マガジン

  • チェスプロブレム解答入門

    チェスのOTBをプレーする人向けに、チェスプロブレムの解答競技に参加するための知識をまとめました。

最近の記事

チェスプロブレム作品集

私がこれまでに発表した作品の中から個人的に気に入っている作品を集め、作品集としました。現時点で30作が含まれていますが、随時更新予定です。今後100作になるまでは増やしていく予定です。 公開済みかつ(雑誌投稿作の場合は)結果稿も公開済みのものを集めています。 以下よりダウンロード可能です。

    • 名作を訪ねる(14)

      第14回 長編ヘルプメイトには一つの定石があります。それは、白がビショップ(と、必要に応じて少数のポーン)だけを持ち、そのビショップに対して様々なラインの効果が絡まることでひとつのメインラインをなすというものです。 F. Abdurahmanovic & b. ellinghoven, 2nd Prize Die Schwalbe, 1997 この図面に添えられた情報は作品に対する保証書です。Abdurahmanovicとellinghovenという両巨匠の名前に加え、

      • 名作を訪ねる(13)

        第13回 しばらく間が空きましたが、第13回です。今回は3手メイトを紹介します。 Hannemann, K. H., 1st Prize Skakbladet 6. Turnering, 1920 3手メイトは連載内では初登場です。ちなみに、3手メイトを解くのは2手メイトに比べると格段に難しくなります。4手以上になると逆にメインラインが1つになるので簡単になると言われており、3手メイトはダイレクトメイトの中では最も難しいジャンルであると考えられます。 解 1. Rh5

        • フェアリープロブレムの創作過程

          チェスプロブレムを作っているということを話すとしばしば訊かれる質問が、「どうやって作るのか」ということに関するものです。ここでは、対象をフェアリーに絞ってその手順の一端を書いていきたいと思います。 題材はこちらです。 H. Maeshima, ded. to Anirudh Daga The Hopper Magazine (6), 2024 条件はEinstein Chess、設定はS#2で、2つのTryがついています。 Einstein Chessとは、ある駒が駒を取

        マガジン

        • チェスプロブレム解答入門
          4本

        記事

          名作を訪ねる(12)

          第12回 第12回はスタディを取り上げます。スタディは最もOTBに近い分野であり、実戦の訓練として用いられることもありますが、もちろんそこに芸術性が込められた作品もあります。 Loyd, S. The Chess Monthly, 1860 視点は白番です。白番で、この局面からドローにします。 なお、チェスのエンドゲームには勝ち/ドローが決まるような駒の残り方があり、エンドゲームではそれらの結論を知っていることが求められます。(例えば、KQ対KやKR対Kは勝ち、KB対K

          名作を訪ねる(12)

          名作を訪ねる(11)

          第11回 第11回はフェアリーです。前回はフェアリー駒について紹介したので、今回はフェアリー条件について紹介します。 フェアリー条件は、通常のチェスのルール(Laws of Chess記載のもの)に対して追加のルールを設定するものです。例えば、Checkless Chessという条件では、メイト以外のチェックになる手が禁止されますし、Circeという条件では取られた駒が初期位置に復活します。このように、指すことができる手に制約が付く、あるいは通常の指し手に追加して可能な

          名作を訪ねる(11)

          名作を訪ねる(10)

          第10回 第10回はプルーフゲームです。日本でチェスに関係される方であればぜひ知っておきたい作品です。 Satoshi Hashimoto, 2nd Prize Problemesis, 1999 手数を数えてみると、黒は(キャスリングしたと仮定して)10手が見えています。また、白のdポーンがdxQe5(e4,e3)-exfとしてf6に到達するのは黒の手数が足りないので、Pf6はもともとgポーンであったこともわかります。 そのようなことを考えながら解答を進めると、以下

          名作を訪ねる(10)

          名作を訪ねる(9)

          第9回 第9回はセルフメイトです。 Henry Wald Bettmann, Funkschach, 1st Prize 1st Babson-Task Tourney 1925/26 競技会の名前で解はわかってしまいますが、見なかったことにして考えていきましょう。 黒からの強いディフェンスで1…bxa6 ~ 2…Rb5+というものがあるので、初手はb7のポーンをピンするのがほぼ絶対です。そして、1.a8=Q?は1…Rxa6+でまったくだめなので1.a8=B!がほぼ

          名作を訪ねる(9)

          名作を訪ねる(8)

