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ウクライナ問題に寄せて(その10):まとめ

今までの記事を、いったんまとめておく。
まとめてみて、これら一連の記事は、ウクライナ問題に限らず、あらゆる紛争・戦争に共通する最も本質的な部分を提示していると、改めて感じる。

○人は、自分の弱さを隠すために武装する。しかし、武装によって強くはなれない。なぜなら、武装解除の方法を覚えた人間だけが、闘いの勝者だからだ。
人は、誰しもが守りたいと思っているものを守るために武装する。
だから、敵も自分と同じものを守ろうとしていることに気づいたとき、戦いは終わる。
つまり、戦いとは、究極の共感を求める行為にほかならない。
この行為によって、初めて人は敵と己れの両方を知るのだ。

○傷つけた本人が癒すのでない限り、いかなる傷も、本当の意味では癒えない。
一般に、加害者側には、誰かを傷つけたという自覚がない。
被害者は、加害者に自覚を求めるために、自分が加害者側に転じる傾向がある。しかし、その矛先は当の加害者に向かうとは限らない。第三者か、そうでなければ自分自身に向かう場合さえある。
かくして、終わることのない報復合戦のシーソーゲームが始まる。このゲームに勝者はいない。
隣人同士の喧嘩によっていちばん傷つくのは「地球」なのだ。
さて、この傷、誰が癒すべきか?

○渦中にある者は、自分が回っていることに気づかない。気づくためには、渦の外に出るしかない。それには勇気がいる。大怪我をする場合もある。
しかし、ひとたび渦の外に出たなら、渦の中がどれだけ危険かを、人は初めて知る。
なぜなら、違う軌道を回る二つの渦が、それぞれの吸引力に引きつけられて、ぶつかり合い、回転をエスカレートさせる姿を、そこで初めて見るからだ。

○「敵」とは、自分自身の「影」にほかならない。
あなたは、自分の人格の「影」の部分を認めることができない。
なぜなら、「影」とは、あなたが普段意識している自己意識の真反対の性格を持つものだからだ。
だからあなたは、本来自分の一部でありながら、そうとは認められない自分の「影」を自分の外に追い出す。追い出された「影」は他人に投影され、その他人からあなたへ向けられる。それはあなたにとって「脅威」だ。だからあなたはそれに負けないように、それと闘おうとする。しかしその闘いは、本来は敵の存在しないシャドーボクシングだ。
それでも、あなたは正式なリング上の試合であると主張する。だからこそ、あなたは必死に「敵」を探し求める。あなたの「影」が敵を欲しているのだ。
このシャドーボクシング同士の試合は、どちらかがそのバカバカしさに気づくまでエスカレートし続け、終了のゴングは鳴らない。

○私たちは、ある学校の同じクラスの生徒だ。あるとき、ひとりの生徒が、もうひとりの生徒を激しく攻撃した。この二人は、もう何年も前から「火種」を抱えていて、私たちはある意味、その「火種」にこそこそと少しずつ油を注いできた。それが今回大きな「火事」を招いてしまった。それは、クラス全体を大きく二分して、その二つの勢力が直接的にぶつかり合う抗争に発展しかねないほど危険な「火事」である。
そこで、攻撃を受けた側の生徒に加担している勢力は、攻撃している側の生徒と直接対決することを避け、その代わり攻撃を受けている側の生徒が、いわばこの抗争に勝利できるよう、武器や物資や費用を提供することにした。さらに、攻撃している側の生徒の家庭の経済状況を逼迫させることによって、相手が降参するように裏工作も始めた。
さて、このクラス、抗争を収束させる気があるのだろうか?
このクラスの最大の問題点は、担任の先生がいないということである。
ならば、クラスの他の生徒全員が、担任の先生役を分担するしかない。

○今、ロシアはウクライナに直接的な軍事進攻を行なっている。それに対して西側諸国はウクライナに対する様々な援助やロシアに対する経済制裁という間接的な対抗手段を用いている。
しかし、直接的であろうが間接的であろうが、「対抗」や「抗議」というやり方では問題は解決しない、ということにそろそろ皆が気づき始めている。
つまり、東西対立(冷戦)という、地球を二分する大きな対立の構図を、そろそろ卒業するときが来ている、ということだ。
もし、渦の外に出ない限り、自分たちが危険な渦の中で回転していることに気づけないなら、私たちは、意識の上だけでも、地球の外に出てみる必要がある。言い換えるなら、「宇宙人の視点を獲得する」ということだ。さらに言えば、既存の価値観・世界観において、いったん死んでみせる、ということだ。

