劇場版ウマ娘感想
ウマ娘がリリースされてもう3年か。時の流れは早いね。
アプリの方は早々に引き上げてしまったのだけれど、TLの受動喫煙とリアル競馬への興味もあってやはり目が離せないコンテンツであることに変わりはない。
とはいえ劇場版アニメを映画館に足を運んでお金払って見るほどにはな……配信待ちかな……という風に考えていた。
でも観てきたって人たちが楽しそうだったので僕も楽しくなりたいと思って観てきました。
2週目特典色紙のタキオンにも急かされているのでね。感情が新鮮なうちに書き留めておこう。
いつもの前口上から始まる物語。公道レーサーのジャングルポケットがレース場でフジキセキの弥生賞を見るシーン。スキルの発動をアニメではこう見せるのかという感心とその美しさにスッと引き込まれた。あとこの後何度も目にするレース場俯瞰にレース名を被せる演出、めっちゃカッコいい。リアル競馬でもそのうちやられそう。
もう聴くだけでそうとわかるオーイシ節のOPテーマで前日譚を一気に進めていくスピーディさが心地よい。ぶんぶん握手ポッケが大変にかわいい。なんだかんだ舎弟(舎弟言うな)たちもトレセンに入って楽しくやってる感じがいい。全体を通して誰かの夢を笑わない姿勢が心に良い。
お約束のトモタッチはアグネスタキオンの担当。目がいい。この女、本当に目に湛えた狂気がいい。世界で一番ポッケの輪郭を乱す女。
劇場のスクリーンで見るレース場面はやはり迫力が違う。音響の良いシアターでなかったのがつくづく悔やまれる。やはり初週に来るべきだったか。
全体を通して虹色の光が印象に残る。光を分解するプリズムの色。ポッケのアクセサリー。それはさながらに「光を超えるもの」の姿を映し出すようなものでもあった。
僕がリアル競馬に脳焼きされた最初の要素がテイエムオペラオーの世紀末覇王伝説だったわけだが、あの有馬記念をあの実況再現でやってもらえたのは大変に嬉しかった。発声可能だったら同じように唱えていただろう。
ダービーの勝利。それは田辺トレーナーとフジ先輩の願いを叶えるものであり、なんならそこをゴールにした物語も有り得た。でもそうしなかったところがこの映画の凄さなんだよね。
ダービーの後に調子を落とすダービー馬は多い。それを“タキオンの幻”という形で表現してきたのには唸った。唸ってたら完全にただのふわふわ担当になってるアヤベさんに刺された。そんで浴衣ポッケに砕かれた。フォロワー諸氏のネタバレ配慮には大変感謝しているがこの浴衣姿で髪を下ろしたポッケについては警告してほしかった。死んだんだけど。こんなオラオラ系ガールが放っていいしっとり美麗さじゃないでしょアレ。おまけにあの雄叫びが勝利の咆哮なんかじゃなく苦悶の慟哭だったっていうのが本当に心抉ってくるのよね。
そして勝負服姿で現れたフジ先輩に「あっ」てなったのね。“幻の”三冠ウマ娘。たった一度しか着たことのない勝負服。幻を振り払うのなら幻に挑むしかない。観客も歓声もない2人だけのレース。それは同時に「自分で走ることへの渇望」として、この後のタキオンにも反射される光だったんだよねと書いてて気付いた。しかしその勝負服はやはりヤバいっすよフジ先輩。現役時代よりもなんかこう、開放されてないっすか?
マンハッタンカフェ。もうこの映画を観に来る奴には説明は要らんやろとばかりに助演と語り部に徹されてる。春季の体調不良っぷりはすみませんなんというか変なところに刺さってました。はい。考えてみたらフジキセキもアグネスタキオンもマンハッタンカフェも“お友達”関係者だったんだよなという気付き。
田辺トレーナー。緒方賢一さんの深みあるおじいちゃん演技が本当に五臓六腑に染み渡る。なんというかポッケぜったいおじいちゃん子だろという確信が深まりに深まっていく。それはそれとして
コレに勝てないのは許してやってくださいよタキオンだって70km/hって言ってたじゃないですかってかいいの乗ってますねおじいちゃん……
テイエムオペラオーとのジャパンカップ。間違いなく「最強」の座をジャングルポケットが勝ち取る物語のクライマックスなのだが、ここでは不思議なふうに「勝負」の色合いが薄められているように感じた。届かない幻の呪いは、いつしかまだ至らぬ強さと速さの果てを目指す希望に変わって、その光はアグネスタキオンという残光を新たな閃光へと呼び戻す。
彼女たちの走りへの本能。その未来のレースの結果は、まだ誰も知らない。
繰り返すがもう3年である。ウマ娘をキッカケに過去の競走馬たちのことを調べたり、現役の競走馬に夢中になったり、その勝ち負けに一喜一憂したり、引退に涙したりと「競馬」そのものへの興味が深まっているタイミングを見計らったアニメだったなと思う。1頭の競走馬に見た夢と、絶えてしまったその続きを多くのウマ娘ファンが抱えるようになった今だからこそ、強く深く突き刺さるテーマを描いてきた。こうも見事にやられてしまうと、あの馬をウマ娘にして見せてくれという思いが絶えず浮かんでくる。ウマ娘という世界がまたひとつ飛躍する一段になる、そんな劇場作品でした。