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「那須サファリパーク飼育員3名がトラに頭や腕を噛まれて重症」を考える

先日のニュースでとても悲しい事故を拝見しました。事故に遭われた方は、どんなに怖かったでしょうか。お一人は片手の手首より先を失ってしまったということでした。

那須サファリパークは、同様の事故が3度目と報道されています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/e45422f1ba5864243f4c2ac8d46db2f851803275

「いずれも飼育員への教育が徹底されていなかった」と結論付けされていますが、「教育の徹底」という言葉はとても曖昧です。

具体的にどんな行動が「徹底」なのか?そこを考えず「飼育員の気の緩み」や「ヒューマンエラー」が原因だと結論付けし、有効な施策・改善・教育をすることなく営業すると、いつか4度目が起こるかもしれません。

私には報道の情報しか分かりませんが、航空会社でも利用している事故を防ぐ考え方に沿って今回の事故を考察してみました。

まず航空会社ではCRMという考え方を採用しています。医療業界や命に直結する業種ではよく聞く言葉かもしれません。
CRMとはCrew Resource Managementの略。「乗務員が自分と自分以外のあらゆるリソースをマネージメントすること」という意味があります。パイロットも客室乗務員もこの訓練を受けます。(航空会社によって違いがあるかもしれません)

航空業界や医療業界では、「リソース」はSHELモデルで表します。

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中心のL(liveware)は自分自身です。自分自身も周囲の項目も波がありますが、これはそれぞれのものが常に波打つように変化していて、常に自分も変化しているし、周囲の項目も変化し続けるという事を表現しています。

そんな中、自分とその周囲にあるリソースを上手くマネジメント(やりくりする事)が大切です。中央の自分と周囲の項目が離れすぎると事故やアクシデントが起きやすくなります。その為、離れすぎないようにマネジメントしなければいけません。


では、今回のメディアに出ている情報は以下です。

開園準備をしていた飼育員3人がトラに頭や腕をかまれ重傷を負った。
飼育員は本来トラがいるはずのない通路付近で鉢合わせしたとみられる。
開園前の点検のため、屋外の展示スペースに向かおうとしていた女性飼育員(26)が襲われ、駆けつけた女性飼育員(22)と男性飼育員(24)も相次いでかみつかれた。
3人は命に別条はないが頭の骨を折るなどの重傷を負い、現在も入院している。

襲ったのはベンガルトラの雄「ボルタ」。体長は約2メートルで体重150~160キロ。なぜ通路にトラがいたのか。同園は確認ミスを原因に挙げる。
前日担当した20代の男性飼育員は、トラが展示スペースからトラ用通路に入る姿を確認した。その後、遠隔操作で獣舎の扉を閉めたとみられるが、「獣舎にトラが入ったかどうかは分からない」と説明しているという。
マニュアルでは、獣舎にいるか目視で確認することになっているが、この飼育員はしていなかったという。
今回の現地調査の結果、前日の担当飼育員2人は、当時、おりのある建物周辺に雪が積もっていたため業務マニュアルの手順にない雪かきを行っていた。

県の立ち入り検査では、獣舎内のエサは手つかずの状態で、トラ用通路にはトラのふんが落ちていた。トラは獣舎のエサも食べられないまま通路で一晩を過ごし、翌朝になって飼育員と出くわしたとみられる。

当日の気象も被害を拡大させる一因となった。施設では朝、動物を外に出す前に、飼育員が外側から周辺に危険がないか点検する。
ところが、5日は点検の際に通る通路が凍結してた。このため、トラ担当の26歳の女性飼育員が空いている小部屋と通路を通って外に出ようとしたところ、本来、トラがいるはずのない通路で鉢合わせしたとみらる。結果的にトラはその飼育員を襲った後、飼育員用通路にまで入り込むこととなり、助けに駆けつけたほかの2人も襲われる事態になった。

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事故防止を考える際には、この文章から分かる事をSHELモデルに当てはめていくと、課題が見える化しやすいです。

【software】
・マニュアルに不備がないか?妥当か?
・マニュアルには書いていないけれど、先輩から後輩に伝承される「現場のルール」がなかったか?
【hardware 】
・設備・施設の作りに問題はなかったか?
・設備が使用できなかった場合の代替手段などはあったか?
・必要なアイテムが装備されているか?また使える状態であるか?
・緊急時に利用する装備は十分か?
【environment】
・天候の影響を受けていないか?
・音・照明など確認しやすい環境であるか?
・従業員の勤務体系や人員は妥当か?
【liveware(自分以外の人)】
・コミュニケーションが取れていたか?
・上司・部下の関係などで言いづらい関係性ではなかったか?
・関わる人の勤務状態や精神状態は良好であるか?
・必要な情報を伝えていたか?
【liveware(事故当事者)】
・思い込みはなかったか?
・マニュアルのルールを正しく理解していたか?
・周囲とのコミュニケーションは取れていたか?
・当日の体調に問題なかったか?

これらは一部ですが、このように事故を検証する際には、どんな要因があるのか?をいろんな方向性から考えていく必要があります。
よくあるのが、「ヒューマンエラーの防止を徹底します」「教育を徹底します」と言うのですが「どこに課題があるのか?」「何を教育しなければいけないのか?」がずれてしまっているという事。
多くの場合には、現場のスタッフが「ちゃんとやる」という事を求めたり、新たにマニュアルを作ったりするのではないかと思います。

ただ、ヒューマンエラーは「ちゃんと」やっても起こってしまうものなのです。だからこそ、そこに(人はミスをする事を前提とした)着目したマニュアルやコミュニケーションを取れる関係性でないと、また形を変えて事故やアクシデントが起こります。

「ちゃんとやる」とは、具体的にどんな行動なのか?もし、その人がミスをしたら、止められる仕組みがあるのか?違いを指摘し合える関係性であるか?上司に対しても疑問や間違いを伝える風土作りができているのか?

そんな教育や風土作りは、誰かがミスをしてもエラーチェーンを切りやすくしてくれます。

驚かれるかもしれませんが、医療現場や以前までの航空機事故は「コミュニケーションが取れていたら防げたかもしれない」事が案外多いのです。

保育の現場、介護の現場、動物園、水族館、遊園地、プール、危険な作業が伴う現場など、命に直接関わる業務では、是非取り入れて欲しいですが、このSHELモデルでの考え方は多くのお仕事の場面で使えると思います。

今回は「ヒューマンエラーで確認ミスが原因」と報道されていましたが、なぜ確認ミスが起こったのか?をその人の心理にまで目を向けて分析していただきたいと願っています。同じような事故が起こらないためにも。

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Asami Yamamoto
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