”THE BAND OF HOLY JOY"の事。
あの日あの時あの頃に大好きだったバンドは、大抵が解散、分裂、消滅しているバンドが多い。それは音楽業界の不況、特にロック系に関して...ってのは時代なのだから仕方が無いけど、何回か解散を繰り返しながら、懸命に活動を続けているバンドだっている。著名なバンドならば、ツアーだけでもやっていけるんでしょうが、一部の人に限定して人気のあったバンドはキツイだろうなあと思いますが、聴くことで応援したいが、活動の実態を観ることは出来ない。ああ、じれったい。このTHE BAND OF HOLY JOYなんて、正にそうだったりします。
BAND OF HOLY JOYは、英国イングランドはロンドン南西部の町、ニュークロスで結成されたバンドというかユニットです。その始まりは、中心人物のJohny Brownが作り出した、チープな機材や電子楽器を使用したジャンク・ポップでした。バンドを名乗ってはいますが、基本的にはJohnny以外のメンバーは非常に流動的に変遷しています。1983年頃から自主制作のカセットでアルバムを自主リリースした後、1985年にインディ・レーベルの「Flim Flam Productions」と契約しています。このレーベルは、彼らとTHE BELOVEDの作品だけをリリースする、ごくごくプライベートなレーベルだった様です。数枚のシングルとミニ・アルバムをリリースした後、1987年には2枚のアルバム"More Tales From The City"と、”When Stars Come Out To Play”をリリースしています。驚いたことに、この時点で以降のバンド・サウンドの核は出来上がっていました。アコースティック楽器とチープなエレクトロニクスを混ぜ合わせ、フォークとパンク、バンドネオオン、フランスの場末のキャバレーでかかっているような怪しげなジャズとジプシー音楽まで、幅広い音楽素材をミックスして、独特なサウンドへと昇華していました。この2作で注目され、当時はインディ・レーベル最大手だった「ROUGH TRADE RECORDS」との契約をモノにします。先のTHE BELOVEDも、同時期にメジャーのWEAへ移籍してヒットを飛ばす事になりますので、このレーベル、耳は確かだったのでしょうが、この2バンドを送り出して間もなく消滅しています。
1989年には、ROUGH TRADEから移籍後初のアルバム”Manic, Magic, Majestic”をリリースします。これまでの彼らのマニアックなサウンド志向を、オーバーグラウンドなポップ・ソングに昇華させた傑作アルバムです。紙芝居かサーカスを髣髴とさせるチープな雰囲気でトータルに物語を紡ぐ、ある意味シアトリカルでセンチメンタルでグロテスクで、ちょっと不安定感のある独特な自主制作時代のテイストが残っていて、そこら辺が大変魅力的だったりしました。このアルバムは、UKインディ・チャートの7位まで上昇するヒットとなっています。
翌年には、前作をカラフルにしたポップなアルバム"Positively Spooked"をリリースしています。すっかり洗練されたサウンド・メイキングが為されたこの作品は、これまでの彼らのサウンドには感じなかったダイナミズムと勢いがあるもので、完成度の高いポップな作品として、非常に魅力的なモノで、個人的には大好きな作品です。このアルバムは日本盤としても初めてリリースされ、邦題は、アルバム収録のシングル”Evening World Holiday Show”からそのままのタイトル「イブニング・ワールド・ホリディ・ショウ」でした。この作品を引っ提げて大規模なツアーに出ましたが、前作を上回るヒットとはなりませんでした。そして1991年と言えば、英国音楽業界を激震させた、「リーマン・ショック」ならぬ「ラフ・トレード・ショック」が起こった年で、レーベルは金銭不履行に陥り、最終的には破産しています。そして、運よく救われたバンドを除いて、幾多の音源が闇に葬られたのでした。一夜にしてレーベル契約を失ったバンドは、方向性も見失ったのか、1992年に自主でアルバム”Tracksuit Vendetta”を、バンド名をHoly Joyに変えてリリースしますが、翌年の1993年に解散しています。その後、メンバーは、音楽業界から足を洗い、ジャーナリストや、脚本などの仕事をしていた様です。
それから10年経過した2001年、かつての仲間からの資金援助や、メジャーのZomba/BMGの傘下レーベル「Sanctuary Records」との業務提携により、ROUGH TRADEが復活します。翌2002年、バンドはBAND OF HOLY JOYとして再結成、アルバム"Love Never Fails"をリリースしています。これは、ROUGH TRADEとの契約が1枚残っていたからという場当たり的なものではないかと思われ、流石に10年も音楽から離れていたブランクは大きく、全盛期(と言っても前作の頃)ほどの完成度には至らなかった。アルバム発売のプロモーション・ツアーを行った後、再び解散してしまいます。
2007年に、突然バンドは再び活動を始めます。同じ頃に「CHERRY RED RECORDS」からリリースされたアルバム”Leaves That Fall in Spring”は、初期から”Manic, Magic, Majestic”までの楽曲を編集したコンピレーション・アルバムでした。"Positively Spooked"からの曲が1曲も入っていないあたり、よっぽど不本意な作品なのかな?と勘ぐってしまいます。粒ぞろいな彼ら流のポップ・ソングを聴くことが出来て、個人的には大好きな作品なので、ちょっと複雑ですが...。このアルバムの売上を元手にしたのか、2008年からはアメリカに進出し、殆どが自主リリースみたいな感じにも関わらず、1年に1枚以上のペースでアルバムをリリース、ツアーも行っています。バンドの変名であるRadio Joy名義で演劇やアート・パフォーマンスも行うなど、ミュージック・ビジネスの抑圧から解放され、強い社会的メッセージ性があるなど、音楽性は変化しましたが、自由でマイペースな活動を行う彼らの前途が明るければいいな、と思います。
ROUGH TRADEからリリースされた作品は、入手困難な訳ではありませんが、相変わらずリイシューされずに封印されたままです。届くべき人には確実に届いている作品ではありますが、そろそろ発売〇〇周年を記念したデラックス・エディションのアナログ盤とかでリイシューしても良いのでは無いかと思ったりします。それが再評価に繋がればいいな、と。まあ、本人達は望んでいないのかも知れませんが...。
今回は、問題のアルバム...ではなく、紛れもない名盤”Manic, Magic, Majestic”から、シングルにもなった名曲を。
"Tactless" / The Band of Holy Joy
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?