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「契り」…美しく複雑に交わること (閑吟集28)


「薄の契りや 縹(はなだ)の帯の ただ片結び」(閑吟集)

男と女が体を許しあうことを、「契りを交わす」と言う。

「契り」とは契約という単語にも使われるように、約束、誓うという意味でもあり、単なる「性行為」とは違う、もっと情念のこもった男と女の交わりを意味する。

夫婦となる男と女の場合に最もふさわしい言葉となろうが、
そこまでならずとも、お互いに情を感じ合える男と女であれば、肉体的な行為に、精神的な関係を深めることになる。

体を交わらせる事を楽しむ「性交」
情感を交わらせる事を伴う「情交」、
そして、もっと更に深い精神的関係をもたらす「契り」。

愛しくて愛しくてたまらない人と交わっている時、
どうせならこのまま溶け合ってしまって、離れなくなってしまったらいいのに、とまで想うほどに。

契り、紐と紐とが絡み合うように、複雑に絡み合ってほどけなくなってしまえばよい。

それもきついだけの固結びのような情緒のないものではなく、和服の帯のように、美しく華麗に、そして簡単にほどけないように結び合えたなら。

二人で必死に交わりながらそんなことをお互いに思えるなら、それは、立派に「契り」を交わしていることになるのだ。

「薄の契りや 縹(はなだ)の帯の ただ片結び」(閑吟集)

なんというはかない契りだったことでしょうか。縹(はなだ)色の帯をただ片結びしただけのような。

この片結びとは、和服の帯を片方だけ結んだという意味で、すぐにほどけてしまうことを意味し、そして。縹(はなだ)色とは薄い藍色ですぐに変色してしまうのだと言う。

深い契りを交わしたつもりだったのに、実はこんなはかないものだったという嘆きの歌。

このような詩を歌うことがないよう、契りを交わすのであれば、深くほどけにくく、綺麗に結びあげましょう。

美しく華麗にほどけない「結び」と、決して色褪せることのない「契り」を、
二人の裸の体と心を使って。

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