ふへらふへら #3【連載小説】
生まれる時代によって異なる就活。仮に私が七十年代に大学生であればヒッピーに憧れるか学生闘争に参加していただろうし、八十年代であれば銀行に内定して料亭に連れてってもらうような体験ができただろうし、九十年代だったらマスコミか音楽業界に勤めたいってなっただろう。直近は就職氷河期だと騒がれているけれども、結局受かる人は受かるし落ちる人は落ちるし、私がミレニアム前に受験していたら競争率が高すぎてそもそも今の大学にさえ受からなかったかもしれないので、これは良しとしなければならないのだと思う、そんな秋のインターン。後追い型の私は今更IT業界いいかもとか思い始めて二千年代に起業したC社のインターンに参加したものの、何年も先のキャリアを喜々として述べられる女子達に圧倒されて相対でこの人達には勝てないと打ちのめされ、じゃあやはり古くからある大手企業をと思い卒業生に会うも今度は考え方が古すぎて未だに終身雇用は成り立つって思ってるような旧人類だったものだから、ああ難しい時代に生まれてしまったものだと芝居がかったセリフも虚しく、大学院に行こうかなと問題の先送りをしようとしたけれども文学部の女が大学院に行ってどうするのという母親の指摘はごもっともで、教員免許でも取りなさいというアドバイスは無視し、結局もう少し就職活動までには猶予があるからと瞞着。
そんな中、実家が白金というお嬢様かつ装いはTHE港区女子なのに名前はちょっと古風なヨーコちゃんとはクラブで知り合いなかなか馬が合って、ヨーコちゃんK大なんだすごーいとか、レイちゃんA大だって可愛い子多いでしょーとか、K大の方が将来有望な男子多いでしょーとか、砂糖でもなければ塩でもない会話を繰り返しているだけでも人はそれなりに仲良くなるもので、「よかったらバイトで一緒のお店で働かない?」と誘われるがまま六本木のラウンジで働くこととなって、そういう世界ってよくある女同士のドロドロとした妬み嫉みとかあるんじゃないのと半ば興味本位もあったのだけれども、実際のところアルバイト感覚の延長というか嫌だったら辞めるしみたいな態度の学生ばかりのようで、一時間で三万もかかるんだーとか思ったより客層が二十代だったりすることの方が私にとっては驚きだった。
特に物欲もなくお金を貯める目的もないけれども根は素直な私は、先月越えという全く根拠のない目標を掲げられても嫌そうな顔をせずに務めたので、支配人からも好かれたようでそれなりに良客を回してくれるようになり、気付いたら百万近い貯金ができていた。学費を親に返したらカッコいいかななんて思ったけれども稼ぎの理由を問われて余計な誤解を招くのも億劫なので、どうしようかなと思っていた矢先にヨーコちゃんから起業しようよと誘われて、どんなことするのって聞いたら女子高生向けの出会い系作るなんて言い出して、おいおいそんなん作って大丈夫かとは思ったけれども、facebookもGoogleも大学時代のベンチャーから始まって云々……なんて一昔前の事例を持ち出して何度も説得されて挙句、K女は出会いがなさ過ぎたからきっと需要あるなんてものすごく感覚的な熱弁まで振るわれて、根負けした私は借金負うようなことがなければいいよと承諾してしまい、初期投資に加えWebサイト構築や素材周りの手配を受け持つ。
その後は月並みな話ではあるんだけれども、バックによくわからん男どもが出てきて、その中の一人がある日突然「やばいことになった」なんて芝居のようなセリフを言い出して、ヨーコちゃんがいつの間にかいなくなっていて、オフィスとした場所のワンルームの賃貸契約者が私じゃなくてよかったなんて下方比較するしか自愛する術がなくて、その後しばらく夜な夜な問題が起きていないか検索したけれども特に公の問題にはなっておらず、よくよく考えたらPV数10000程度のサイトに何か問題が発生するものだろうかと弁護士に相談したところ30分程度の雑談であっさりと大丈夫じゃないですかねと結論付けられて、ヨーコちゃんが悪いのか、ヨーコちゃんも騙されたのか、でも私に連絡くれないのはそういうことだよねと自戒し、インターネット上に取り残されていたWebサイトの残骸を消して、高い勉強代だったな……って、百万だぞ、おもえねえよ馬鹿野郎。
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