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FUDO-KI

今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。


〈前回までのあらすじ〉
「麦」の国では、国王 浦島鳴(うら しまなり)が表の舞台から姿を消し、副王 賈智陽(かじやん)が台頭する。そして賈は「黍(きび)」と国名変更を宣言した。
黍国の東の外れ″氷川の丘″に「稗(ひえ)」国と「糠(ぬか)」国のヒヌカ連合軍が現れた。黍国の武将 牟羅(もうら)と崔泰烏(つぁいたいう)が防衛に成功するものの、西では石可児黄仁(いしかにこうじん)が攻められ後退する。敵は戦神・佐祁間(さじま)率いる最強海軍の海万部氏(あまんべうじ)だった。一方、黍国の首都を目指すヒヌカ本軍・伊世李(いせり)が迫り、楯築鯉琉(たてつきこいる)を中心に布陣した黍国軍と激突する!

~第20話 佐々vs鴛巳~

北の大平山では黍国 佐々孟利(ささもうり)佐々仍利(ささじょうり)とヒヌカ連合 鴛巳(おしみ)が対峙していた。
鴛巳。『大武天』の別名を持つヒヌカ連合最強の武将である。戦斧と祓霊剣(ふつたまのつるぎ)という伝説の武器を使う巨漢。そして鴛巳が率いる軍は、鴛巳に憧れ強者を目指す者が集まった戦闘部隊である。

早くも仍利隊は総崩れとなっていた。仍利とて若いながらも将来を期待される黍国きっての武将である。戦い方も悪くはなかった。士気も高く、山の中腹からの利点を生かして投擲や矢攻めを行った。その後は持ち前のスピードを生かして敵の中枢へ集中的に攻撃をしかけた。通常では跳ね返すことなど不可能。しかし鴛巳軍は違った。その電光石火の攻撃を鴛巳軍は跳ね返したのだ。鴛巳軍はあまり複雑な作戦は使わない。個の武力こそが最大の武器である。
「もうすぐ敵の攻撃は尽きる!そして敵は熟知した山に逃げる。こっちは隊列を崩さずゆっくりと追撃する!準備をしておけ!」
鴛巳は指示を出しながら目前の敵を自慢の戦斧で吹き飛ばしている。やはり圧倒的な武力だ。

その後、鴛巳の指示通りの展開となった。攻めあぐねた仍利隊は、反撃を恐れ山の陣へ退却を始める。それを鴛巳軍はゆっくりと追い詰めていく。追われる形となった仍利隊は散り散りになり、隊として機能が出来なくなっていた。多くが討たれ文字通り総崩れとなっていた。

それを山上から見ていた孟利隊が動き始める。体力を温存したまま、高い場所からの利点を活用して鴛巳軍に襲いかかる。さすがは猛将 孟利。武に精通した鴛巳軍を寄せ付けない。自らも刀を振るい、徐々に陣地を回復しつつあった。

一方、鴛巳もその状況を把握していた。山の中での指揮命令は難しいのだが、隊列を崩さず進んだことで状況把握も指示も可能な状況を確保していたのだ。
「敵の攻撃力は、後発の部隊の強さによるものだ。後発の部隊の隊長を誘い込め!」
鴛巳の指示を良く聞いていると、本質を読む能力の高さを感じる。戦い方のシンプルさとは裏腹に利にかなった行動により、有利に戦いを進めているのは鴛巳の指揮能力の高さによる所が大きい。

孟利は隊を進めながら、進む方向を誘導されていることを感じ取っていた。
「深追いせずに拠点を築け!そして仍利隊を受け入れて立て直しを諮れ!」
と言いながらも自身は側近兵を組織して攻撃を続けた。再び敵が攻勢に出ることを封じる必要もあったのだ。そして逃げる敵を追い、少し開けた場所に出た。慎重に攻撃していたものの孟利は一抹の危うさを感じ取った。結果的に誘導されてしまったようだ。

