月刊読んだ本【2024.06】
意識を揺さぶる植物 アヘン・カフェイン・メスカリンの可能性
マイケル・ポーラン/宮﨑真紀 訳 (亜紀書房)
想像していた内容とは違ったけど、著者が自分で試しているのが面白い。植物に法が適用されるのか? 現代人はカフェインに支配されていないか? と人間社会との関わりに切り込んでいく問いが心をゆさぶる。
アヘンの章では、著者がケシの育成を試みる。育てること自体は合法のはず……。でも著者が調べれば調べるほど違法な気がしてくる。育てること自体は合法っぽいけど、アヘンを精製する目的で育てるのは違法っぽい(そんなん自己申告やん)。自分の庭でケシを育てていて捕まった人もいるっぽい。いったい何が許されて何が許されないのだ? 警察はいちいち動かないだけで、ケシの種を販売することも違法だよという声もある。そこでやばそうだからやめとこうじゃなくて、著者は逆に惹かれてしまっている。一人の園芸家としてケシを育ててみたいだけだ、そして一人のジャーナリストとしてそのレポートを書いてみたいだけだ。そんな内容。正気じゃないな。正気でジャーナリストはやれないのかもしれないけれど。
カフェインの章では、著者自らカフェイン断ちを行う。カフェイン断ちなんて僕にはできない。小学生の頃から毎日のようにコーヒーを飲んでいるので、カフェインがない生活なんて考えられない。1日飲まなかったら頭痛がする。でもそれは現代人の病でもあるのだ。著者はカフェイン断ちをして最初は苦しんでいたけれど、やがて快適な睡眠を取れていることに気づく。茶やコーヒーが歴史を動かしてきたけれど、人類はカフェインに支配されてはいないか? 朝コーヒーを飲んで眠気を覚ます。でもカフェインのせいで夜にぐっすり眠ることができなくなる。そして眠い頭で目覚めてまたコーヒーで眠気を覚ます。その悪循環。きっとカフェイン断ちを遂行できた人にしかわからない世界があるのだろう。そっち側に行ってみたい気もするが、僕には無理そうです。
メスカリンの章では、ネイティブアメリカンに取材に行く、つもりが新型コロナウイルスの影響で外出できないというハプニングが著者を襲う。なんやかんやあって最終的に集会に参加することができた。幻覚剤による強烈な体験は自己の変容を促すようで、興味深くもあるが恐ろしくもある。これも結局体験した人にしかわからないのだろう。著者は幻覚剤研究者の言葉を引用して、トリップしたときの体験は自分の中にあったものを取り出したに過ぎないと紹介する。幻覚剤のトリップ時に残したメモに書いてある言葉こそが本来の自分なのかもしれない。だからこんな感想文のような文章はただ何かを書こうと思って無理やりひねり出した見せかけの虚像に過ぎない。
ニュートン式超図解 最強に面白い!! 周期表
桜井弘 監修 (ニュートンプレス)
僕が高校生の頃は111番ぐらいの元素までしか教科書の周期表に載っていなかった。今は118番まであるらしい。この瞬間も加速器で元素はぶつけられ新たな元素を生み出されているのだろうか。ほんの一瞬しか存在しなかった元素を発見してどれほどの意味があるのだろうか。やがてそれらも人類は制御して想像も及ばない未来が来るのだろうか。別の惑星から資源を採る時代がきたら、現在地球上で希少なものも価値を失うことがあるだろうか。周期表の空欄の部分を、推測でこういう元素だろうと言われていた時代はとうの昔に過ぎ去ってしまったけれど、それを発見するロマンを化学は持ち続けていくことはできるだろうか。
三体
劉慈欣/大森望、光吉さくら、ワン・チャイ 訳/立原透耶 監修 (ハヤカワ文庫)
文庫化したので読んだ。結論から言うとめちゃくちゃ面白い!!!!!
