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名作を訪ねる(1)

チェスプロブレムにより親しみを感じてもらうための試みとして、過去の作品から名作を紹介する試みを始めます。
紹介作品は私が独断と偏見により選びますが、おおむね以下の基準に従って選ぶことを考えています。
・ジャンルは問わない。ダイレクトメイト、ヘルプメイト、セルフメイト、フェアリーなどからなるべく均等に選ぶ。
・その時代におけるエポックメイキングな作品を選ぶ。

第1回はこちらの作品です。

第1回

Ferenc Fleck, Magyar Sakkvilag, 1934

#2 (9+7)

2手メイト。白の駒が強力なので簡単にメイトできそうですが、どうでしょうか。
たとえば1.e7(狙いは2.e8=Q/R#など)では、1…c5 (d4への効きを消す)や1…Bf5などで守られてしまいます。
Sd5がどこかに動くと様々な狙いがありますので、Sd5を動かす手も考えたいですが、どこに動かすのが良いでしょうか。黒のBe4が動くと黒Kがe4に逃げられるようになるので、e4に利かせる位置が良さそうです。


1.Sc3! (2.Qd4/Qc7/Bd4/Bc7#)
1…Bf3 2.Qd4#
1…Bd5 2.Qc7#
1…Bf5 2.Bd4#
1…c5 2.Bc7#

1.Sc3!が解です。これは黒が何もしなかった場合にQd4, Qc7, Bd4, Bc7の4つの狙いがあります。
さて、1.Sc3!の後に黒が何を指せるかを考えてみると、1…Bf3/Bd5/Bf5/c5の4つの選択肢しかありません。
ここからがこの作品の狙いですが、その4つの選択肢のどれを指しても、もともとの4つの狙いのうち1つだけでメイトになるようになっています
たとえば1…Bf3としてみます。こうなると、2.Qc7?/Bd4?Bc7?では2…Kf4!と逃げられるので、2.Qd4#のみでメイトになります。ほかの3つの手についても同様です。

このようなテーマを、作者名から取ってFleckと呼びます。Fleckをさらに細かく分類しようとする試みがKabe Moenによりなされていますので、以下に簡単にまとめます。本文が読みたい方はhttps://www.theproblemist.org/mags.pl?type=tpから2021年1月号をご覧ください。
この作品では、
・白の初手の後の狙いが黒のそのあとの手により完全に切り分けられている
・黒の手が切り分ける手により全て網羅されている
・黒の異なる手に対して白が同じ手でメイトにすることがない
といった観点で、極めて理想的なFleckテーマが表現されています。

Fleckテーマの分類について

Kabe Moenは以下のようにFleckテーマを分類しています。
初手の後のスレットについて、
a) 白のスレットは、黒の手のあとに全て登場するか?
b) ある黒の手のあと、白の2手目が複数登場することはないか?
c) 白の2手目が、異なる黒の手のあとに登場することはないか?

ここでa)とb)をともに満たすものをCanonical Fleckとよび、a)のみ満たすものをPartial Fleck、b)のみ満たすものをIncomplete Fleck、a)もb)も満たさないものをIncomplete Partial Fleck (あるいはWild Fleck)と呼んでいます。

さらに、a)およびb)をみたすもので、c)も満たされる場合にそれをIdeal Fleckと呼んでいます。上記Ferenc Fleckの作品はIdeal Fleckとなっています。(ややこしいですが、前者が人名で後者が普通名詞です)

Task

この作品では初手のあとのスレットは4通りでした。Ideal Fleckの場合、これはどれくらいまで増やせるのでしょうか?
14に増やした作品がこちら。これはルークのメイトなので、14が最高の数です。

白のナイトの8通りの動きがスレットとなっており、それに対して黒のナイトの8通りの動きもディフェンスとなっている作品がこちら。(これはIdeal Fleckではないですが)

上記のように、あるテーマにおける可能な最大値を目指す作品をTaskと呼びます。特に理論的な最大値が決まっているもの(上記のルークやナイトの場合など)は目標が明確となります。
(ただし、言語によってはTaskを訳した言葉がチェスプロブレムの意味で利用される場合があり、翻ってTaskがチェスプロブレム一般をさすことが稀にあります)

チェスプロブレムは、過去の作品から漸進的に発展した作品を作り続けることで人類の資産を次第に豊かにしていく試みの総体であり、そのうちのひとつがTaskのような記録への挑戦の試みです。

次回更新

次回更新はヘルプメイトを紹介予定です。

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