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泡日記 心にるきさん
涼しい朝。ようやく空気が秋らしくなってきた。
昨日の腹痛はどこへやら。滅多に具合が悪くならないので、たまに調子を崩すと病気の前触れじゃないかとひっそり不安になるのだが、今回も平気だった。
私だけが食べたものがあたったとして、心当たりはおやつに食べたどら焼きぐらい。二日前にコンビニで買ったのを冷蔵庫に入れておいたのだけど、どら焼きでお腹が痛くなることってあるかしら。
昨日「るきさん」の事を思い出していたので無性に読みたくなる。
私の漫画コレクションは浴室前の棚の上に並べてあるのだが、「るきさん」は益田ミリと手塚治虫の間に挟まれて置いてあった。
モップの手を止めてその場でしばらく立ち読みをした。私が持っているのは文庫版で、ページを開くと文字が小さくなった気がする。途中で眼鏡をかけた方が良いと思い、床掃除はあとで再開することにして階段を降りた。前までは難なく読んでいたはずなのに、と思いながら。
るきさんを読むとバブル期の時事が自然と思い出される。世間が賑やかだったのも、それが弾けたときも私はまだ中高生だった。親が恩恵を受けることもなかったので、ただそれはテレビの中だけで起こっている出来事で、ドラマを見ているのと同じ箱の中の話だった。
だからこうして、四角い紙から現れるバブルの欠片を眺めている自分も、なんだか懐かしい。変な感じですね。
高野文子さんの漫画を知ったのは私が東京に出て来てからである。確か青山ブックセンターで買ったように思う。仕事がきつくて、体力的にも精神的にも苦しい時だったから、最初のページでするりと理想の働き方をしているるきさんに惹かれた。浮世離れしているようで、自分のペースで生きられる手段を堅実に生み出している、るきさん。
描かれた頃は30代を想定していたようだから、今なら60代になっているのだろうか。実在したらどんな生活を送っているだろう。
勝手な想像をしてみようか。
実はナポリを経てイタリア国内を渡り歩きながら運命的な出会いをしたるきさん。イタリア男子とあっさり結婚したのだけど、彼がマンマやファミリーを愛する如き熱量をるきさんにも求めることに、暫くすると疲れてしまった。淡々と気楽に自分の生活を送ることが何より好きだったことを思い出し、彼とその家族とハグをして別れ、帰国することにした。
生活を引き寄せることに器用なるきさんは、イタリアにいた間にイタリア語とイタリア家庭料理をマスターしていた。これを仕事にできないかしら。それに、えっちゃんはどうしてるかしら。
えっちゃんはあの年下彼と付き合って、彼の暮らす郊外の町に引っ越していた。このまま結婚を切り出されるのかな、いつ言われるかなと、待ちの姿勢を続けること数年。その間さまざまな事件が起こり、主に彼の浮気癖(とえっちゃんは思いこんでいる)により二人の関係は悪化して別れた。
会社も辞めて一人になって、懐かしいあの町にふらっと戻ってきたえっちゃん。(ややっ。今通り過ぎたのはあの背中は、例の自転車屋では?)
細々と年賀状のやりとりとしていたるきさんから、久しぶりに連絡をもらう。るきさんが帰ってくる。
るきさんが60代にたどり着くまでの妄想でワクワクしてしまう。心にるきさんを想像する、愉快で平和な気持ち。
もう少し楽しんでから、床掃除に取り掛かろうか。
※私が持っているのは旧版で、新装版には後日談が載っているらしいですね。持っていないので勝手に妄想する方を楽しんでいます。
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