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ゲームデザイン:人の心を動かす力

過去に投稿したこのような記事があります。

ゲーム要素の「押し」と「引き」|あんてな (note.com)

ゲームには「押し」と「引き」の要素があり、それによってユーザーの体験(というより行動)をコントロールできる、と。

しかしながら、もしかしたら「押し」も「引き」も根本的には同じものかもしれない…

というようなことを、ここ最近はずっとモヤモヤと考えていましたが『スターデューバレー』をプレイして答えが見えた気がします。


前回のおさらい

自分が書いた過去の投稿を読み返してみます。

・ゲームの構成要素には「押し」と「引き」の2タイプがある
・「押し」は強制的な「すべき」こと
・「引き」は引き付ける「したい」こと
・「押し」と「引き」を組み合わせると「葛藤」を生む
・「葛藤」はユーザーの没入感を深める

ゲーム要素の「押し」と「引き」|あんてな (note.com)

自分の投稿を引用するのもなんだかな、という感じですが…記事の最後にまとめがあると便利ですね。

「ゲームの構成要素」という言い方をしてますが、曖昧ですね。
「ユーザーの行動を促す手段」と言い換えたほうが良さそうです。

伝説のCEDEC講演を読み返してみる

長年続くCEDECですが、過去にかつてないほど盛り上がった年がありました。それが2017年、任天堂がブレスオブザワイルドについて講演した年です。

[CEDEC 2017]「ゼルダの伝説BotW」の完璧なゲーム世界は,任天堂の開発スタイルが変わったからこそ生まれた (4gamer.net)

どこを読んでも面白いわけですが、今回の記事に関係しそうな部分を抜粋します。※勝手なまとめなので、是非元記事をお読みください

  • スタッフの移動経路をヒートマップ化したが経路がバラバラだった

  • バラバラな経路は体験のバラつきでもある

  • ユーザーの意思を尊重しつつ、誘導を行いたい

  • 「引力」というキーワードを発見した

  • 引力=おトクなので引き寄せられる力

ゼルダではユーザーが自分自身で「選んだ」という意思を尊重しつつも、陰ながら「引力」によってゲームサイクルから逸脱しないように誘導していました。

引力の種類

おこがましいと思いつつ「引力」という言葉を「引き」に変えてみます。

前述した講演では「引き」の具体例として「塔」「祠」が挙げられています。塔については「大きいから目立つ」点も引きを強める要素として分析されています。対して祠は「強くなるため」の施設として機能しています。

目立つから引きがある」「役立つから引きがある」のは明確に違う種類の引きだと思います。

2つの「引き」

結果として、ユーザーの意識に働きかけて意思を生み出し、行動へと導くのですが、装置としては異なります。

「目立つ」と「役立つ」の2つの装置がある

「目立つ」は視覚的な装置。
「役立つ」は思考的な装置。

仮説を含みつつざっくりまとめると、
目立つ → 視覚的装置 → 物理的装置 → フィジカルな引き
役立つ → 思考的装置 → 精神的装置 → メンタルな引き
という言い方ができそうです。

『スターデューバレー』をプレイして思考がまとまってきたのは「メンタルな引き」についてでした。

レベルデザインとゲームデザイン…それと?

「フィジカルな引き」は配置物と配置位置によってユーザーの行動を促します。これはレベルデザインの領域です。

「メンタルな引き」は報酬物の価値や「期待」によってユーザーの行動を促します。これはゲームデザインの領域です。

ですがおそらく…ゲームデザインが「ルール」に重点をおくのだとしたら、「ユーザーの行動を促す」ことを主眼としたデザインは別の言葉を使うほうが良いと感じます。

モチベーションデザイン、とでも呼ぶのがいいのでしょうか。

モチベーションを高めるためのデザイン (gamedeveloper.com)

ゲームデザインにおけるモチベーションを高めるメカニクス。 (gamedeveloper.com)

GameRefinery プレイヤーのモチベーションとアーキタイプ - GameRefinery

あるいは「ゲームサイクルデザイン」も良さそうです。
ですが「モチベーションのためにゲームサイクルを利用する」という関係にあるので、ここでは「モチベーションデザイン」と呼ぶことにします。

※実際はこうした領域があることは分かっていますが…きちんと名前が与えられていない気がします。

3つのデザイン領域

モチベーションデザインの役割

モチベーションデザインの役割は「メンタルの引き」です。
メンタルな引きは「役立つモノ(要素)」によって発生しますが、一度図を単純化してみます。

フィジカルな引きを消しました

これをさらに単純化(抽象化)します。

メンタルな引きを「装置」に変更

つまり、モチベーションデザインとは

装置によってユーザーの意識を変え、意思を生み出し、行動を促す

設計活動だと定義できます。

モチベーションデザインの再考

ここまで抽象化するとレベルデザインにもあてはまるし、ゲームデザインにもあてはまってきます。

そもそも「デザイン」という設計活動そのものとも言えます。

では、モチベーションデザイン特有の役割とは何か?

根拠薄弱ですが直感としては、

ユーザーの精神空間の設計

だと考えています。

ユーザーの意識がどのように生まれ、流れ、行動に結びつくのかを「意識的」にデザインする領域ということです。

この流れを意識してデザインする

ゲームのルールや空間設計によって「結果的に」ユーザーのモチベーションをコントロールするのではなく、ユーザーのモチベーションを主軸にゲームデザインやレベルデザインに影響を及ぼす、という考えです。

あらっぽくまとめると「お客さんのことを考えてゲームを作ろう!」という話になってしまうのですが。

「押し」と「引き」の居場所

モチベーションデザインがあり、それはメンタルに影響する装置を起点とする。「押し」と「引き」は装置の機能の1つに過ぎません。

「メンタルに作用する装置」に「押しタイプ」の機能と「引きタイプ」の機能が内包されていることになります。

最終的にはこうなる

まとめ

前回は「押しタイプ」と「引きタイプ」を対立概念のように並べていましたが、実際はモチベーションデザインの「メンタルに作用する装置」の1機能でしかありません。機能ですらなく、単なる傾向と言ったほうが正しいでしょう。

であれば、前回書いた「押しは強制的で【すべき】要素」「引きは引き付ける【したい】要素」というまとめ方は間違っています。

【すべき要素】と【したい要素】があり、それを提供する際に「押しタイプ」を使うか「引きタイプ」を使うか、という発想順番になります。

そして、【すべき】と【したい】を使い、ユーザーの意識に働きかけ、意思を生み、行動を促すのがモチベーションデザインとなります。

おまけ

このあたりは『ルールズ・オブ・プレイ』や『ゲーマーズブレイン』に既に書かれている気がします…しかし、車輪の再発明をしないと腑に落ちない性分なので…(今回の考え方が正しい、ということもないですが)

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