官能ショートショート「お医者さんごっこ」

「はい、次の方どうぞ」

「こんにちは……お、お願いします」

「えーと……竹内みなみさん?」

「あ、はい……えっ!」

「あっ!」

「ケ、ケンちゃん? もしかして、あのケンちゃんっ?!」

「え! みなみちゃん? あのみなみちゃん!」

「そうよ、旧姓朝岡みなみよ! 野球部のマネージャーの。ケンちゃん、本当にあのケンちゃんなの?」

「ああ、春からこの大学病院に来たんだ」

「なんだあ、こっちに帰ってきてるんなら言ってくれればいいのに、中学卒業して以来だから15年振りくらいかしら……」

「ごめん、来たばっかりで何かと忙しくて……」

「へえー、でも、あのケンちゃんが医者にね……」

「みなみちゃんは結婚したの?」

「う、うん……去年ね……」

「ふーん、そうなんだ……おめでとう……じゃ、立て込んでて、長話もなんなので、始めますね」

「ちょ、ちょっと待って……ってことは、今日はケンちゃんが私を診るの?」

「そうですが、なにか問題でも?」

「なにか? って……えっ! ほかに婦人科の先生いないの?」

「今日は、お産が重なって皆出払っていて、看護士さえもいません。私ひとりです」

「じゃ、帰っていい? また違う日来るわ!」

「帰ってもいいですけど……えーと……今、予約入れると二週間後くらいになりますが……よろしいですか?」

「くっ……」

「どうしますか? 竹内みなみさん?」

「フルネームで呼ばないでよね! それに、なに、急に他人行儀みたいな話し方になって! 幼なじみなんだから、普通に話していいわよ!」

「もう診察に入りますので、規則で診察に私情は挟めないことになっています。ご了承ください……で、どうします?」

「もうっ、しょうがないわ、お願いするわ、ただし、ケンちゃんは目をつぶって診てよね!」

「あの……目をつぶったら診れませんが……あと、私はケンちゃんではなくここの医師です。できれば先生と呼んでください」

「ああんっ! もうっ、いいわ! 煮るなり焼くなり好きにしてっ!」

「そうですか……では、あらためて訊きますが……今日はどうしました?」

「言うんですか?」

「ええ、当然です」

「えー、その、あの……か、か、か……いんです?」

「は? よく聞こえませんでした。もっと大きな声で話してくれますか?」

「か、かゆいんです!」

「かゆい? どこがですか?」

「あ……こが……」

「ん、よく聞こえませんでした、もう一度」

「あそこが! かゆいんです! これで満足か!」

「あそこがかゆいと……」

「書くな!」

「問診票ですから、書かないと……」

「具体的にどこら辺がかゆいんでしょう?」

「言うのか? それを私に言わせるのか?! セクハラで訴えるぞ!」

「勘違いしては困ります。ここは病院です。患者さんから症状を訊かないことには診れませんので」

「もうっ! 入り口の、左側のビラビラの内側!」

「小陰部の左側の内側、ですね」

「どこまで私に恥をかかす!」

「結婚なさってますか?」

「さっき言ったでしょう!」

「さっきのは個人的にです。今は問診票に従って訊いています」

「し、て、ま、す!」

「セックスの経験は?」

「はあ? なんでそんなこと、ケンちゃんに言わなきゃならないの!」

「ですから、私はケンちゃんではなくて、ここの婦人科医です。それに経験があるのとないのでは検診の仕方が違ってきますので」

「もうっ! イ、エ、ス!」

「経験有り……と」

「いちいち言うな!」

「頻度は?」

「頻度ってなによ?」

「セックスの頻度です。週に何回くらいですか?」

「週に何回もするか!」

「じゃ、セックスレス……?」

「違う……わよ……言わなきゃ……だめなの……?」

「はい、問診ですので」

「しゅ……に一回くらい……」

「は? 一日に一回くらい?」

「ケンちゃん、わざとやってるでしょ?」

「いえ、竹内さんがはっきりしゃべらないので、訊き返しただけです」

「もうっ! 週に一回くらい! ああっ、もうっ!」

「週一と……」

「(診察終わったら殺す……)」

「最後にしたのはいつですか?」

「なにを?」

「セックスです」

「ホントに、ホントーに、そんなこと問診票に書いてある?」

「あります。とても大切なことなので」

「もうっ! きの……う……」

「は? よく聞こえませんでしたが」

「き、の、う!」

「昨日ですか……ふっ」

「いま、ふっ、って笑っただろう!」

「笑ってません……。き、の、う、と……」

「いちいち復唱するな!」

「出産の経験は?」

「ありません」

「そうですか」

「かゆみは、いつからですか?」

「4、5日くらい前から」

「なにか思い当たることは?」

「えー……」

「なにか?」

「えー……多分……」

「多分?」

「激しく……しすぎた……のかも……」

「激しく? 何をですか?」

「エッチ……」

「ひとりで、ですか?」

「ちがうわいっ! 旦那と!」

「旦那さんとしたとき、具体的に何を激しくしたのですか?」

「ノーコメント」

「困りましたね……何か道具を使いましたか?」

「それ以上は、弁護士を呼んでください」

「わかりました……。 じゃ、竹内さんは、4、5日前から、かゆみがあって、そのかゆみは、旦那さんとしたときに、なにか激しい、人に言えないことをしたのが、原因らしい、と言うことですね?」

