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FUDO-KI

今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。


〈前回までのあらすじ〉
「麦」の国では、国王 浦島鳴(うら しまなり)が表の舞台から姿を消し、副王 賈智陽(かじやん)が台頭する。そして賈は「黍(きび)」と国名変更を宣言した。
黍国の東の外れ″氷川の丘″に「稗(ひえ)」国と「糠(ぬか)」国のヒヌカ連合軍が現れた。黍国の武将 牟羅(もうら)と崔泰烏(つぁいたいう)が防衛に成功するものの、西では石可児黄仁(いしかにこうじん)が攻められ後退する。敵は戦神・佐祁間(さじま)率いる最強海軍の海万部氏(あまんべうじ)だった。一方、黍国の首都を目指すヒヌカ本軍・伊世李(いせり)が迫る!

~第19話 楯築開戦~

黍国の総司令・楯築鯉琉(たてつきこいる)は新山城の玄関口に陣を敷いた。北側の大平山には佐々孟利(ささもうり)佐々仍利(ささじょうり)、南側の日射山には八女天主(やめあまぬし)八女麻亜呂(やめまあろ)、その中央の平地には富田真臣(とみたまおみ)富田不流名(とみたふるな)百千武主実(ももちむすび)が布陣した。楯築鯉琉自身は最前線となる富田軍と横並びに陣取った。壮観な陣立てである。

黍国「楯築軍」vs ヒヌカ連合「伊世李軍」

〈佐々氏の陣〉
猛将・佐々孟利は山の頂上付近から全容を見渡たす。敵軍は最後尾が見えない程の長い列。富田軍や楯築軍と距離をとったところで集結し順次布陣をはじめている。それが異様に美しく絵を描くように見える。
「皆よく聞け!これは未だかつていない戦いだ!乱れた方が敗ける。戦いに集中しろ!細心の注意を払え!そして我が故郷を守れ!」
兵たちは良く耳を傾けて聞き入り、その言葉に闘志を燃やした。
「おぉぉぉぉー!」
雄叫びは山をこだまして、中腹付近で突撃体勢を維持している仍利の部隊にも伝わった。ここからも敵の様子は見えており、緊張感が高まっている。


〈八女氏の陣〉
名家・八女氏は大軍を率いている。日射山の全体に点在するように布陣。特に南側は海にも近いこともあり、敵別動隊参戦の可能性も視野に入れている。ここからも伊世李軍の布陣は確認できていた。八女天主は軍事に精通している訳ではないが、領主として軍の指揮に当たったことは屡々あった。
「皆の衆ーー!母国を守る戦いだ!侵略者を赦すな!今こそ我等の底力を見せようぞ!」
天主に続いて麻亜呂が鼓舞する。
「黍の底力を見せようぞーー!」
「見せようぞーーー!」
こちらも士気が伝播していく。戦いの準備は整いつつあった。


〈楯築氏の陣〉
敵を眼前にして慌ただしくなっていた。
「まだ待機なのか?布陣が整う前に攻め込むべきではないのか?」
「石弓隊はもっと前だ!最前列の槍隊は上がり過ぎだ!味方から離れるな!」
楯築鯉琉が浮き足立つ味方兵を見渡しながら大声を張り上げた。それは敵軍にも聞こえていたであろう大声だ。
「我が軍こそは黍国最強を誇る楯築軍なりーー!まさしく敵を撃ち抜く強弓なりーー!その矢は一撃にして岩をも砕くーー!今は必殺の強矢を放つべく弦を引きに引けーー!」
兵たちは自信に満ちた表情に変わった。総司令の楯築鯉琉直属の軍であることのプライドが戻ってきた。落ち着きを取り戻した兵たちは静かに闘志を燃やしながら隊列を強固にし臨戦態勢に入った。


〈富田氏の陣〉
新進気鋭の富田真臣は戦闘経験こそ浅いが、先日のダガ兄弟討伐にも参戦した。戦場を俯瞰して見渡せる卓越した視野を持っている。しかし流石に最前線にいて、目の前に敵の大軍が布陣している姿があるこの場面では緊張感が勝る。暑いか寒いかも分からないが汗が止まらず流れている。
「良いか!我々は名誉の最前線ぞ!好きなだけ手柄を上げようぞ!」
どれだけ兵たちに伝わっただろうという不安を払拭するのは、一族の勇・富田不流名である。自らが先頭に立ち、今にでも一番槍を狙って駆け出しそうだ。
「その手柄ーー!この富田不流名がもらうぞーー!」
真臣はいつも不流名に勇気付けられる。富田真臣の後方には百千武主実軍が陣取っていた。鵜照と鷹照の兄弟もいる。彼ら兄弟の兵に加え、百千軍はもともと百千大江が率いていた精鋭部隊である。数こそ少ないものの敵を目前にして動揺もなく戦う準備が出来ていた。


