見出し画像

case-12- 入浴拒否と向き合う 〜その4〜

case-12-   入浴拒否と向き合う  〜その4〜

※スタッフ、関わった方の名前は全て私が便宜上適当につけた仮名ですので、ご安心ください。

総文字数3832(ちょい長いですが、このケースはこれで終わりです)


麻木さんのインシュリン注射は、最初のお泊まりの時は、わざわざ娘さんが仕事の合間に夕方ご来所されて、「お母さん、注射だよ」と言って注射だけして仕事へ戻られていた。

お仕事多忙で、母の介護もされている娘さん。しかも、わざわざ職場と正反対の場所に来るのだ。確かにそりゃ手間になる。こちらでできるならば、なんとかしたい。
最近のインシュリンは昔と違って針も使いやすいものに変わったし、ダイヤル回すだけだし楽。
だが、彼女は注射ですよと言ってすんなり腹を出してくれる可能性はゼロに等しい。──なんとか、麻木さんの腹部を5センチほど、15秒開放できる方法はないだろうか。

説明したって、「わたしは注射なんてしてないわよ!」と怒鳴る。いやいや、今娘さんきてましたよね??なんて通用しない。ヒートアップすると手がつけられないので、絶対に刺激しないこと。これはルールだ。
娘さんは「無理なら来ますので……」と何度も申し訳無さそうに言って帰られる。

勿論。この現状をどうにかしたいのはわたしだけでは無い。鬼のケアマネは家族に寄り添うのが仕事。大丈夫です、こちらで対応しますから(にっこり)なんて安請け合いしやがった笑。

お前やれよ、と言いたくなる。
インシュリンですよ、失敗した、針刺し事故ですよ?まあこのブラック企業は針刺しが起きたところで間違いなくもみ消すだろう。
それが小規模多機能。病院と施設とのグレーゾーン。
病院であれば針刺しと言えばすぐに感染症やら対応に追われる。勿論、保健所にも報告がいく(はず?)
ここは全てにおいてグレーゾーンだった。インシュリンの注射も介護職はやってはいけないが、自己注射の見守りや、看護師が介助するのはOKになっている。
本来、自己注射が原則なはずだが、もう1人の糖尿病の方も注射はできず全介助、麻木さんも娘さんに頼むか時間ずらすかして欲しいのだが、「お泊まり」となると注射をしないわけにはいかない。

注射もそうだが、服薬コントロールが非常に難しい方だった。実は今まで朝に18粒の薬を服用している方なのだが、これもお泊りとなると朝の担当が薬を飲ませることができずに、「葵さん、お願いします……」と泣きが入るのだ。
原さんが出勤している時は全く問題ない。(それでも「じゃあ飲めばいいんですね!」とたまにリミッターが外れて大声を出すことはあるが、すぐにはっと戻り「大きい声出しちゃったわ、恥ずかしい…」と自分で言う)

信頼関係が出来ている方でもたまに興奮する様子の彼女に、一介の看護師Aが果たしてどこまで頑張れるのか。
しかし、私は何としてもこのくそケアマネと、むかつく相談員をギャフンと言わせたい‼️この強い信念で麻木さんと関わっている。

世の中、仕事の出来ない看護師は多いし、全部ヘルパーに丸投げのクソみたいなおばさん看護師は多い。彼女らはそういう微妙な看護師としか対応していないからわたしを見ても「どうせすぐ辞めるだろう」とか、「ゴミ捨てしかしない看護師なんていらねぇんだよ」と前に働いていた看護師らを退職に追い込んだ。

わたしは、彼女らが抱く看護師に対しての気持ちを変えたかった。それが麻木さんの難しいケースだ。
男性ヘルパーさんらは私の能力を買ってくれて、「あんなに難しい人なのに、葵さんすげーな!」と両手をあげて喜んでくれ、学ぶ気持ちの強い彼らは「どうやったら俺でもお連れできますかね??」と言われた。
いやいや、学びたい気持ちはわかるけど、初歩に帰って。彼女は『女性』です。例えあなたたち男性陣と信頼関係が出来たとしても、知らない男の前で裸になれと言われて「はい」というドMはいないだろう。
まして、彼女は猛烈にプライドが高く、失禁は絶対に認めない。
それを濡れてるから変えましょうなんて言った日にはそりゃあ雷が落ちる。他にもお客様がいるのだ。そんな、しらない奴らの前で辱めを受けた、という記憶は彼女の中に根強く残る。

例え忘れたとしても、毎度毎度忘れる嫌な記憶を植え付けていくことが果たして良い関わりなのか?
違うだろう、だからわたしは彼らにお話をして楽しく過ごせるよう関わってください。他は女子で何とかしますから、と伝えた。そうでなければ、同じ女としてつらい。

