見出し画像

ウィッチャー3のクエストはなぜ優れているのか


なぜこの記事を書こうと思ったのか

24/09/09頃、SNSの一部では「ゲームに水増しのためのサブクエストは不要なのでは」といった話題で盛り上がっていました。

前提として「なぜ水増しと感じるのか」「メインクエストとサブクエストの役割の違いとはなにか(またはあるのか)」「可処分時間とその割り当てはユーザーによって異なる」といった考慮・解決すべき要素があるように感じられますが、そこは論じません。

興味があったのは多くのユーザーが「水増しはもういらない」と感じていることです。かつてはゲームの評価軸に「ボリュームが多いこと」があげられ、かなり大きなウェイトを占めていた気がしますが、タイパの世の中ではむしろネガティブなサゲ要素になっているのでしょうか…しかし、そこも論じません。

水増しではないクエストとはなんだろう?と考えたとき、あるユーザーが「ウィッチャー3はよかった」とつぶやいているのを目にしました。

その発言を見てムクムクと「なぜってそれはね…」と語りたくなったのでこの記事を作成しました。

CDプロイェクトには「クエスト部門」がある

ウィッチャー3を開発したのはポーランドのCD Projekt RED社です。こちらは「プロジェクト」ではなく「プロイェクト」と読むのが正しいようです。

さて、2019年にウィッチャー3の開発体制についてまとめた書籍が販売されました。その本の名前は『血と汗とピクセル』です。『デスティニー』や『アンチャーテッド4』や『スターデューバレー』や『ショベルナイト』など…著名なタイトルが生まれるまでの「地獄」をセンセーショナルにまとめたこの本の中で『ウィッチャー3』が生まれるまでについても紹介されていました。その中の「クエスト部門」に関する一文を引用します。

一方でCDプロイェクト・レッドではクエスト部門という形で存在し、各チーム・メンバーはゲームの担当部分について設計、実装、さらに修正を実施する。

そう、CDプロイェクトには「クエスト部門」というクエスト専門部隊が存在するのです。

様々なメディアでのインタビュー

国内外のメディアで、CDプロイェクトのクエストデザイナーが多くのことを語っています。ここではネット上から見つけたものを紹介します。

プレイヤーはクエスト単位、そしてクエストの連なりによって、一連のストーリー体験を楽しんでいきます。そのためにはクエストがゲームデザインと統合されていなければなりません

https://www.gamespark.jp/article/2015/11/04/61465.html

クエストデザインは我々がもっとも力をいれているポイントの1つとなります。そのため、どこかに行って、何かをとってくるという、いわゆる“FEDEX”クエストと呼ぶシンプルなものは廃しています

https://dengekionline.com/articles/3525/

ゲームのコンテクストを正確に理解することで,より良いストーリーを創造するための適切なキャラクター作りが可能になるはずです

https://www.4gamer.net/games/189/G018964/20230524067/

それに加えて重要なことは、その過程で何度も失敗したということです(笑)。正直なところ、私たちがそれを正しく行ったかどうかはまだわかりません。プレイヤーが決して退屈せず、圧倒されないように、できる限りのことをしました

ウィッチャー3sの世界構築とクエストデザインをCD Projekt REDが解説 |ゲームレーダー+ (gamesradar.com)

選択肢が意味を持つためには、インパクトを持たなければなりません。ジレンマや曖昧な状況を構築し、不明確でプレイヤーの解釈の余地があります。ゲームで選択をすることは必ずしもエキサイティングではないため、プレイヤーにジレンマを作り出すことが重要です。彼らに何か考えさせることを与えてください

『サイバーパンク2077』と『ウィッチャー3』のクエストデザインから得られる重要なポイント (gamedeveloper.com)

クエストデザイナーは、クエストの全体的な雰囲気の方向性にも責任があります。照明、音楽、アンビエントサウンド、アニメーション、キャラクターの動作、小道具がビジョンに合っていることを確認するのが私たちの仕事です。シーンに適した雰囲気を作り出し、さまざまなレベルでプレイヤーの想像力に語りかけるために、さまざまなトリックを自由に使用できます。これは映画を監督するのと非常によく似ています - すべてのコンポーネントが何らかの目的に適合し、果たす必要があります。酔っ払ったブラッディ・バロンが庭に座って雨が降っているとき、アンナからの手紙が隣に転がっているとき、風が吹いているとき、彼女が植えた花がフレームに入っているとき、音楽が適度に悲しいときなどは偶然ではありません。それはどれも偶然ではありませんでした

The Questing Beast: RED Questのデザイナー、Pawel Sasko氏とMateusz Tomaszkiewicz氏とのQ&A |フォーラム - CD PROJEKT RED

「私たちのすべてのクエストはストーリーを語る必要があり、そのストーリーは興味深いものでなければなりません」とミルズ氏は言います。「ウィッチャー3』のモンスター狩りには、それぞれ独自の展開があります。始まり、中間、終わりがあります。サイドクエストでは、核となるアイデアを思いつき、ストーリーチームと話し合い、その詳細を詰めていきます。「よし、このキャラクター、これが彼らの好きなもの、これが彼らの動機、これが彼らがいた場所だ」私たちはそれを一緒に考え出します。」

「私たちはあなたが愚かではないことを知っています」 – CD Projekt REDのクエストデザインマスタークラス (pcgamesn.com)

ちょっとした考察

少し斜に構えた言い方をすれば「コストと時間をかけて練り上げた」と言えますが、重要なのは「プロジェクト全体から【クエストの重要性】を認識している」ことです。重要だからこそコストをかけるし、専門部隊も作る。面白くするにはそれ相応の投資が必要であることをトップが理解している。

当然チームもクエストの重要性と実現の困難さを把握しているから協力的で妥協のない態度を取ることができる。クエスト専用のリソース作成も厭わない。

つまり「クエストを作る姿勢、文化」が形成されている。

任天堂の開発姿勢という「文化」がCEDEC以降話題になっていますが、CDプロイェクトも同様に文化を持っているんですね。

ところで『ウィッチャー3』のようなクエストは「技術的には」どうやれば作ることができるのか…ですが、おそらくTRPGの「シナリオメイキング」に近い、というかそれをゲームデザインに落とし込んでいるのだと思います。

TRPGが提供するユーザーの想像力を刺激する豊かさを思えば、ウィッチャー3のクエストが豊かである理由も納得できるのではないでしょうか。

いいなと思ったら応援しよう!