          第8回 第8回はヘルプメイトを取り上げます。これも大変な名作です。 Michel Caillaud, 1st Prize Olympic Tourney, Thessaloniki, 1985 作者のMichel Caillaud(1957-)はGM for compositionで、チェスプロブレム愛好家の間では伝説の作家として知られています。ほぼすべてのジャンルにわたりきわめて高いクオリティの作品を発表し続けており、その創作意欲は今なおとどまるところを知りません。

          名作を訪ねる(8)

          名作を訪ねる(7)

          第7回 連載に間があいてしまったことをお詫びいたします。第7回は、ふたたび2手メイトから紹介します。 有名な作品なので、見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。 Loshinsky, L. 1st-2nd HM Tijdschrift v. d. Nederlandse Schaakbond, 1930 Lev Loshinskyは20世紀初頭に活躍した大作家です。 本作はLoshinskyが17歳の時に発表されています。駒数はわずか13駒ですが、この作品に込め

          名作を訪ねる(7)

          名作を訪ねる(6)

          第6回 第6回はエンドゲームスタディを取り上げます。 エンドゲームスタディは、与えられた局面から勝ち、あるいは引き分けになるような手順を見つけるという設定です。実戦(Over the board)にきわめて近いのですが、その一方で実戦ではなかなか見られない驚くべきコンビネーションなども見られます。 実戦から取材された手順が用いられることはありますが、実戦の局面がそのまま用いられることはほとんどありません。 L. Mitrofanov, 1st Prize Rustavel

          名作を訪ねる(6)

          名作を訪ねる(5)

          第5回 第5回はフェアリー入門です。「フェアリー」が意味するところは幅広いので、まずはこの記事では「通常の(現代ではFIDEのLaws of Chessで規定される)チェスのルールに変更を加えたもの」あるいは「通常のチェスの目的に変更を加えたもの」をフェアリー要素と考えます。 このようなフェアリー要素が加わったチェスプロブレムをフェアリープロブレム(略してフェアリーとも)と呼びます。 そうなると、第2回・第3回で紹介したようなヘルプメイト・セルフメイトもフェアリーに含まれ

          名作を訪ねる(5)

          名作を訪ねる(4)

          第4回 第4回はプルーフゲームを紹介します。 プルーフゲームは、レトロとよばれるジャンルの一つで、実戦の初形から始めて与えられた図に至る手順を求めるものです。 このジャンルは橋本哲さんが世界的に有名な作家で、いくつもの新しいアイディアを含む作品や、既存のアイディアを深化させた作品を発表しています。 チェスの駒の動きを知っていれば誰でも解図に挑戦できることからチェスプロブレムを始められたばかりの方にも非常になじみやすく、それでいて奥の深いジャンルです。 Dmitri P

          名作を訪ねる(4)

          名作を訪ねる(3)

          第3回 第3回は、予告通りセルフメイトを取り上げます。セルフメイトは、白が自分のKがチェックメイトされるように黒を強制し、黒は白のKをチェックメイトしないようにする、という設定です。セルフメイトは意外と歴史が古いジャンルで、ヘルプメイトよりも古くから存在したことが知られています。 セルフメイトのなかの一つのジャンルとして、Fata Morganaと呼ばれるジャンルがあります。これは、「白が初手をパスすると黒は次の手で白Kを強制的にメイトすることになるが、白にはパスの手段が

          名作を訪ねる(3)

          名作を訪ねる(2)

          第2回はヘルプメイトです。ヘルプメイトは白黒が協力して指定手順で黒Kをメイトにする手順を探すものです。 第2回 ヘルプメイトの過去の名作を紹介するにあたり、一つの困難があります。それは、「良い」ヘルプメイトの形式の判断基準が時代により移り変わってきたということです。 Chris Featherによれば、ヘルプメイトは19世紀に考え出された形式であるとされています。最初期のヘルプメイトは、黒Kをメイトにする手順が一通りしかないものでした。 これはダイレクトメイトなどを考え

          名作を訪ねる(2)

          名作を訪ねる(1)

          チェスプロブレムにより親しみを感じてもらうための試みとして、過去の作品から名作を紹介する試みを始めます。 紹介作品は私が独断と偏見により選びますが、おおむね以下の基準に従って選ぶことを考えています。 ・ジャンルは問わない。ダイレクトメイト、ヘルプメイト、セルフメイト、フェアリーなどからなるべく均等に選ぶ。 ・その時代におけるエポックメイキングな作品を選ぶ。 第1回はこちらの作品です。 第1回 Ferenc Fleck, Magyar Sakkvilag, 1934 2

          名作を訪ねる(1)