2022年 年間ベストアルバム10枚
21年末に渡英して、22年は丸っと1年ロンドンで暮らした年。例年は邦楽7割、洋楽3割程度の割合で聴いていましたが22年はUKの音楽が7割程度になりました。正直旧譜をたくさん聴いていて、新譜はあまり手を伸ばさなかったのですが、その数少ない中から好きな新譜10枚を紹介します。
10位 C'mon You Know/Liam Gallagher
元オアシスのボーカル、リアムギャラガーのソロ第3作目のアルバム。オアシス時代より音域が広がり歌も上手くなっているが、若い頃の荒々しい歌い方の方が心に響く。ただ、一時代作ったカリスマの全盛期と比べると聴き劣りするというだけで、シンプルなロックンロールに現代的要素を足したEverything’s Electricなどカッコいい曲もあるし、並のロックアルバムよりは聴きごたえある。
9位 ウタの歌 ONE PIECE FILM RED/Ado
ワンピース映画のサウンドトラック。全てを薙ぎ倒すようなパワフルな声量と曲芸的なボーカル技術に圧倒される。収録されている8曲全て、別々の有名アーティストによる書き下ろし。当然どのアーティストも映画ワンピースのテーマは守りつつ作曲するが、自身の作家性や色も最大限入れてくる。そうして出来上がった曲調も特徴もバラバラな曲群を、自分のものにして歌いこなすAdoはすごい。特に、「逆光」の分厚いシャウトはその辺のロックバンドが束になっても敵わない迫力がある。また「ウタカタララバイ」のジェットコースターのように乱高下するメロディと畳み掛けるような怒涛の早口、5人くらいで歌っているように聴こえる瞬時に切り替える声色の数々は人間技とは思えない。
8位 Smithereens/Joji
毎日ロックとポップスばかり聴いているからたまには他ジャンルも聴きたいと思い、ヒップホップ好きの友人にこれをお奨めしてもらった。80年代のシンセポップとヒップホップを掛け合わせた様な音楽性で、アルバム通してダウナーな雰囲気だけれども聴いていても重くはならずサラッと聴ける。
ちなみにjojiは日系アメリカ人。スポーツや文学など他ジャンルでは日本にルーツがある人が何か海外で賞を受賞したら、活動拠点は海外でも自分達の快挙のように報道するのに、Spotifyのグローバルデイリーチャートで1位取る快挙を成し遂げたJojiは日本で全く話題にならないのはなぜなんだろう。
7位 Wet Leg/Wet Leg
Tube構内に貼ってるポスターを見てなんとなく興味持ったから聴いてみたら思いのほか良かった。イギリス人女性によるバンドのデビューアルバム。軽めで明るいロックサウンドにどこか物憂げで気怠いボーカルが乗っていて、ロンドンの曇り空が連想される。1度聴いて覚えてしまうキャッチーなメロディを持ちつつ、何回か聴いてやっと良さが分かるサウンドの奥深さもある。底抜けに明るい曲も、反対に暗い曲も聴いていると疲れてしまうが、このアルバムは明るさと暗さがちょうど良く混ざっているため聴いて飽きない。
6位 卵/betcover!!
前作「時間」にどハマりして高くなった期待値を超えてきた新作。ロックとジャズに、じめじめとした陰鬱さを混ぜ合わせたサウンドが特徴的。しかしそこに乗るメロディは綺麗で、BUCK-TICKを連想する艶やかで暗い声質のボーカルが歌い上げる。随所に織り込まれている不協和音が緊張を煽り、次に何が起こるのか期待させてくれる。また、意味が分かりそうで分からない文学的な歌詞も飽きないポイントの1つで、これを楽しめる日本語ネイティブで良かった。
日本らしい音楽というと、和楽器を使った曲や80’sシティポップ、アニソン、ボカロなどが連想されるが、こういう湿気の多い陰鬱なサウンドも日本ならではの音楽だと思う。
5位 Growing Up/Linda Lindas
YouTubeチャンネル「みのミュージック」でおすすめされていたから聴いてみた。平均年齢14歳のUSロックバンドのデビューアルバムで、バンド名はブルーハーツの名曲からインスパイアされているのも日本人としては嬉しい。ストレートなパンクロックに乗る若くて瑞々しい声が心地よく、自分はシンプルなロックが好きなんだと再認識した。「Racist, Sexist Boy」などは背伸びして太い声を出そうとしている感じがして、パンク的なシャウトをするには声が若すぎる気もするが、逆に新鮮で良い。Wet Legでも感じたけど比較的若い年齢でのデビュー作にも関わらず荒削りな雰囲気がないのがすごい。
4位 BADモード/宇多田ヒカル
以前から大好きな宇多田ヒカルの待望のニューアルバム。R&Bやジャズ、EDMや歌謡など様々な要素を取り込みながらもポップに仕上げて、どの曲も一度聴いただけで引き込まれる。なんと言ってもボーカルの表現力が圧倒的で、どんな歌詞でも彼女の声に乗ると心にブッ刺さる。英語と日本語との間を段差なく行き来して自由に韻を踏む歌詞もすごい。英語歌詞もなんとなく聴き取れるようになって良かった。
ただ収録曲に既発曲が多く、アルバムとして聴いた時に新鮮味に欠けたのが少し残念。
配信ライブはめっちゃ良かった。
3位 NO THANK YOU/Little Simz
22年のMercury prizeというイギリス音楽の新人賞的なのを受賞していたから聴いてみた(受賞したのはこのアルバムではなく前作だが)。ダウナーなヒップホップに、壮大ででもどこか懐かしい映画音楽のようなサウンドが加わって、今まで聴いたことない音楽になっている。英語早口の滑舌が気持ち良い上に、ただ早いだけではなく声の節々に強い意志を感じる。しかし攻撃的な雰囲気は感じず生活のBGMとしても溶け込むような心地よさもある。
2位 The Car/Arctic Monkeys
大好きなバンドの待望のニューアルバム。デビュー当初は10代を熱狂させるようなギターロックバンドだったが、今作はロック要素は少なくどちらかというとジャズに近い。ジャーンと感情のままにギターをかき鳴らす様な曲はなく、厳選に厳選を重ねた音のみ使っている印象。夜静かにウイスキーでも飲みながら聴くのが似合うアルバム。
こちらも懐かしさを感じる映画音楽のようなサウンドが加わっていて今まで聴いたことない音楽になっている(自分は映画音楽が好きなのかも)。
このアルバムを一聴して良さがわかる人は相当センスが良いと思う。確かに声は艶やかかつ渋味のある上に各楽器の音も気持ち良いから一回目でもある程度楽しめるけど、音の情報量が多いから全貌を掴むには時間がかかる。自分は何回も聴いて各楽器のパス回しを耳に馴染ませてからやっと良さが分かった。そうやって良さが分かるまで時間がかかったアルバムは好きでいる期間も長い。
このアルバム内では比較的キャッチーな曲をとりあえずおすすめしておく。
1位 Being Funny in a Foreign Language/The 1975
色んなジャンルを内包しながら全曲ポップスに昇華されている。ジャンルを飛び越えた普遍的な「良い曲」感があるからロック好きに限らず、全音楽好きに勧めたい。作業中のBGMとして軽く聴き流していても「なんか良い曲だな」と思うし、集中してじっくり聴いてみても「やっぱ良い曲だな」と感動する。しかも自分の誕生日にリリースされたから勝手に誕生日プレゼントもらった気になった。
最近のイギリスの音楽を聴いてみたいって人は、とりあえずこのアルバムを聴いてみてほしい。特にこの曲は本当に美しい。