時空を超えた恋
祖父が残したアルバムを覗き見したことがある。
その中にあった一枚の女性の写真に目が止まり、
否、止まったのではなく、吸い寄せられたというのが正解か、
あまりのその清楚な美しさに一目惚れしていたのだった。
当然モノクロームの写真であり、
写真の中の女性はもちろん和服姿で、
髪型も今ではドラマでしか見ることができない形の結髪。
その眼差しは、
カメラを撮った人に静かに微笑みかけ、
その艶やかさは、
モノクロームだというのに豊かな色彩に包まれているかのよう。
思わず私は近くにいた父にその写真を見せ、
その女性が誰かを尋ねたのだが、
父は全く知らないという。
私が生まれるはるか以前の、
大正時代、あるいは昭和初期に間違いなく生きていた女性で、
そんな悠久の時を超えて、
私に恋心を抱かせた女性。
当時はまだまだカメラは貴重品であったはずで、
写真を撮られるということも、
生涯のうちにそう何度もない大きな出来事だったはず。
その女性は写真を撮られた時に、
何十年も経ってから私のような心を捕らえるなど、
思ってもいなかったはず。
その女性が祖父にとってどのような関係だったのか、
祖父も、おそらくその女性も既にこの世になく、
もはやその真実は誰にもわからない。
その写真はいつしか父の手によって処分されたらしく、
のちに再度アルバムを探しても見つかることなく、
私の心の中に残されているだけとなったが、
何か時空を超えた何かの縁が、
私の目に留まるように仕向けたのだろうか。
そうであるとするならば、
私が現代で出会った女性の誰かが、
その人の生まれ変わりなのかもしれない。