私と白いマリア像

関西各地の古書イベントが無くなる。
水の都も京都の古本市も無くなった。谷町の即売会はやっているみたいなので、明日にでも行ってこようと思う。
古書店に行くこともあまりしなくなった。ちょっと前に行った、と言ってもいつ行ったかすぐに思い出せない。
水の都で古雑誌を漁って、どっかの喫茶店で茶を飲みながら手帳に次の予定を書くことも無くなった。

周りの事を責めても仕方がない。本の話をしよう。
この話は既にどこかに発表した話だから、もしかすると「アイツか!」となるかもしれない。そう、たぶん、きっと、アイツ。

私が所謂「初版本」を集め始めたのは高校三年生、2017年の秋。
ちょうど大学の公募推薦が終わって、結果を諦めた気持ちで待っている時だった。
その年の夏に「文豪とアルケミスト」を始めて、九月に菊池寛記念館とのコラボ企画に行った。近代文学に興味を全振りして、先生をまた呆れさせて、学業クソくらえと思っていた私は自転車で隣町の古書店に行った。
太宰治の全集がビニール紐でまとめられていて、何かよくわからない本が並んでいるガラスケースがある。
自分の背より高い棚と、ぎっちり詰まった本の圧迫感。
埃っぽい空気と日に焼けた紙の匂いの中を何時間も往復していた。

その中に、一冊だけビニールに包まれた本があった。
すうっと引き寄せられるようにその本を取る。どうしてか、全身が震えた。
芥川龍之介『西方の人』
背表紙の所々擦れた金の文字をビニール越しになぞった。
昭和四年初版、函欠、天に傷アリ。しかし、綺麗な本だった。
表紙の白いマリア像が微笑んでいて、優しい緑の地に目を引く赤と紫のライン。値段は2000円。月のお小遣いは5000円だったから、買えなくはない。
買おうとしていた本を元の棚に戻し、『西方の人』をレジに持って行った。

これが、私のコレクションの始まり。
基本一人で行動するのが好きで、あまり恐怖も感じない私は通学定期という魔法のカードを使い倒し、行ける範囲の古書店や即売会に行った。

……制服のまま。
皆が制服でUSJやディズニーに行っているとき、私は制服で古本漁ってた!

「制服のJKが戦前の『文藝春秋』漁ってる!」ってツイートされてもおかしくなかったな……
いや、自分で言っておいて文面強いな……?

「自分は変わっている人間だと思う」のYESに花丸つけるぐらいには変わっていると思います。
ちなみに、公募推薦は見事合格を勝ち取り、私の大学受験は終了しました。
授業には出席していたけど、最後は寝るか本読むかでした。よく刺されなかったな……


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