FUDO-KI
今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。
〈前回までのあらすじ〉
「麦」の国では、国王 浦島鳴(うら しまなり)が表の舞台から姿を消し、副王 賈智陽(かじやん)が台頭する。そして賈は「黍」と国名変更を宣言した。
主人公 百千武主実(ももちむすび)は自分の出自を確認すべく阿宗の神職を訪ねる。奥宮に母親のアライアが匿われていることを知り、会いに行くことに…。
~第16話 再会~
奥宮ではアライア…いや安良(あら)に会う前に、護衛として住まう夫婦に出迎えられた。夫婦は阿宗磐井(あそういわい)の説明を確認してから屋敷に招き入れた。
「どうぞ、お入りください。」
今になっても武主実は心の整理がつかず、会った時の自分の気持ちに任せることにした。
そして屋敷に入り遂に対面した。安良は顔を見なり号泣し、取り乱し、抱きついてきた。
「ごめんねー。ごめんねー。」
一瞬で心が母親だと認識した。そして自分でも驚くほど感情が溢れた。幼い頃からの生活が頭の中に甦る。鬼と蔑まされ過去、孤独な過去…。母親の顔も声も覚えていなかったのに感情が止まらない。いつの間にか涙が頬を伝っていた。
少し落ち着いてから話をした。良く見ると安良はスラッと背が高く、真っ白な肌をしている。桃に例えられるのも頷ける容姿だ。顔立ちは武主実にそっくりで、ガラス玉の様な大きな目が特徴的だ。
「本当に大きくなったね。いつも貴方のことばかり考えて。貴方が無事であることを願っていました。」
その言葉はスッと心に落ちた。
先ほど葉降や磐井から聞いた内容の繰り返しになったが、安良の立場からの話が聞けた。
武主実が生まれた時、父の双角(もろすみ)は既に亡くなっていたそうだ。武主実誕生は祖父ゴーガンの耳に入り、祖父の元に呼び寄せられた。しかし暫くしてゴーガン自身が出兵することになり不在となる。その隙を狙ってか情報が漏れ、安良と武主実の暗殺が計画された。それを知った安良は、武主実を連れ必死の思いで川に脱出。運良く百千家に拾われたのだと言う。しばらく百千家で療養していたが、浦国王がやってきて安良は阿宗家に匿われることになり、武主実は百千家に残された。
武主実は夜更けまで母親の話を聞いた。この再会で鬼への感情がはっきり変わった。やはり鬼も人間なのだと思った。そして朝になると、また会うことを約束して奥宮を後にした。
数ヶ月後、黍国に緊張が走った。国の東の外れに、大軍が現れたとの情報が入ったのだ。報告では3千人の軍隊だと言う。この時代の3千人は圧倒的な数である。新山城に国の中心メンバーが集められて対応を議論している。
「軍は氷川の丘に集まっております。」
「誰が軍を率いておるのだ?」
「それは不明ですが、方角からして粳(うるち)国かと。」
「東の氷川であれば粳であろーのぅ。」
氷川とは黍国と粳国の中間に位置する。両国の緩衝地帯となっている地域である。
「祭祀を行っているとの情報があります。」
大軍が集まり祭祀を行うとすると、戦勝祈願と考えられ戦闘準備が整ったことを示す。
「国中から兵を動員すべきだ。先の大戦のようになるぞ。」
「いやいや、今からでは間に合わん。中央を固めることを急げ。」
先の大戦で国は双角に蹂躙された過去が甦る。議論は紛糾した。
「いや、海や北方も固めるべきだ!」
「とにかく東で食い止めろ!」
「もっと情報を集めろ!」
総司令の阿宗磐井が立ち上がった。
「北は大丈夫です。芋国との同盟は固い。北の石可児殿は西の守備に回ってください。」
長い足を組んで奥の方に座っている男が答えた。外国人勢力である鬼の石可児だ。
「北も西も任せときな。」
磐井は続けた。
「楯築殿は南と東のバックアップをお願いします。特に海岸線は要注意です。」
「そなたから指図を受ける筋合いないが、黍国は私が守る。」
同じ総司令である磐井から指図されたことに不満は残るようだ。
「そして既に戦場になっている東。ここは、すぐに戦闘になる。一刻を争うが…」
文官の尚小(しゃんしゃお)が話を遮るように言った。
「東ハ既に牟羅(もうら)が出陣していマス。崔泰烏(つぁいたいう)も行きマシタ。」
賈副王は珍しく無口に聞いている。腹心の尚や牟、崔がいち早く動き出したのを考えると何かしらの情報を得ていたのだろうか。そうであれば磐井が出した指示も予想の範疇だろう。磐井もそれに気づいていた。
一方、氷川の丘を出発した一軍は、山沿いに進路をとり西へ進んでいた。意気揚々と進軍し峠に差し掛かった。
その時だった。
左右から兵が怒涛の如く現れた。隊列を組む間もない。混乱が混乱を呼び一部は四散が始まった。そして正面から本隊が出現した。
「ガッハッハ!叩き潰せ!」
牟羅である。