありがとうございました。
どきどきしながら一つ一つの歌を読み……、いま家族と暮らしている人も、かつて暮らしていた人も、これから暮らしてゆく人も、それぞれの小さな毎日の積み重ねの中でふとおこる感情、ゆらぐ気持ちを、丹念にすくいとった歌たちに、そして光を当てた歌たちに、心がゆさぶられました。
そして、その豊かさ、熱量、個々のベクトルの深さに、胸が熱くなりました。どれほどの家族のドラマが一つ一つの歌にこめられているのかと思うと、31文字から広がる言葉の空間の宇宙を思います。
今回、そのような身近で遠い家族についてさまざまな歌に思いを馳せながら選歌をさせていただいて、とても充実したひとときを過ごすことができました。ありがとうございました。
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●特選 子供らが不在の夜に濁点のごと酢の物に生姜をちらす 小仲翠太
前後の状況はわからないですが、不穏な感じ、屈折した感じが伝わってきます。もしかしたら生姜が好きではない子供らを、普段は尊重して、あえて使わなかった夕食を、なんらかの理由で子供らが不在の夜に、残された大人の食卓として、存分にちらす。その自由な喜びというには、「濁点のごと」の比喩が、ややブレーキをかけている感じ。相反する感じ、アンビバレントな感じでしょうか。
上の句の、「こどもらがふざいのよるにだくてんのごと」、の、濁点、そのリズム。それに対して下の句の、「すのものにしょうがをちらす」、の、清音の中の、しょうがの「が」の唯一の濁点。そのあたりの音の構成、響きも好きでした。
●入選 だし巻きをつくる機能が加わってこの春姉の名字が変わる 哲々
だし巻き。美味しいですよね。そしてなかなか上手くふわふわに巻いて作れない、ような。そんなだし巻きを「つくる機能」って、しかも「加わって」って・・・・・・。
どこかつきはなした、グレードアップした家電製品の紹介文のような上の句から、下の句の「この春姉の名字が変わる」という展開に、家族ならではの気の置けない関係と信頼といくらかの照れかくしのようなものを感じてぐっときました。きっと、姉おもいのご家族なのだろうな、と。
●入選 愛だって分かっていても嫌だったあの服はいま母の部屋着だ 梅木袱紗
「あ」と「い」のくりかえしの音が、読んで心地よいなと思った歌です。
そして「あの服」の具体的な描写がないのに、「母の部屋着」で妙に説得力のある感じ。「母の部屋着」でよくあるのは、子どもの体操服、ジャージかなと思ったりするけれど、「愛だって分かっていても嫌だった」とあるのだから、それらに母の愛を込めたやや時代遅れなワンポイントのワッペンや刺しゅうをつけていたものだったのするのでしょうか。あるいはやぶれた個所にもったいない精神ゆえにあてがわれた個性的すぎるアップリケとか? それとも母の趣味全開のピアノの発表会のドレスとか?
……今ドレスが母の部屋着となっている図を想像して、いろいろ、この歌の可能性とじわじわとくる読後感を味わいました。好きな歌です。
●佳作
どの歌も、手触りがあって、読み心地が良いのに、どこか屈折していたり、余韻が残ったり。後味がじわじわくる、そういう歌を選びました。
縁側に残った祖母の日記には私の帰省が記録されてた 奈々生ん
祖父母から愛されていた従兄弟より良い大学に入っておいた おざわ
「お嬢さん」「何が食べたい」「いつ帰る」翻訳アプリで会話する母 Anna.
入院をする朝握手した母の小さな熱がこの手に残る 花林なずな
シャンプーも4洗顔フォームも4それでも4人で暮らしています 菜々瀬ふく
八人で家族をやっていくために粗く潰した南瓜のサラダ 塩本抄
肩落とす息子の髪を泡立てて鉄腕アトムの髪型にする 亜佐里
「どこ行くの?」「俺も行く」までワンセットだから私はスーパーが好き 反逆あひる
父送り白猫送りミケ送り母を送って緑濃き庭 月硝子
妹はいつのまにやら生えてきてさも妹のようにとなりに 塩見佯
実家の日かじったトマトの後味がわたしの記憶をやはらかにする 山田 種
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