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絢爛豪華復刻挿絵本シリーズ「世界の絵本館」の魔法 その2

【「絢爛豪華復刻挿絵本シリーズ「世界の絵本館」の魔法 その1」よりつづく】

1970年代終わりにほるぷ出版から刊行された、「世界の絵本館」オズボーン・コレクション。それは、18世紀から19世紀末にかけて、主にイギリスで出版された絵本の中から選ばれた30数冊を、その色調、大きさ、装丁に至るまで、忠実に復刻したシリーズです。

…というようなことを、その人は、心底この本達に惚れこんでいる、という口調で話してくれました。今思えば、出版社の方が直接販売店へ出向かれたのかもしれません。

少しずつ繰ってくれるページにボーゼンとしつつ、魔法にかかったように、声が出ません。もちろん本文は英語のままなのでさっぱりわかりませんが、挿絵と造本装丁の素晴らしさ、それは、私にもはっきりわかりました。

「あの、これ、おいくらですかっ?」

自分でも驚いたことに、突然私の口から言葉が飛び出しました。

「ここにあるシリーズ全冊で、8万9千〇百円です。」

質問しておきながら、怖気付きました。
とっさに、「あの、あの、この本だけ…」(と、1冊指さして)

「バラ売りはしていないんです。ごめんなさい」

そうか…。
何かしら理由をつけて親にねだることすら考えられない、全く問題外のお値段です。

「わ、わかりましたっ!すみませんっ!ありがとうございます!」

急に自分が恥ずかしくなって、早足でその場を離れてしまいました。

そのまま、参考書の棚に行って、しばらく背表紙を眺めるフリをしました。でも、胸のドキドキがおさまりません。

そして気がつくと、さっき恥をかいたばかりのあの場所へ、また足が向いてしまいました。

「あの、あの、私、買えないんですけど、でも…」

かすれた声でなんとか言葉を絞り出すと、
さっきの方は、わかっていますよ、というように頷きながら、
「どうぞ、好きなだけ見ていってください」
と言ってくれました。

そこには、少し困ったような、でも、同じ仲間をいたわり見守るような、微笑みがありました。

あれから、長い時が流れました。
今、私の本棚には、あの挿絵本のシリーズが、並んでいます。

当時購入した方々が皆大切にされていたのでしょう、しばらく経った後、古書店やネット上で、1冊、2冊、と目にするようになりました。(事情があっても、決して捨てたりはできない、ということですね)それを見かけるたびに、時間をかけて購入してきました。いまだに全部揃ってはいませんが、集め切りたいと思う自分と、これで十分、と思う自分がいます。

憧れは、全てを手に入れられないからこそ、いつまでも輝き続けるのかもしれません。

そして、好きなもの、大切なもの、それを想う気持ちを、人と分かち合うことこそが本当の宝物、と、この美しい本達が語っているように感じるのです。

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