「頑張れない姉」と「努力で夢を叶えた弟」
あなたが心の中で
ずっと許せていない人は誰なの?
今から3年前、
そんな質問を受けた。
私の口から出た言葉は
「自分」
だった。
自分が「自分」と答えたことにゾッとした。
私は自分のことを許せない。許してあげられない。
それを自覚した瞬間だった。
一瞬にして血の気が引いて、鳥肌がたった。
大嫌いな自分と
私は学生のころから自分のことが大嫌いだった。
社会に出てからはそれが顕著になった。
怠惰な自分、頑張れない自分、逃げてしまう自分。とにかく自分のなにもかもが嫌いだった。
そんな自分は許せない。許してあげられない。
もっと頑張らなくちゃ
私の努力が足りないんだ
逃げることは負けだ
頑張り続けることができれば、私は私を好きになれるはず。
まだ足りないんだ。
もっともっとやらなくちゃ。
そうやって知らず知らずのうちに自分を追いこみ、気付けば病気になっていた。
夢を叶えた弟と、姉の私
あなたは誰に認められたら
あなたのことを許してあげられるの?
次にその質問を受けた私は、
1つ年下の弟の名前を答えた。
次の瞬間、涙があふれた。じゃぶじゃぶと溢れる涙で、私は溺れてしまうかと思った。
弟は小さい頃からやんちゃだった。表では書けないが、それなりの悪さもしていた。
そんな彼は、私より偏差値が20低い高校にギリギリ入学し、その後先生と喧嘩をして中退した。
当時17歳の彼は、ひょんなことがきっかけで英語も喋れないのに単身で海外を周り、「貧困国を救いたい」という夢を掲げて帰ってきた。
「今の自分じゃ力が足りない」
そう言って、帰国後は猛勉強をしてめちゃんこすごい大学に入った。修士号か博士号かはわからないが、とにかくずっと勉強を続けて、そのまま海外で仕事をはじめた。
今は会社を作ったりなんやかんやしながら過ごしている。
彼の這い上がりを、私はずっと横目で見ていた。
「夢は叶う」
「努力をすれば必ず叶う」
それを証明した男だった。
かっこよかった。
かっこよすぎた。
目の前に「努力で夢を叶えた人」がいる。
”がんばれば、夢は叶う”
そう思った。
私の夢。
それは、
自分を大好きになることだった。
怠惰な自分、頑張れない自分、逃げてしまう自分
そんな大嫌いな自分とはおさらばしなければ
私は私を好きになれない。
だから、
もっともっと頑張ることにした。
頑張れば
私は私を好きになれる。
努力し続けたら
それが叶う。
そう思ったのだ。
でも、頑張れば頑張るほど
私は私を苦しめる結果となった。
自分の理想と現実のギャップが苦しかった。
頑張れば頑張るほど苦しくなっていく…
でも頑張らなければ私は私を好きになれない…
もうぐちゃぐちゃだった。
そんな私はいつからか「弟に認められたら自分は頑張ったと思えるのでは?」と考えるようになった。
なにを認めてもらいたかったのか、
それはわからない。
だけど、これだけ頑張ってきた弟に認めてもらえれば、私は「自分はもう頑張った」と自分を許せる気がして。
弟に認めてもらえさえすれば、自分のことを大好きになる、という私の夢が叶うと思ったのだ。
溺れるほど泣いた日から
弟に寄せている自分の思いを知ったあの日から、3年がたつ。
今はずいぶんと「頑張らない自分」でも生きていけるようになった。でも、つい頑張ってしまう自分もいる。頑張らなければ不安になってしまうこともある。
でも、
頑張らない自分も
つい頑張ってしまう自分も
そんな自分に気づけるようになった自分も。
全部ひっくるめて”自分”で、
私はそんな自分のことが大好きでいられている。
そう思えるようになったのは、「そもそも私が頑張ることと、弟が私を認めることはイコールではないのでは?」と思ったから。
私を認めるとか許すとか、弟はそんなこと考えてもいないはずだ。
そもそも「頑張れ」とも言われてないし「お前のことは認めん」とも言われてない。
勝手に私がそうしていただけ。
弟は私がこんなふうに思っていることをもちろん知らないし、仮に知ったとしても「なんやねんそれ」と笑い飛ばされそうである。
自分を許すということ
私は「自分を認める」とか「自分を許す」という状態がずっとわからなかった。
いろんな人が「自分を認めてあげてね、許してあげてね」と口を揃えて言っているけれど、意味がわからない。
そんな優しい世界あるかよ、と不貞腐れてた。
今は思う。
自分を認める、許す、と言うのは
それはただ、そういう自分がそこにいることを知ることなのだと。
頑張れない自分
つい頑張ってしまう自分
弱い自分
強くいようとする自分
どんな自分に対しても、「こんな自分もいるんだな〜」と認識すること。
頑張れない自分はダメなんじゃない
頑張れない自分がいるのだ。
そして頑張ろうとしている自分がいるのだ。
ただ、それだけの話。
ただ「そんな自分がいる」ということなのだ。
*
今でも弟の仕事の進捗を聞くたびに、私はいつも泣きそうになる。どれだけの努力を積み上げてきて、今の彼があるのだろうと。
かっこよくて、眩しすぎる、そんな自慢の弟なのだ。
私にはきっと真似できない。それがたまらなく悔しくなることもある。でも今は弟と同じように、がんばろうとは思わない。「そんな私もいる」のだ。
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