Celesteのステージ設計分析01
著名ゲーム『Celeste』のステージ設計を今更ながら分析してみました。
記事タイトルに「01」と付けていますが、続くかどうかは…どうでしょう。
『Celeste』がどういうゲームかを知りたい方はこちらの記事がオススメです。
「Hello! インディー」第4回 開発者が語る『Celeste』の秘密。ゲーム設計のこだわりと、「コヨーテタイム」!? | トピックス | Nintendo
開発の経緯と「ユーザー補助システム」の【コヨーテタイム】について説明されているのでオススメです。
購入しようと思った方はSwitch版も出ているので検討してみてください。
Celeste ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)
ステージ設計の分析
さて、説明が長くなりましたが、ここから本題に入ります。
ゲーム開始直後の冒頭ステージを分析します。
初めてのジャンプ
冒頭ステージが始まってすぐ。段差を越えるためにジャンプします。
高さは「キャラ1体分」であり、簡単に乗り越えられます。
乗り越えた際に直ぐ側の穴に落ちないように、着地後の地形はキャラ3体分ほどの広さになっています。
ユーザーは非常に簡単な課題と通してマデリン(主人公の名前)のジャンプ性能を把握します。
2度目のジャンプはちょっと怖い
2度目のジャンプは少しばかり距離があり、さらに奈落を飛び越えます。
ユーザーは1つ前の課題でマデリンのジャンプ性能を把握しており、今回の課題も問題なく達成できることを予測します。
開発者はユーザーが失敗しないように2つの配慮を設計しています。
①飛び始めの高さと着地点の落差
着地点の高さを1.5キャラ分ほど低くしています。
落差があるほど移動時間が伸びるため、マデリンはより遠くに飛ぶことができます。こうして落下死の可能性を減少させています。
②ちょっとしたでっぱり
よく見ると狙った着地点より下にちょっとしたでっぱりがあります。
0.5キャラ分程度の細さですが、着地できます。
もし狙い通り飛べなくても、落下死を間逃れることができます。
少し高い段差と気になる浮島
3つ目の課題は2キャラ分程度の高さを垂直気味に登ること。
簡単そうですが、飛んだ先の足場は1キャラほどの細さしかなく、さらに飛びすぎると奈落がまっているため若干緊張します。
ここで面白いのは、急に地形の情報量を増やしていることです。
細い足場、すぐ先の奈落、そして頭上にある頭があたりそうな足場。アクションゲームが得意な人からすれば大したことがない変化ではありますが、それでも「密度」により集中力を消耗します。情報密度による「加圧」が発生しています。
開発者のステージ設計の妙は「気になる浮島」です。
課題をこなすジャンプにより一瞬接近させ、ユーザーの注意を惹きます。
ジャンプで登ろうとしても届きません。
手が届きそうで届かない絶妙にイラっとさせる配置。
これは後述する開発者の狙いがあります。
短い崖と怪しい氷ブロック
4つ目の課題は短い奈落を越えること。
2つ目の課題よりも距離が短い他、崖際に若干の縁があるので飛び乗るのは容易です。
気になるのは頭上の氷ですが、着地した直後は落下しません。
また、着地点で停止していても、やはり落下しません。
この氷ブロックは怪しいだけで落下しないようです…
もちろん落ちてきます
ユーザーの期待通り氷ブロックが落下してきます。
ただし、氷ブロックの真下を「半分ほど過ぎたところ」がトリガーになっています。
すぐ先の崖に急いで飛び移るのが正解ですが、落下しないと思っていたトラップが落下したことでユーザーは混乱し、そのまま潰されてしまうでしょう。
ここでユーザーは開発者のメッセージを2つ受け取ります。
1つ目は「このゲームは容赦ないトラップで命を奪う」こと。
2つ目は「落下以外のミスも用意されている」ことです。
こうしてユーザーは本作の「容赦ない死が訪れる世界観」を身をもって知ることになります。
急いでジャンプして氷ブロックを避ける
ネタさえ知ってしまえば落下する氷も怖くありません。
さらに飛び先は「少し低くなっていて」かつ「少しだけ縁にでっぱりがある」構造です。
ここの構造で大事なのは「ユーザーが氷の落下を見て、すばやく次の崖に飛び移る」ことです。奈落自体は演出的な距離に留めています。
落下氷のある垂直ジャンプ
落下氷がクライマックスだとすれば、あとはステージクリアの最終ジャンプをこなすだけ…と思うところですが、ゴール(矢印看板)の前に垂直ジャンプを用意しています。
勝手ながら今回の分析で「なるほど」唸ったのはここでした。
もし垂直な崖がなければ、落下氷を避けたあとに焦って奈落に落ちてしまうかもしれません。
かといって、矢印看板前の奈落を消してしまうと達成感を得る前に次のステージ(次の画面)に移動してしまうかもしれません。
この絶妙に邪魔な崖があることで、落下氷を避けたあとのユーザーにブレーキをかけ、達成感を味わう余韻を与えています。
初めてのチュートリアル
矢印看板の先に行くとステージ2が始まります。
※1画面を1ステージとしています
謎の鳥が吹き出しで崖登りを教えてくれます。
もちろんこのゲームはcelesteですから、直接崖にはアクセスさせず手前に結構な奈落を用意します。
奈落を越えて崖に触れ、崖登りを覚えたユーザーはどんどん先に進むでしょう。
しかし、勘のいいユーザーは何かを思い出します。
「そういえば…さっきのあの場所って」
新アクションで過去のステージを再攻略する
崖登りを覚えた状態で過去のステージに戻ると、前は諦めていた「妙に気になる浮島」に登ることが出来ます。
「やった!」
と思ったのも束の間、何も起きずにがっかりします。
「何かあると思ったんだけど…」
自らの発見と努力によって攻略法を思いついただけに、何か報酬を期待する状態になっています。
その貪欲さが更なる発想を呼びます。
もしかして、こっちも登れる?
そう、すぐ右手に崖があります。
とんでもないことを思いついたのではないかという興奮と、画面外に隠された秘密への期待によりユーザーの脳内で「面白い!」という言葉が生まれているでしょう。
果たして待っていたのは?
ネタ晴らしすると、画面外には単なるちょっとした頂があるだけで、強力なアイテムもイベントNPCも配置されていません。
見晴らしはよく、背景の木々と漆黒の夜が生み出す荒涼とした雰囲気がセレステ山の厳しさを伝えてきます。
ここに「体験によるユーザーだけの物語」が生まれています。
まとめ
普通にプレイすれば一瞬で過ぎ去るようなステージでも、そこには多くの工夫が凝らされていました。
とくに勉強になったのは「あえて邪魔な地形を作る」ことです。
ちょっとした「意識の引っかかり」を作ること、ユーザーのプレイ(移動)に「ブレーキを加えること」はステージ設計のみならずゲームデザイン時に役立ちそうです。
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