○あらゆる地域紛争とその発展形である大きな戦争は、すべて「外交の失敗」を意味する。しかし、誰もこの失敗を反省していない。
はっきり言って、世界のリーダーたちは軍事衝突を回避したり予防したりする気がない、としか思えない。結局のところ「外交」とは、相手を尊重し、自国と相手国の国益をすり合わせて、双方納得のいく落としどころを見つけ出す作業ではないらしい。言い換えると、「外交」とは、自国の利益をごり押しするために取られる、あらゆる政治的画策のことらしい。
国同士の「外交」に限らず、個人間の関係性においても、今までは「ホンネとタテマエの分裂→腹の探り合い→交渉の決裂→衝突」というプロセスがまかり通っていた。
それを、「ホンネとタテマエの統合→相手の立場の尊重→妥協点を見出す→交渉の成立」というプロセスに換えていく必要がある。
国のリーダーにしろ、国民一人ひとりにしろ、「宇宙人の視点を獲得する」ということが課題である。これを言い換えるなら、「エゴの壁を超える」という課題である。

○「エゴの壁を超える」作業に限らず、人が人間的に成長するプロセスとは、弁証法的なプロセスである。つまり、対立や葛藤の一方の極をとり、もう一方を捨てるのではなく、両方を可能にする第三の答えを導き出す、ということだ。
ひとつの国が、問題を解決したり、成長・発展したりするプロセスも弁証法的なプロセスである。他国との外交を成功させるのも同じだ。
この弁証法的プロセスを成立させるためには、まず「二者択一」という発想をやめるところから始める必要がある。
いかなる物事にも、二者択一しかないということはありえない。選択肢は常に三つ以上存在する。二者択一を迫られたら、両方を可能にする第三の選択肢を探すべし。
この努力により、私たちは「宇宙人の視点」を獲得する第一歩を踏み出すことになる。

○どのような人間がどのような問題に取り組むにあたっても、必ず用いるべき共通の解決策がある。それをズバリ言うなら、「二元論を超える」ということだ。言い換えれば、弁証法ということである。
二元性・対極性を統合することは、すべての人間に課せられた成長課題だ。この課題を免除される人間はいない。ある二元論を克服できないでいると、そこの部分にある種の「症状」ないし「病理」が現れる。そのひとつが「シャドーボクシング」だ。
二元論は、必ず次の4つのステップを踏んで克服される。

ステップ1:二元性・対極性の一方だけを見る。
ステップ2:両方を見て一方を選ぶ(この段階で「シーソーゲーム」を繰り返す場合もある)。
ステップ3:両方を見て両方を同時に選ぶ(この段階で「シーソーゲーム」は終了する)。
ステップ4:両方を1つの全体へと統合する。

これを、一国のリーダーの意識変革のプロセスに置き換えるなら、次のようになる。

ステップ1:自国と、敵対する相手国のうち、一方(自国)だけを見る。
ステップ2:両国の都合を見たうえで、自国の都合を選ぶ。
ステップ3:両国の都合を見て、両方を同時に実現できる道を選ぶ。
ステップ4:両方を1つの全体へと統合する(一方がもう一方に併合されることを意味しない)。

○発達心理学の立場で言うと、人間の意識発達には歴然とした「段階」がある。もっとも大雑把に分けると、「前自我段階」「自我段階」「超自我段階」の3段階である。
意識の段階が上がって、飛躍的な成長を遂げるときには、共通するターニングポイントのようなものがある。簡単に言うと、たとえば「シャドーボクシング」のような「症状」を克服する瞬間とは、「他人のことだと思っていたことが、実は自分のことだった」と気づく瞬間を迎える、ということでもある。
言い換えると、より大きな自己意識が芽生えるために、小さな自己がいったん死んでみせる(生存不可能になる)瞬間を経験するということだ。
「この自我感覚こそ、“私”という現象のすべてである」と思い込んでいた人が、「ああ、これは、もっと大きな“私”の一部にすぎなかったのだ」と気づく瞬間でもある。小さな“私”が死ぬ瞬間を目撃することで、人はより大きな“私”へと目覚めるのである。
これと同じプロセスをたどって、「家庭の中の私」→「地域の中の私」→「株式会社○○の一員としての私」→「日本人としての私」→「地球人としての私」→「宇宙人としての私」という具合に、人は自分のアイデンティティを段階的に拡大していく。
下図を見てもわかる通り、ステップ1からステップ3までは、いわば同一段階での成長を表す。ここでの成長が滞ったり退行したりすることにより、その段階特有の「病理」が発生したりする。
ステップ4は、階段を昇ってひとつ上の段階に移ることを意味する。この移行時に、人は自己の「仮想的な死」を経験する。
これらのプロセスは加速させることはできても、いかなる段階もはしょることはできない。
一般に、「地球人としての私」から「宇宙人としての私」へのステップアップ時に大きなボーダーラインがあり、このボーダーラインが「エゴの壁」を超えられるか超えられないか(「宇宙人の視点」を獲得できるかできないか)の瀬戸際になる。

次回から、何回かに分けて、この「エゴの壁」を超えるということについて、より具体的に掘り下げていきたい。

意識変革の4ステップ


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アンソニー  K
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