FUDO-KI
今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。
〈前回までのあらすじ〉
黍国では前国王の浦島鳴(うらしまなり)の死去が発表され、副王だった賈智陽(かじやん)の新国王に就いた。賈国王は国防に力を注ぎ、体制を整えていく。
そんな中、ヒヌカ連合あらため『ヤハト国』は第二次侵攻を開始する。主要4拠点に一斉総攻撃を仕掛けたのである。
黍国内では佐々孟利や八女天主らが、秘密裏に賈体制へのクーデターを画策する。その先鋒としてコードネーム「団子」が動き始める。「団子」は『ヤハト国』軍より先に賈国王の首を獲るために結成された、若いメンバーだけの少数部隊である。
~第27話 黍の団子結成~
「団子」は、鴛巳&髭麿軍に応戦中の牟羅軍に気付かれることなく通り抜け、楯築軍の陣近くまで進んでいた。百千武主実を隊長とした佐々仍利、鵜照、鷹照の手練れ4人組である。
楯築鯉琉は富田不流名隊と片岡太練隊を数回に亘って突撃させるが、播磨宇鹿軍を撃退できずにいた。さすが百戦錬磨の宇鹿。緩急自在。敵が深く追ってくれば分断を図り、様子を見て待機していれば奇襲を仕掛けた。
富田真臣は病と偽って軍に参加していない。軍は一族の不流名に任せ、自身は隙を見て「団子」に合流すべく道を急いだ。見つからないように遠回りして山を越え、夜闇に紛れて進んだ。
そして遂に百千武主実らと合流を果たした。佐々仍利が歓迎する。
「よく来られた真臣殿。」
「お待たせしたな。よろしく頼む。」
その時だった。真臣が歩いてきた山道から不意に足音が聞こえた。武主実らは身構えた。
「私です。刀を下ろしてください。」
現れたのは片岡太練だ。この男、敵か味方か分からない。いや、むしろ敵の可能性が高い。武主実らは刀を握ったままだ。
「なぜ、戦場を離れてこんな山奥に?」
「私も仲間に入れていただこうと思いまして。」
仍利はいつでも飛びかかる準備ができている。武主実も目線を離さず話す。
「どういう意味だ?」
「皆さんは賈国王の暗殺部隊ですよね。」
「何を言ってる?」
策略がバレており、危険な状況であることを察知した。太練は説明を続けた。
「私は敵ではありません。しかも1人だけです。落ち着いて話しましょう。」
武主実と仍利には、お世話になった井原殿を太練に殺された過去がある。正しくは太練の配下の朱久那に殺されたのだが、そこはイコールの認識なのである。故に太練については敵対に近い感情を持っていた。それにも増して現在の状況では、太練を倒すことが最善策だと無意識に思った。もちろん後々面倒なことになるのも理解できた上でである。
武主実は刀を構えたまま歩を進める。それを見て太練は、刀などの武器を地面に置いて無防備をアピールした。
「なかなか信用していただけないようですね…。では私の素性をお話しします。私は阿宗家の者です。宗主の阿宗葉降から指示を受けて賈国王の首を狙っています。」
口だけでは何でも言える。
「それを信用しろって?」
太練は武主実を確り見ながら話した。
「私は奥宮の阿良様にもお会いしております。」
武主実は驚愕した。太練は「奥宮の」と言ったのだ。奥宮にいる阿良といえば、武主実の実母であるアライアのことである。「奥宮」にいること自体がトップシークレット。阿宗家でも知る人は限られている。勿論、敵対する勢力には知られていない情報である。しかし作り話の可能性もあるので、もう少し確認する必要がある。
「会って何か話したのか?」
「あなたをお守りして欲しいと。」
「抽象的な言葉だな。」
と言いながら自分との関係が知られていることを理解した。さらに質問してみた。
「いつ会ったんだ?」
「幼少の頃は阿宗で育ちました故。その後は1度だけ。」
仍利が口を挟んだ。
「それが何なんだ。片岡殿は元は山賊と聞いているぞ。」
「話すと長くなりますが、確かに山賊に潜り込み情報を収集していた時期があります。」
「罪のない山賊も殺しただろ?そして郷の人たちも。元山賊とバレないように。」
太練は丁寧に説明を続けた。
「確かに多くの山賊を手にかけました。中には他国に情報を売る山賊もいますので。郷を守るためです。」
以前から、太練は一貫して「郷のため」との言葉を使っている。
今の状態で行動を共にすることは難しいだろう。これ以上話を聞いても安心できそうにない。武主実はそう思って提案した。
「なぜ阿宗家が賈国王を狙う?それにこの状況で俺たちを信用させるものがあるのか?」
「勿論です。あなた方が警戒することは予想していました。なので阿宗葉降から千田雨根彦様に話を通していただきました。新山城に着けば全ては分かるはずです。」
仍利が警戒を強めるのに反して、武主実は少し心境が変化していた。
「んー、千田殿に確認すればいいのか。…わかった。それまでは俺が命を預かろう。でも変な動きがあれば容赦しない。警戒もさせてもらう。いいな!」
その決断には阿良の話が明らかに影響していた。
ちなみに片岡隊は朱久那が代わりに率いているらしい。また富田真臣が大きな罠を仕掛けてきたらしく、しばらく楯築軍の戦場は停滞する予定とのことだ。
これで武主実が率いる「団子」は真臣と太練が入り6人となった。向かうは新山城。