「くっ……そ、そうです……」

「にもかかわらず、昨日もしたと……」

「くっ……そう……です」

「ふっ……」

「今、また、ふっ、って笑っただろう?」

「いえ、ちょっと鼻が、かゆかっただけです。いいでしょう。とりあえず、診てみますね。じゃ、そのベッドに横になって下着を脱いでください」

「うっ……やっぱり見るの? ケンちゃ、いや、先生……?」

「ええ、見ないことには診断できませんので」

「かゆいんだから、かゆみ止め、出すとか、安静にしていれば治ります、とかないの?」

「竹内さん、もしですよ、もし、重大な病気にかかっていたらどうします? そんなことになったら、何も診ずに患者を帰した私も責任が問われることになるんですよ」

「わ、わかったわよ……もう、同級生の男の子に裸見せるなんて……まったくもう……あっ!」

「なんですか?」

「なんでもないわ……」

「じゃ、下だけ脱いでください」

「わかったわよ、もう、パパッと見て、パパッと終わらせてね! あんまりジロジロ見ちゃだめだからね!」

「ちなみにご希望でしたら、胸の触診もしますが」

「させるか!」

「カーテンの仕切り要りますか?」

「当たり前じゃない! 要るわよ!」

「じゃ、脱いだら、そのカーテンの向こうから下半身だけ出してください」

「もう、わかったわよ! 早くしてね!……ほらっ!」

「はい、じゃあ、膝を立ててください……はい、そのまま脚開いて……全力で隠しますね。手をどけてくれませんか?」

「もうっ! これでどうだっ! まいったかっ!」

「まいったか、と言われても…………………………」

「なんか言えっ! いや、言うな! 何も言うな!」

「じゃ、診ますねえ……力抜いてくださいねえ……」

「もう、わかったでしょ? 名医だから、ちらっと診ただけでわかったでしょ? もういい?」

「よく見えないのでペンライト点けますねえ……」

「なまなましくイメージできることを言うな」

「ちょっと触りますねえ……」

「あっ、いやっ……」

「ああ、ここですね、炎症していますね……はっ……これは……」

「え、なに? どうしたの……?」

「ちょっと中の方も見てみますね……ちょっと器具入れますね……ヒヤッとしまーす……はい、広げまーす……」

「やっ……あっ……あっ……」

「こ、これは……」

「え、どうしたの? 先生、そんなにひどいの?」

「いえ、軽い炎症です。中は大丈夫でした」

「思わせぶりな言い方すなっ!」

「じゃ、今日はお薬を塗っておきますね。あと念のため抗生物質も出しておきます。今度はあんまり激しくしないでくださいねえー」

「余計なお世話……ちょ、ちょっと、どこ触ってんのよ!」

「お薬塗っていまーす。動かないでくださいねえ」

「ちょっと、あっ……ねえ……あっ……ケンちゃん……覚えてる?」

「ケンちゃんではなく、先生……」

「いいから聞いてっ!」

「……」

「ねえ、覚えてる? 小さい頃、ケンちゃんとお医者さんごっこしたの……」

「……飛び火すると悪いので、念のため反対側にも、塗りますね……」

「あっ、ちょっ……幼稚園の年長のときよ……あっ……」

「……念のため、上の方にも塗りますねえ」

「ちょっと、そこは……あれは幼稚園の帰りだったわ……あっ……」

「そうでしたね……」

「今と同じように……あっ……ケンちゃんがお医者さんの役で……やっ……私、今みたいにケンちゃんに見せたわ……」

「そうだね……みなみちゃん……ずいぶん、成長したね」

「どこを見て言ってる、どこを? ……ちょっと、いつまで……あっ……なんで、あんなことしたんだろう? 覚えてる?」

「覚えてないの? みなみちゃん……」

「うん、ぼんやりとしか思い出せない……やっ……」

「そうなんだ……」

「あっ……ケンちゃんは覚えてるの?」

「じゃあ、約束したことも覚えてないんだ……?」

「約束?」

「うん、約束」

「なんか約束……したっけ?」

「……ちょっと、ひどいところを見つけたので、念入りに塗りますねえ」

「あ、ちょっと、そこっ……いやっ……ああっ」

「あんなに約束したのに……」

「いや、そんなに強く擦らないで……あっ……」

「覚えてないなんて……」

「ああ、だめっ、ケンちゃん、だめっ、そこだめ!」

「だから結婚したんだ……」

「あっ、やっ、中は、だめっ!」

「はい、中も念入りに塗っておきまーす」

「ああっ! いやっ、ケンちゃん、そんなに奥っ! やめっ!」

「……おまけに旦那さんとエッチばかりして」

「はんっっ! ああっ、だめっ!」

「みなみちゃんの……ばかっ……」

「いやっ! あんっ! ああっ、いっ! イッちゃう! ケンちゃん、イッちゃう!」

「ばかっ……ばかっ……ばかっ!」

「ああっー! イっちゃうぅー! イクぅーっ! イッちゃうってばーっ! いあああぁぁっー!」

「はい、お疲れ様……あとはフキフキして、終わりですからねえ」

「はっ……はっ……はっ……ばかっ、ケンちゃんの、ばかっ!」

「あとは、来なくて大丈夫です」

「私、ケンちゃんと、結婚の約束したの?」

「うん、そうだよ……」

「ケンちゃん、ごめんなさい……ケンちゃんが、そんなにも、私のことを想っていたなんて……」

「いいんだよ、もう、昔のことだから……子どもの頃の約束を信じた俺が、ばかだったんだ……」

「ケンちゃん……」

「でも思い出すなあ、覚えてる? 裏山の神社の裏だった……みなみちゃんが恥ずかしそうに……」

「ちょっと待って、裏山の神社……?」

「そう、裏山の神社だった。ひどいなあ、そんなことも忘れたの?」

「違うわよ、空き地のコンクリートの土管の中だったでしょう?」

「コンクリートの土管の中?」

「そうよ、絶対そうよ」

「あっ!」

「なによ?」

「裏山の神社は……ミヨちゃんだった……」

「ゼッテー□す!」

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