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#3 こもりうたは労働歌だった?
こもりうたを <赤ちゃんを寝かしつける時に愛情たっぷりに歌われてきた癒しの歌]だと思ってきた1児の母が、現実の寝かしつけを知り「世界の寝かしつけがそんなに穏やかなはずがない」と疑いながら、研究家としてこもりうたの面白い小話を発信しているnoteです。
こもりうたの英語である"Lullaby"の語源には「あやし、そばにいる」というハートフルなものから、「子どもを奪う悪魔リリスから護るお守り」といった、子どもへの愛情を感じる様々な説が見受けられました。
しかし、親になった今、正直に思うのは「綺麗事すぎやしないか?」ということ(笑)
初回では「こもりうたは辛い寝かしつけの捌け口であった」見解をご紹介しましたが、その通り、世界のこもりうたには実は寝かしつけの過酷さ、つらい気持ちの吐露が存分に見て取れるのです。
今回は中でも日本のこもりうたに焦点を当ててご紹介します。
日本民謡におけるこもりうた
仕事唄の分類
日本民謡においては、子守するための仕事唄として位置づけられます。
「眠らせ唄」「遊ばせ唄」に分類されますが、後者は更に「目さめ唄」「まじない唄」が含まれています。
こもりうたの起源?労働歌としてのこもりうた
日本のこもりうたに関する書籍を多く出されている松永伍一氏によると、その他にも種類があると言います。
これら赤ん坊の身内の人が歌うものと別に、子守奉公に雇われた少女が、労働としての子守で歌ってきたものがある。
「子守くどき」「守り子唄(もりこうた)」とも言われており、子守が居直って雇い主の悪口を歌うもの、子守女が境遇を嘆くことでわが身を慰めるものなどさまざま。
時代にもよりますが、子守奉公の年齢は7歳ころから14~15歳まで。貧家出身の娘が多く、食い扶ち減らしのために他所の家で子守の仕事を担います。
調べていくと、貧富の別なく通過儀礼的な側面もあり、仲間ができたりと決してネガティブな側面ばかりではないようですが…
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嘆きのこもりうた
五木のこもりうた
世界的に有名な「五木のこもりうた」は、その代表格です。
伝承者により歌詞が複数ありますが、例えば、このような歌詞があります。
おどま勧進(かんじん)勧進あん人達(たち)よか衆(し)、よか衆よか帯よか着物(きもん)
※歌詞には差別用語とされる言葉が含まれます
自分は貧しく、あの人たちは良い装いをしているといった趣旨の歌詞です。
子どもに聞かせるというよりかは、ぼそぼそと口から歌にして吐き出すことで、心のバランスを保っていたと推察できます。
幡多地方の子守唄
ねんねしょしょ ねる子はかわい おきて泣く子は つらにくい
つらのにくい子は まな板にのせて 大根きざむよに きざみたい
http://komoriuta.cside.com/nenneko/nekoview.cgi?mode=V&num=46
苦手な方はごめんなさい。
寝ない子はまな板にのせて大根きざむようにきざみたい…といった内容です。
いわゆる「脅し」の意味を持つ歌詞は国内外にも多くありますが、個人的には群を抜いて身震いしました。
守り子のこもりうたについては、文献も色々あるので、折を見てまた深堀したいと思います。
ここまで辛いか、こもりうた
「日本のこもりうたは怖い」となんとなく知っている方も多かったと思いますが、いざ見てみると背筋の凍る恐ろしさ。
大の大人が眠らない子どもと格闘するだけでもしんどいので、守り子の境遇を想えば語気の強さから伝わるものに、心が締め付けられる思いです。我が子の寝かしつけに根を上げているだけの自分を恥ずかしく思います。(いやでもしんどい)
現代に必要なこもりうたの姿
もうここまでくると、こもりうたのイメージはだいぶ変わりましたよね。
もちろん、やさしくねんねに促す唄も多くありますが、特に日本の場合は奉公に出ていた守り子の労働歌として捌け口としての大事な大事な役割を担っていたことが分かりました。
現代でイメージする、いわゆる「作詞」とは異なり、口からこぼれた言葉とメロディーがだんだんと伝承されてきて、誰かが譜面と文字に起こしたものが現代に残っている。
そう考えると、子守唄の始まりは、より正直で、包み隠すことのない「吐露」だったのだと感じ取れます。
似たようなもので、「捌け口」「ガス抜き」「発散」…
現代でも大切と言われていますが、もしかしたら、こもりうたって、私たちにとってそんな存在になれるのかもしれない…?
次回、知識編を離れて、日ごろの想いをおしゃべりさせてください。
おすすめこもりうた
過酷な日々に、音を吸う時間を。
涙を流して癒されたいときに、水の風景音楽集。