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スーパーで出会ったおかあさんに、何もできなかった話

仕事帰りにスーパーに寄り、20%オフになった美味しいお惣菜をいくつかカゴに入れて、レジに並んだ。お惣菜売り場に近いレジは、晩酌用缶ビールやお弁当をカゴに入れたスーツ姿の男性を中心に、ちょっぴり賑わっていた。そんな状況でも、レジ待ちの床には各々が並ぶ位置を示すテープが貼られていて、ソーシャルディスタンスが保てるよう配慮されていた。

私の前には、5歳くらいの女の子を連れた女性が並んでいた。列が動いてひとつ前の位置に移るとき、そのおかあさんは床に置いていた買い物カゴを足で蹴って進めたのだ。びっくりして二度見してしまって気付いたのだが、おかあさんは前に小さな赤ちゃんを抱えていた。

赤ちゃんを前に抱えているから何度も前にかがむのが大変なのか、カゴが重たいからなるべく持ちたくないのかな、と思って、「持ちましょうか?」と喉まで出かかったところで、床に貼られたテープが目に入った。

「人と人が接触しないように」と言われている今、誰かに近付かれるなんて相手は嫌がるかも。そう思ったら、喉元まで出かかった声はそこで引っかかって止まってしまった。

結局、声を掛けることも手を貸すことも出来なかった。おかあさんはレジ前までカゴを足で進めて、最後はよっこいしょ、と自分で持ち上げてレジ台に乗せていた。

順番が前後だったから、レジ後に荷物を詰める場所では向かい合わせだったのだけれど、おかあさんは疲れた顔をしていた。おかあさんから「ぼーっとしてないであなたも入れられるものは入れてよ」と言われた女の子は、カゴからマイバックへ黙々と詰め替えていた。おかあさんは重たい買い物バックを持ち、女の子は空になったカゴをさっと戻しおかあさんのハンドバックを黙って持って、2人(と赤ちゃん)は家に帰っていった。

帰り道、何か出来ることはなかったかなぁ、と考えたけれど、今の私には何も思いつかなかった。少しでもあたたかな気持ちを届けるには、どうしたらよかったんだろう。もちろん、相手は望んでいないかもしれないけれど、それを確認する術もない気がする。

いつかの未来にこれを読み返す私は、名案を思い付くかな。これを読んでくれたどなたかが、ヒントをくださるならとっても嬉しい。

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