「やっと逢えたな!黍国の武将よ!」
鴛巳である。この時代に一騎討ちという概念は無い。しかし敵の武将を倒すことの意義の大きさは分かっていた。
「ワシはヒヌカの鴛巳。この軍を率いる者だ。」
孟利が前に進み出た。
「黍国将軍の佐々孟利だ。我等は侵略者を赦さぬぞ!」
「佐々将軍よ。何を以って侵略と呼ぶのだ?貴国では王が副王に殺されたであろう?それこそ侵略ではないのか?」
黍国兵に動揺が走った。王が死んだという話も聞いていなければ、副王が殺したなど聞いたこともなかった。しかし姿を現さない国王や、最近の副王の動きを思い出すとそれを否定できる根拠も無いように思えた。それを見て鴛巳は「知らなかったな」と感じ取った。
「佐々将軍よ!ワシらの最大の敵は粳(うるち)国である!粳国に味方する黍国の副王を見逃すことはできん!それが今の戦争の目的だ!」
何ということであろう。黍国は芋(いも)国と同盟関係を築き、粳国と敵対関係にあった。鴛巳の話が本当ならば、副王は芋国をも裏切り、粳国に接近していることになる。しかし、戦争相手から聞く話を鵜呑みには出来ない。それに遠く離れたヒヌカ連合が、なぜその情報を知っているかも気になる。
「敵将 鴛巳よ!惑わされぬぞ!我等は我等の判断で動く!」
話に真実味を与えるためなのか鴛巳が続けて話す。
「ヒヌカ連合は芋国とも国交を開く。既に準備は整っておる。」
この言葉の裏側には、情報の出所が芋国であることを含んでいる。ただしこれらの話を聞いたところで、今の敵対している状況では何も出来ることはない。しかし孟利には″ツテ″があった。
「先日、ヒヌカ連合の佐祁間殿に助けてもらい話をする機会があった。そなたらの考えは聞いておる。」
少し前であるがダガ兄弟討伐の際に、苦戦を強いられた孟利と富田真臣軍は大船団に助けられている。その時助けたのがヒヌカ連合の戦神 佐祁間だったのだ。孟利らは圧倒的な佐祁間軍の軍備と強さを見せつけられた。更には実国の制圧、南の海の制圧、今後の粳国への侵攻などについて話を聞いていた。
「ほう。佐祁間様と…。佐々将軍よ。ワシの判断でこの軍は引き上げる。そしてヒヌカの門は開けておく。気持ちが変わったら何時でも来られるが良い。」
孟利は返事をしなかった。今すぐヒヌカ連合に寝返る判断はできない。そんなことをすれば自軍でも反発が起きるだろう。会話中に、鴛巳軍は周りを取り囲むように増えており、戦えば危うい状況なのも察知できていた。しばらくして鴛巳は全軍を山から引き上げ、孟利は静かに部隊を自陣まで後退させた。

孟利は仍利ほか、軍の主だった者を呼び話をした。
「敵将 鴛巳の話で我が軍にも動揺が走っておるな。情報操作の可能性もある。まずは真実を確めるのが重要だ。しかし、黍国内といっても信用できる者は限られておる。良いか、我が軍の動揺を他に伝えてはならぬ。真実が分かるまでは皆を落ち着かせることに集中してくれ。」


中央平地では髭麿(ひげまろ)軍による、百千武主実軍への集中攻撃が続いていた。正面から来た髭麿部隊には武主実が応対していた。また、横擊してきた部隊には鵜照と鷹照が応対していた。獅子奮迅の活躍で付近の敵を次々と倒していく。しかし、さすがに数倍の人数比には劣勢を強いられていた。

苦戦を感じている武主実軍であったが、敵将の髭麿の捉え方は違った。もっと簡単に攻略できると読んでいたのである。平地では数がものを言う。それなのに武主実軍はなかなか崩れない。むしろ殺られている兵は髭麿軍の方が多い。髭麿は動かぬ大軍である楯築軍の動向が気になっていた。さっさと武主実軍と富田軍を片付けて楯築軍に備えて動きたい気持ちが強くあったのだ。

髭麿は作戦を変更することにした。武主実軍に退路を作り逃がし、先に弱小と評価した富田軍を倒すことにしたのだ。ここは失敗できない。富田軍の殲滅は必須条件である。

戦いの中で髭麿軍は上手く退路を作り、武主実軍を離脱させた。武主実軍もなかなか好転できず、離脱しての立て直しは望んでいるところだった。武主実軍は遠くまで離れた。そうなると髭麿軍は4部隊中、3部隊を富田真臣軍と富田不流名軍に集中させた。流れに乗った髭麿軍は圧倒的だった。まさしく蹂躙である。

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