中国のSF? 難しそう。登場人物の名前も覚えられなさそう。読みにくそう。そんなのは杞憂だった。人物の名前はページごとにルビを振ってくれているし、翻訳も読みやすい。
文化大革命のシーンからはじまって、いったいこれがどうSFになっていくのだろうかと思いながら読み進める。現代のパートに移って、不思議な出来事が主人公の周りで起き始める。どういうことなんだろう? そして『三体』というVRゲームが出てきて、そこでは紂王や文王やらがでてきて俺歓喜という展開だった。でもそれが? どうなっていくの? SFとは? とどんどん続きが気になって読み進めてしまう。
そして明らかになるSF設定。なるほどSFだった。それもSFではよくあるテーマの。でもだからといってありきたりな展開ではない。これが21世紀に中国人が描くSFか。天才っているんだな。世界的大ベストセラーの理由がわかりました。全員読め。
ニュートン式超図解 最強に面白い!! 虚数
和田純夫 監修 (ニュートンプレス)
虚数のことなんて考えたことがなかった。
概念としては高校数学で習うから知ってはいるけれど、それがどのような意味を持つのかわからなかった。
本書を読んでいて僕は思った。スーパーファミコンの拡大縮小機能と回転機能はこの原理を利用しているのではないのか。知らんけど。
あとやはりいつも思うけど虚数時間てなんだよ。
「やめられない心」依存症の正体
クレイグ・ナッケン/玉置悟 訳 (講談社)
名著すぎる。読書、やめられないよね~。という話ではないですが、本を積んで充足感を得るという行為は一種のアディクションなのではないか。自分が深くアディクションかどうかにかかわらず、アディクションのことを知ることは大事なことだと思った。
アディクションの心理を解説しているわけだけれど、共感できる点が多々ある。どうして私のことを知っているんだって嬉しい反面苦しみもある。なので自分もアディクションなのではないかと思うが、この程度ではアディクションではないのではないか。逆にこの程度でもアディクションなのではないか。
理論的に筋が通っているわけではなく、自分の衝動や感情や欲求から行動を起こしてしまう。またお酒ばっかり飲んではいけないと思ってはいるかもしれないけれど、それを止められない。自分の中のアディクションの人格にコントロールされているようなものだと思った。そしてアディクションから回復するには、自分のアディクション体質に打ち勝たねばならないのだそうだ。そうじゃないと、アルコールをやめても今度は食べるのをやめられない、になる可能性があるという。
こういう環境で育った人はこうなりやすい、という記述がこの類いの本には出てくるけど、じゃあどうしたらええねんてなる。親がアディクションだったり、虐待されて育ったり。
じゃあどうしたらええねん。
本書の最後の方には、「つながりを求める欲求」が「人生に意味を求める欲求」になると書いてある。そして正直になって人間関係を回復させる。最大HPが100の人は現在HPが5の状態から回復は可能かもしれないけれど、最大HPが5の人はどうしたらいいのだ。それを乗り越える気力があれば、もっと豊かな人生があるのだろうか。そんなもの見たことない。こわい。どうせ誰も助けてくれない。俺はあとは酒を喰らって死ぬだけや。
マジ名著でした。そして文庫化もしてるらしい。
三体Ⅱ 黒暗森林
劉慈欣/大森望、立原透耶、上原かおり、泊功 訳 (ハヤカワ文庫)
面白すぎるやろ。予想のつかない展開がひたすら続く。ルオジーの頭の中のことは読者にもわからないけど、それが面壁者として我々読者にも伝えないという構造になっているのだなぁと思った。
わけもわからず面壁者として選ばれたらルオジーのような行動を取るのはむしろ自然だろう。世界を救う方法なんて思いつくわけもない。そこで読者に共感させ、ルオジーに同情させておいてから、最後の反撃でルオジーを圧倒的主人公に押し上げる物語のやり口に感動する。
冷凍睡眠の技術があったとしても僕は利用したくないだろうな。100年後に状況が好転しているかもしれない? 状況がどうなっていようと僕はあまりどうでもいいだろう。この小説が文庫化したタイミングで読んだのは今を生きていたからで、冬眠している間にそれが過ぎ去ってしまってはこの興奮は味わえなかっただろう。もちろん後世に読む面白さもあるだろう。どっちもあってどっちかしか選べないのなら、今の世の状況を見続けたいだろう。
どうあがいても勝てないような状況から逆転するというプロットを考えたとき、作者は興奮しまくりだろうなと思う。そしてこれで終わりじゃなくて、3作目があることが驚きだし不安だし楽しみである。
ひとこと
6月ちゅうに三体読んでしまうつもりだったけど暑くて無理だった。早く冬になってください。というよりサガエメラルドビヨンドのせいです。人生足りない。どうしたらええんや。
でもそういう2024年6月を過ごした人生とそうじゃなかった人生があるだけだよ。