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case-13- それでも受け入れる現場 〜その1〜

case-13-   それでも受け入れる現場   〜その1〜

※スタッフ、関わった方の名前年齢は全て私が便宜上適当につけた仮名ですので、ご安心ください。



前回の記事で認知症になりやすい職種を挙げたが彼女ー元橋さんもその1人だった。
60歳でまだ若いのにアルツハイマー型認知症。酒乱の夫、息子は看護師とヤンキーと中学生というなかなかハードな家族構成。
彼女が認知症になったのは酒乱の夫が影響しているのだろうが、最愛の息子が遠い所へ就職したので心が壊れてしまったのかも知れない。
母の認知症に驚いた看護師の長男は、職場近くに寮を借りて住んでいたのに、母の為に毎日1時間以上実家へ帰り面倒をみつつ看護師としての仕事をこなす、ということをされていた。

彼女を家に置いておくと酒乱の夫と喧嘩になるので引き離す為に夕方まで毎日デイサービスに通って欲しい、とのオーダーで、彼女は実に年末年始以外、ほぼ丸1年休まずにご来所された。

わたしは彼女と関わった当時は笑顔の素敵なおばちゃんだなあと思っていたが、3ヶ月もしないうちに、彼女は豹変した。あるドライバーさんに恋をしてしまい、彼が出勤するとずっと付きまとう。
それくらいならば良いが、ドライバーさんと他のお客様が楽しそうにお話をしていると、「わたしの男を取らないで!」と殴り掛かる。
勿論、元気な方が比較的多いデイサービスだ。取っ組み合いの喧嘩を止めたのは1度や2度ではない。
ある日には「元橋さんと田中さんは配席NGね」とどんどんNGのお客様が増え、日に日に元橋さんは居場所をなくした。
息子さんのフォローで入れていたお風呂もついに入れなくなってしまい、こちらに「デイサービスで入浴させてください」とオーダーがきたものの、精神科実習を思い出させる光景だった。

case12でも記載したが、アルツハイマーの方は顔の記銘力が物凄く強い。なので基本1度や2度失敗すると「あいつは敵!」と認識する。
お風呂介助に入った若いスタッフは2回噛みつかれ、お風呂NGになり、ベテランのおばちゃんですら噛まれそうになり取っ組み合いになった。
元橋さんはまあまあ若いし、元ヘルパーだ。どっから出るのか分からない理性の切れた力でおばちゃんスタッフの首を絞めたので、流石のわたしも止めた。
たったその1回止めた行為がわたしを敵と認識し、彼女はそれから薬は拒否、殴り掛かる、他のお客様と喋っていると大好きなドライバーの写真を返せと蹴りを入れてくる。

あの、すいません。わたし、この時はまだここの常勤じゃないんですけどと突っ込みたい。
実は、クリニックとのダブルワークで働いていたデイサービスなので、ただの単発バイトなのに毎週日曜日に来るから覚えられており、蹴られたり唾をはかれるのだ。
あまりお客様と関わらない相談員からは「あなた、何やったんですか?」と不審がられたが、何もしていない。
むしろ、首締められてマジでおちかかっていたおばちゃんを助けたんで、それ見てたよね?あなた、あの時あの場にいましたよね!?と言いたくなった。

結局、わたしが日曜日元橋さんに関わっても薬を飲ませることが出来ないので、毎度相談員に頼んだ。
血圧もひどいと測れない。むしろ血圧は別の派遣看護師でも厳しいそうで、彼女が大好きなドライバーさんに測ってもらうことも多かった(手首に巻くだけなんで……)

ああ、自分の仕事が出来なくて情けない。なんで彼女とこう上手く行かないんだろう。これじゃあバイトで行ってるのに無能扱いされんじゃん。

毎週日曜日、近所にあるこのデイサービス募集は本当に有難かったし、元橋さん以外の方とは全く問題なく仕事をしていた。なので、特に文句を言われることもなかったのだが、とある日。