さて脱線したが、ケアマネが安請け合いしたインシュリン注射をわたしもあっさりと引き受けた。「はーい、やりまーす」と。
その様子を不安そうに遠くから見ていたケアマネの視線はくるが、わたしの対応は変わらない。
遥か昔の相撲取りの話を永遠にしつつ、毎度恒例左手のマッサージ笑。
マッサージをすると彼女の機嫌はまあまあ良くなる。タッチングの支援だ。相変わらず私の話はガン無視だし、どうやって持っていこうかな〜なんて思いつつ、「明日の天気は晴れみたいですねー」「どうでもいいわ!」と怒られることを繰り返して5分後。

この関わりが果たして良いのかなんてわからないが、全く話がとんでもなくズレても麻木さんの機嫌が良くなると速攻でうまくいくやり方なのだが、
「麻木さん、なんだかね、血糖値がちょっと高かったらしいんですよ」
「しらないわよ、そんなこと!」
「こないだお医者さんが麻木さんの血をとった時に、血糖値がこのまま上がると美味しいもの食べられなくなるから、注射しましょうって言われたんですって」
「だから。しらないって!」

ああやばいヒートアップしてきた。

「なので、注射して血糖値下げるのでお腹ちょこっとだけ失礼しますね」

ここで一言。

アルツハイマーの方に具体的な説明はNGである。

簡単に目的だけ伝えること。それも、限りなく完結に!


初回は、こんな怒られながらも、渋々腹を出してくれた麻木さんにインシュリン注射は成功した。大量の汗を吹き出しながら、わたしが行ったケースに、遠くから見ていたケアマネがエア拍手してうなづいて褒めてくれた。

やっと、この鬼ケアマネがわたしを認めてくれた瞬間だった。


そして、それから週一回彼女のお泊りが始まり、娘さんは「あの気難しい母に注射できるなんて!」と涙を流して喜んでくれた。娘さんも家と介護、仕事とへとへとだったのだ。週一度小規模多機能で泊まることで、娘さんの負担も減り、スタッフもスキルアップし、わたしも少しずつだが関わり方を覚えていった。

毎日怒鳴られることに慣れたせいで、変な方向に進んでしまったが、中にはとても可愛らしいお客様もいらっしゃったので、そこに癒しを感じての仕事だった。

そしてわたしは一年半勤務した小規模多機能を辞めた。理由は次のケースに書くが、現在の介護会社の在り方について疑問しかなかったからだ。
わたしは別の記事でも書いているが、左肘の粉砕骨折で骨が3割折れたままだ。認知症の方に全力で捻じられると再起不能になるのもしばしば。毎日風呂介助と、病棟あがりで認知症理解ない二日酔いとかの使えない派遣看護師が来るとそいつのフォローもしなきゃいけないし、血圧測れませんと泣き疲れて風呂の後に看護師業務もしなきゃいけない。夕方には送迎に出るのでお泊りの方の荷物チェックに薬管理。

なのにだ。わたしの給料はヘルパー兼務して、たったの525円しか変わらないんだ。
時間外も20時間以上働いてやっと加味される(それまでは安い見込み残業手当が入るものの、基礎給料が14万なのでクッソ少ない)

あまり金の話はしたくないが、流石にこんなに働いて情けなくなった。派遣看護師の方が楽して金もらってるのに、なんでわたしだけこんなアホみたいに働いているんだ?デイサービスに行きたい。毎日楽しくお客さんと笑って遊んで仕事したい。

そんな思いが左腕にも響き、上長にお願いして半年後に下のデイサービスにおろしてもらった。


辞めると言った時に、一番悲しんだのは奇しくも麻木さんと娘さまだった。
麻木さんは覚えていないだろうと思いつつ、一応わたしは全員にやめるんです、と話したところ、彼女は珍しく私の顔をみて「やめるの?」と言った。
想定外の反応にえ?となったが、それはほんの一瞬で、その後はいつものようにテレビを睨みつけていた。
彼女はわたしが辞めると話した後から持病が悪化して入院生活になってしまったが、その後に送迎で娘さんにお会いしている原さんに呼び出しされ、娘さんから心暖かいメッセージとタオルをいただいた。






○○さんがお辞めになると聞いて本当に悲しいです。私の母と真正面から向かい合ってくださり、ここまで心ある看護をしてくださったこと、本当に感謝しかありません。正直母は持病も多く、施設では受け入れてもらえなかったので、こちらの場所で泊まれるようになり、職員の方々とも信頼関係を持ち、お風呂まで入れてもらえて、私の仕事も楽になりした。家でも家である事を忘れて帰らなきゃと言うことがあったりするんですよ笑。それってすごいことですよね。
インシュリンが始まった時も私でも怒られることが多く、そんな中○○さんが出勤されている時は私も安心していたので、全て含めて感謝です。

どうか、新しい場所でも○○さんの笑顔を忘れずにお仕事されてください。
本当にありがとうございました。気持ちですが、良かったらお使いください。

追伸♡母の服をいつも褒めてくださったこと、すごく嬉しかったです!あの人、昔からおしゃれなんです。

いいなと思ったら応援しよう!