いくつになっても人は愛に不器用だ♯9
久しぶりに実家に帰った
今回はちゃんと連絡して、一泊する予定だ
インターフォンを押すと母が出迎えてくれて、笑顔で
「久しぶりね、入って入って」
父は、俺が専門学校の頃に他界してしまい、俺は就職を機に家を出た
今はひとりになった母を気づかい、兄夫婦が同居し、母を支えている
もうすぐ生まれる甥っ子か姪っ子の話で盛り上がっていた
父の仏壇に手を合わせる
相変わらず、厳格な表情の父が俺を見据えて居た
よく見ると、カメラを向けられて恥ずかしそうに緊張している表情にも見えた
久々の再会に母も兄夫婦も歓迎してくれた
「元気にしてたのか?」
「あぁ、大丈夫」
「お前は、いつも考えている事を話さないし、相談もしないで何でも勝手に決めてしまうから、本当に心配ばっかりだったよ」
今思えば、兄はいつも俺を気遣ってくれていた
それを拒絶していたのは自分だった
「大地、これ食べてみて」
嬉しそうに母が俺の前に料理を出てきた
母は、昔俺が好きだった手料理をちゃんと覚えていてくれて、前日から用意してもてなしてくれた
いつも突然来て、さっさと帰宅していた事を反省する
厳しかった言葉も俺の成長のためのエールだったと、今なら理解できる
改めて見ると、俺は拒絶された事はなかった
見える現実が劣等感というフィルターで、曇っていただけなのだと
その劣等感も今は、自分の好きに生きる事で忘れる事が出来た
実感する
大切な家族だ
壁を作っていたのは俺の思い込みで
幸せへの答えは自分中にあったのだと
兄が、新しい袋を見つけて漁る
「ちょっと、母さん、何だよ?これ?」
「また買って来たの?」
「だって、可愛かったから、つい」
母は、もうすぐ生まれる孫の事で頭がいっぱいで、まだ性別もわからないのにせっせと小物やら洋服を買い漁っていた
そんな光景を、微笑ましく思った
「大地、変わったな」
兄が言った
「え?」
自分では無自覚だった
「表情が柔らかくなったよ」
今度帰省する時は、俺も大切な人を紹介したいと思った
きっと、みんな歓迎してくれるだろう
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