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春のにおいと縁

春のにおいがする。

朝外を歩いていると身体がうずうずしてきて、ついついマスクを外してしまう。思いっきり吸い込むと、ふんわりとあたたかなにおいがした。春だ。花粉やウイルスの脅威もこのいいにおいで帳消しにしてしまいたくて、深呼吸を繰り返す。

においの感覚が一致する人とは、相性がいい気がする。

先日友人と歩いていたときのこと。「春のにおいがするね」と言ったら彼女は、「小学校の、桜が満開な入学式、みたいなにおいだね」と返してきた。

桜吹雪と、ほんの少し砂の感じが混じった空気、パステルのワンピース。自分と同じ情景が頭に浮かんでいるなんて。びっくりしすぎて思わず、彼女の目を見つめてしまった。彼女と同じ入学式を経験したことは、一度もないのに。

夜、旦那と近くのコンビニへ行こうと家を出た。「キャンプ場みたいなにおいがするね」と言ったら、「わかる。早朝の、草木と露と土の感じ」と、旦那。

ああ、そうなんだよなぁ。太陽が昇りきる前の緑の中にある、独特な空気。もう久しくその場を体感していないはずなのに、思い出すその感覚を、共有できるなんて。

嗅覚は、記憶を司る前頭葉に直接作用するそうだ。五感の中でもおそらく初期の方に出来たであろう、より本能的な仕組みだからこそ、古い記憶もよみがえりやすいらしい。においによって良し悪しを嗅ぎ分け、身の危険を察知し、あるいは好意を抱く。

幼い頃に近しい出来事を体感し、それを心地よい、好ましい記憶として身体が覚えている、って、なんだか不思議な縁を感じてしまう。出会うべくして、出会ったのかな。

春のにおいと共に記憶に残る、また新たな縁が出来るといいな。

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