対する敵の総大将・伊世李(いせり)は後方にあり、布陣の最後のピースのようであった。中央の位置まで移動してくると布陣が完成した。山々から平地までに広がる黍国の陣立てに対し、堂々と美しい隊列が出来上がった。伊世李軍は氷川の丘を発し、海沿いに軍を進めてきたヒヌカの本軍である。先陣の将は髭麿(ひげまろ)。その名の通り整えられた髭が特徴的。戦いでは押してヨシ、引いてヨシの変幻自在の名将である。

それにしても髭麿軍からしたら圧倒的に見える黍国軍であった。平地の軍は大きく広がり無数の大軍に見え、左右の山にも敵がひしめいて見える。見渡す限り敵だらけだ。
「ヒャッヒャッヒャ!長く生きてると色んなもんが見れるもんだ!」
髭麿には笑い飛ばす余裕がまだある。
「精鋭部隊はワシについてこい!走り回って隊列を崩すぞ。弓隊は援護射撃だ!休まず放て!他は敵軍左端を狙って前進!」
「おぉぉぉ!」
髭麿軍は精鋭部隊を率いて自軍から斜め方向へ動き出した。弓隊が攻撃するルートも確保できている。弓隊はジワジワと距離を詰める。自慢の強弓が届く距離になると富田軍に向かって一斉に矢を放った。決戦の火蓋は切られた。
富田軍は必死に矢を振り払い迎撃の体制をとるが、間髪いれずに髭麿部隊が斬りかかってきた。大きく弧を描いて隊列を動かし、的確に矢が降り注いだ地点へ攻撃をしかける。
「ヒャッヒャッヒャ!右だ!右に移動だ!」
髭麿部隊は深入りせずに移動し、その後には再び矢が降り注ぐ。富田軍は翻弄されていた。移動していく相手をどうにか追おうとするが捉えることが出来ない。
「無理に追わなくても良い!次第に敵の体力も尽きる!」
富田真臣は良く周りを観察して激を飛ばした。しかし、予想より速く髭麿の後隊が左端にたどり着いた。弓矢→精鋭部隊→弓矢→後隊と途切れることなく攻め続けられ富田軍は侵食された。これはマズイ。戦は始まったばかりだが崩壊の危機である。髭麿部隊は右に移動しながら、一連の連続攻撃を繰り返した。

「行くぞー!」
その時、大声とともに強烈な一団が髭麿部隊と衝突した。髭麿の動きを読んだかのように正面を捉え、一瞬にして混戦となった。百千武主実だ!
「敵の足が止まったぞ!一気に攻めろー!」
武主実軍は富田軍の兵と兵の間をすり抜けて、前線まで上がってきていたのだ。髭麿は率いた精鋭部隊が倒されていくのを横目で確認した。
「ヒャッヒャッヒャ!なかなか手強いのがおる。離脱だー!全軍離脱だー!」
そして戦場から距離をとろうと自ら道を開いた。弓隊にも合図を送り、援護射撃を受けながら離脱を図った。どうにか離脱に成功したが、武主実軍の攻撃力は抜群だった。

「ヒャッヒャッヒャ。ヤツらの力量が良く分かったぞー。さーてさて、軍を4部隊に分けるぞ。」
訓練された軍は、再び美しく動きだし隊列を変更した。
「第1部隊は弱っちい軍を叩け!ただし距離をとってゆっくりだ!第2部隊は右の大部隊に備えて待機だ! 」
「おぉぉぉ!」
指示を受けた部隊は整然と動き出した。
「第3部隊はワシと共に手強い軍を潰すぞ!そして第4部隊は弱っちい軍を牽制しながら前進だ。ワシが合図を送ったら第3部隊に合流し敵の横っ面を叩け!目的目標は手強い軍の壊滅だ!」
「おぉぉぉ!」

武主実軍は集中砲火を浴びた。数倍の軍に一気に攻め込まれたのである。

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