お気に入りのドライバーさんがお休みで、彼女は朝からヒートアップしていた。
2人のお客様と殴り掛かる勢いで喧嘩。

「お前うろちょろうざいんだよ!」

「はあ!?何だってててててて!?(言語にも障害が来ていたので、彼女は不思議な言葉を話す)」

「ほらみろ、また変なこと言ってる。気持ち悪い!」

「悪いっていった!悪いっていったなあああああ!!」

ここで最初に文句を言ったAさんの首をしめる元橋さん。フロアにいたのはわたしと、事務所にいる相談員。こないだ私にあなた何やったんですか?と言ってきたこの女は面倒事は絶対に関わらないので動かない。

こりゃあやばいと思ったわたしは普通に近づいて元橋さんを引き離した。すると矛先は当然私にくる。わたしの頭をバンバン殴ってきて、背中に伸びまくった爪をたててくる。いたいってもんじゃない。こちらは抵抗できないんだよ。

腕は引っ掻いてくるし、子どもが暴れるよりもタチが悪い。相手は元ヘルパーだ。無駄にパワーは強い。

「元橋さん、暴力はダメじゃないですか」

「うるさい!おまえ嫌いだ!シネシネシネシネシネ!」

そういうワードはあるんだなあ。と情けない気持ちになり、ふと遠方まで母の為に職場と介護を往復する息子のことを思った。
あまりにもヒートアップしてどうしようもない所で物凄いため息をついて出てくる相談員。そんで何かするでもなく、やっと事務所に連れていき、他のお客さんと離すという対応を取ってくれた。最初っからそうしろよと心の中でぼやく。

わたしはこの人の息子が可哀想だなんて絶対に言わないし思わない。

彼女は、本当にこちらがおかしくなるくらい大変だった。
なんでここまで対応して全否定されなきゃいかんの?と全てにおいて突っ込みしかない。そして悪いのは彼女を引き受けたアホな職場上長であり、金のことしか考えていない会社が悪い。
デイで引き受けるレベルがあるはずなのに、それを対応するスタッフのいないこの場所で引き受けるのはとても無理だった。

失禁した時は3人がかりでリハパン交換、お風呂は最後に3人がかりで無理やりいく状態。「ぉぉおおお!やめろおお!ころされる殺されコロコロコロコロコロコロ!!!」
という気味の悪い呪文のような咆哮が風呂場から聞こえてくるのだ。

そこは認知症デイサービスではない。1部の人達は煙がって、「あんな変な人が居るデイサービスに行ってるなんて近所の人に言われたくない」と5名ほど一時期『お休み』という形で辞められた。

悪いけど、なんでこんなに大変な人をデイサービスで面倒みてるんだ?
家族の介護負担軽減なら施設じゃん。デイサービスは活動をする場所で、全てレスパイト目的で毎日来られたらこっちがしんどいわ。

生傷は増える一方なのに、会社側から何も言われず、もみ消された。確かに契約条件?にはそういう認知症の方と対応した怪我云々は書いていないし、労災にもならない。

毎度毎度生傷を増やしたくないので、日曜日固定で仕事させてもらっていたが辞めようかな、と思い別の場所も探したが、日曜日営業しているデイサービスというものがあまり近所にはなく、お金の為に仕方なく働いた。

有難いことに、会社側も理解を示したのか、私が元橋さんに関わらなくても良いことになり、もし喧嘩になっていたらスタッフを呼べと言われた。
そりゃそうなんだけど、この会社、呼びたい時に誰も居ないんだよ。
それに、パソコンと8時間にらめっこしてるこの相談員、何回も呼んでんのに、フロアに出てきたことなんて今まで1度もないよ。

バカバカしい。なんで私がトラブル起こした扱いになってんだよ。ふざけんな。
関わらなくていいって言うから無視。他のお客様と喧嘩している光景はしょっちゅう目に入ったが、関わるなと言われたまま行動した。
そしたら今度は「なんでお客様同士で揉めてるのに止めてくれないんですか?」と文句を言われる。
さすがに矛盾した言い方にクッソ腹が立ったので、バイトだけど、「以前一切関わらなくていいと言われたので何もしておりません。先程呼びましたけど、風呂場側はスタッフが忙しくて動けませんし、〇〇さん(相談員)しかいませんよね?」と言った。
実際、フロアはわたしだけ、風呂に3人、他は送迎で不在。あとは事務所に相談員だけだ。






ちょっと長いので彼女が移動した先をその2へ

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