FUDO-KI
今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。
〈前回までのあらすじ〉
主人公の百千武主実(ももちむすび)は、佐々仍利(ささじょうり)や八女麻亜呂(やめまあろ)らと戦闘訓練を積んでいた。そこへ近隣の村に賊が襲来したと知らせが入る。仍利の父である猛将 佐々孟利(ささもうり)指揮のもと討伐隊を編成し、賊を制圧するの事に成功。
その後、武主実と仍利は国王の遣い佐田阿是彦(さたあぜひこ)と合流し、西山郷の主を主張する片岡太練(かたおかたねる)を調査する。郷を襲ってきた山賊を捕らえ、片岡が元山賊であることを聞き出す。
その年に開かれた麦国最大の秋の祭祀に、国王 浦島鳴(うら しまなり)の姿はなかった。
翌年になると副王 賈智陽(かじやん)が台頭。3大勢力の1つ「鬼軍」を取り込み、国王一派への弾圧を始める。そして賈は遂に「黍」と国名の変更を宣言する。そんな中、周辺の国々では…。
~第10話 隣国情勢~
ここは粳(うるち)の国。列島の中央に位置し、かつては覇権を握った強国であった。しかし数代前から弱体化をたどり、小国へ分裂する混沌の時代となっていた。このままでは東の強国 麹(こうじ)に攻め滅ぼされるのも時間の問題かと思われていた。
そこに現れたのは鶯王と名乗る古土迩(ふるどに)。亡国となる憂いを断つべく兵力強化に励んだ。それと同時に列挙する周辺国をまとめあげることに成功する。『まとゐ』という円卓の会議を開くことで連合国家を形成していったのだ。更に弟の仁玖琉(にくる)や以真不(いまず)を派遣し武力制圧も行っていく。南の蕗(ふき)の国を傘下に置いたことで再び強国の仲間入りを果たす。武力だけではなく政治手腕も発揮し、ついには東の強国 麹と同盟を結ぶことに成功する。まさに時代の寵児 古土迩である。
「以真不よ。蓮(れん)の国は落とせそうか?」古土迩は不敵に笑いながら言う。既に高齢の域に入り、ほぼ白髪頭になったが衰えは全く見せない。眉間にシワを寄せ上目遣いに以真不の顔を見た。
「兄者よー。蓮国なら息子の馗牛(みちうし)が、いい感じにやっとるよー。うんー。あまりに簡単に攻め滅ぼすと麹国から目をつけられるからなー。うんー。」
そう言って隣の大男に目線をやった。大男は黙って睨みつけてきた。
「いやーすまん。そんなつもりで言ったんではないぞー。うんー。」以真不はおどけてみせたが、大男は表情を変えない。
「それよりもだ。麦国が名前を変えたらしいぞ。たしかー、黍(きび)だっなー。国王みずからが『黍のカジャだー』っと宣言したとか。」
少年の様な若い男が偉そうに口を挟んだ。羽黒王子(はぐろおうじ)、古土迩の息子だ。ボサボサの逆立った髪で目つきが鋭い。
「何だー?カジャってのは?んー。」
「父上の鶯王と同じで通り名みたいなもん?」
古土迩は不敵な笑い顔のままだ。
ここには古土迩王のもと、弟の仁玖琉と以真不、息子の羽黒王子、筱守王子(しのもりおうじ)、大男の大毘己(おおびこ)が『まとゐ』に集まっている。まさに粳国の最高権力だ。
1人だけ一族ではない大毘己。実は東の強国 麹が誇る一騎当千の武将だ。同盟を期に表向きは応援部隊として、裏向きには見張りとしてやってきた。つまり大毘己がいる間、麹は粳に対して手を出さないという約束でもあるのだ。
古土迩は真面目な顔になっていた。
「粳は版図を広げるぞ。仁玖琉よ、お前はさっさと麻(あさ)の国を獲れ。羽黒と筱守は準備をしておけ。次は黍の国にするか…、芋(いも)の国にするか…。」
仁玖琉は「フッ」と少し笑った。
話が途切れると大毘己は部屋を出ていった。
「以真不よ。大毘己をイジるのはやめておけ。あいつはもともと麹国の大将軍であり、古き王の名を継ぐ者だぞ。」
古土迩が注意をあたえた。
「分かっているさー。うんー。さてさて俺も戦場に戻って蓮を落としてくるかー。」
以真不も出ていった。
ところ変わって黍の国。粳国力の版図拡大とは反対に、賈副王体制のもと更なる国力充実に全傾していた。
武主実は仍利とともに海沿いの村を訪れていた。鬼による被害報告が増えているため調査にきていたのだ。壊滅的な被害がある訳ではないが、物が盗られたり婦女子が拐われるなどの被害を確認した。
調査を進ていく中で武主実は「鬼」として迫害を受けることが何度もあった。酷い言葉をかけられたり、石を投げられたりは良い方で、時には娘を拐われた父親に殺されかけたこともあった。武主実は外国人特有の外見をしている。そこからの先入観ではあることは分かっているが、国のため民のためと戦っていることが虚しく思える。いや今の感情は武主実は鬼に対する怒りに変わっていた。