読書感想 #2「三匹の子豚」
三匹の子豚と聞いて真っ先に思いつくのは、世界的に有名な童話の方のお話だと思います。しかし今回読んだのは、イヤミス女王の真梨幸子が書く、ミステリー小説。Pinterestで表紙デザインの参考を探していたときにみつけて目が留まり、帯をみた瞬間にメルカリでポチりました。
背面の帯にはあらすじが書いてあったけど、この内容からは想像できないラストが待っていてかなり衝撃的でした。
拗れた三姉妹の人生
冒頭は、童話である三匹の子豚をベースにしたお話から始まります。
三姉妹が幼少期に何度も言い聞かされていた「お母さんの宝物」とは、蛇岩家が持つ財産のこと。それから「煉瓦の家」というのは狼に襲われることなく平和に生き延びていくことを指していました。
財産の存在は最終局面まで明かされませんが、
三匹の子豚と称されている三姉妹は、それぞれ不倫関係に溺れ、虚言癖を煩い、人を鬱に貶めて自殺させるなど、平和とはかけ離れた人間たち。
財産を守るため、自分を守るため、狼には気をつけろという母親からのお教えがあったにもかかわらず、誰一人として円満な「お家」を持つことができませんでした。
三姉妹の長女が、不倫相手と作った子供である斎川亜樹はシナリオライター。しかし亜樹もまたその血の運命か、プロデューサーである北川史郎との不倫に溺れ、業界を干されてしまいました。
シングルマザーとして自分を産んだ母親から「お母さんの波瀾万丈な人生は朝ドラにぴったり」という言葉を何度も何度も聞かされていた亜樹は、母親の人生が朝ドラなんて、と心では否定しながらも「三匹の子豚」という母親の人生を題材にしたかのようなシナリオを書いてしまいます。
業界を干されて少し経ってから、亜樹のシナリオは有名な賞を受賞。
関係がバレて以降亜樹との接触を絶っていた北川史郎は、このネームバリューにすぐさま飛びつく卑劣な男でした。
亜樹が書いた「三匹の子豚」は朝ドラで大ヒットを記録するのですが、、
結局そのシナリオの元である三姉妹からことごとく迷惑を被ることとなります。
「煉瓦のお家」を作るどころか、社会的弱者に育ってしまった三姉妹をはじめ、登場人物の女性はみんな拗れた人間性を備えているものばかり。
最終局面で実態が明かされていくにつれ、関係性がよくわからなくなってくるのですが、最後に出てきた相関図をみて驚愕することになりました。
蛇岩家で語り継がれた、また実際に一家を脅かしていた狼の正体は、この相関図でやっと明らかになります。
三つの軸で考える狼の正体
今回、この物語で表現されている「狼」の正体は、ある一人だけに絞られるものではなく、三つの軸あるのではと考えています。
まず一つは、蛇岩家の財産を狙うもの。
蛇岩家の血を継ぐものたちは、事故で死んだり、逮捕後の獄中などで不自然に自殺したりと次々に命を絶っていきます。
これを、裏から操っていた菊村藍子の正体が、物語終盤では明らかになっていました。
そして二つ目は、北川史郎。
この男は、蛇岩家から追い出されたという過去を持つ菊村藍子(実母)の恨みを晴らすために、
蛇岩家の女性全員と性的関係を持ち、時には子を成し、またその子をも食い荒らすような、特殊性癖の持ち主でした。
つまり斎川亜樹は史郎の実の娘。そんな亜樹にも、自分の子供を妊娠させていたというかなり胸糞な人間でした。
最後に三つ目は、蛇岩家に恨みを持つ北川史郎を愛するものたち。
菊村藍子は、もちろん自分を追い出した蛇岩家に恨みはありますが、史郎の悪癖を知っていながらも看過し、史郎が幼少期に犯した罪に置いても隠し通そうとしています。
さらには獄中の斎川亜樹へ自殺をそそのかすような手紙を送りつけるなど、三姉妹の家系ではなく、実子の史郎へ財産が運ばれることを望んでいました。
当の史郎は一人目の妻と離婚し、再婚をしています。そしてその再婚相手というのが、シナリオライター斎川亜樹を取材していた平野克子。
平野克子は、史郎との子供を妊娠した亜樹に接触。事故に見せかけて流産させています。
物語の最後には、史郎の一人目の嫁である依子が狼であることを仄めかすように書かれていましたが、菊村藍子も、北川史郎も、平野克子もまた狼。蛇岩家の遺産相続権を持たない人間たちのことをすべて狼であると表しています。
購入してから随分と長い時間積読していたけど、読み始めると一気に引き込まれてすぐに読み終わった。最後の終わりかたや、毒油事件の扱いなど、理解するのに好きし時間がかかった部分もあったが、展開をもう一度追ってみたり家系図を見ながら、自分なりに狼を考察できたのが楽しかったです。
ミステリーの中でも、胸糞の悪い後味が残るイヤミスは、報道される事件などを見るだけでは味わえない人間の悪の深さが感じられるから面白いなと感じました。真梨幸子、まだまだ積んでいるので早く読みたいな。
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