ゲームデザイン:それはそれ、これはこれ
日々ストレス
※ここから先はフィクションです
先日、仕事でイラっとすることがありました。
上司のミスにより、終了したタスクが無駄だったと分かったのです。
「ごめん、別の仕様が更新されたの忘れてて」
追い打ちをかけるように、部下のミスが発覚しました。
「なんか変だとは思ったんですけど、まあ大丈夫かなって」
たまったストレスをぶつける相手もなく、これはお菓子に頼るしかない…
今日はコンビニで少し高いけど美味しいデザートを買おう。
はあ、癒やされた。
イヤなことがあったけど、リフレッシュできたからもう大丈夫。
明日も元気いっぱい働くぞ~。
※フィクションはここまでです
日々の癒やし
イヤなことがあったら他の快楽によって癒やされる。
こうした活動は誰しもが日々繰り返していることかと思います。
しかし、考えてみるとおかしい。
ストレスをダメージとして、精神力をHPだとします。(MPのほうが適切ですがダメージに対してはHPのほうがしっくりくる)
MAX時のHPは100あるとして、1回目のストレスでは50ダメージ、2回目のストレスでは30ダメージを受けた。残りHPは20。デザートの癒やしによって80回復して、その日のHPは100に戻った。
この考え方が普通だと思うのですが、しかし!
もしもダメージには種類があり…もっと言うとユニーク(個別)だとします。
1回目は「上司ダメージ」で2回目は「部下ダメージ」だと考える。
それに対して「デザート回復」で相殺したつもりになっている。
こう表現してみると、おかしい。
ダメージの種類が違うのに、ひとまとめに「ダメージ」と判定している。
さらに関係のない「デザート」によって回復した気になっている。
こんな雑にストレスを認識しているなんて…
人間たちよ、だいじょうぶなのか!
考え転じて
「それでもデザートは癒やしだよね~。」
「むずかしいことは抜きにして、まったりすればいいじゃん。」
と、脳内の声が聞こえてきたので、いつものようにゲームデザインにつなげて考えることにしてみました。(癒やしなので…)
あるある設計:挑戦と報酬
ゲームデザインでは「挑戦」と「報酬」について考えることが多いです。
ユーザーがいかに挑戦したくなり、挑戦中も楽しく遊べて、見事クリアしたあとに達成感を得られて、次の挑戦へと意識が向くか…これを常にあーでもないこーでもないと考える。
ゲームデザインの基本は「挑戦と報酬」といっても過言ではありません(おそらく)
どんな報酬を用意するか
一言に報酬といっても、その中身は千差万別です。
回復アイテム、お金、装備品、鍵…
どういった報酬を用意するかは「挑戦」の難度によって変わります。
簡単に言えば、敵が弱ければ報酬も少なくし、敵が強ければ報酬を多くします。
敵の強さと報酬の多さ(高さ)が比例しない場合は、達成感が物足りなかったり過大すぎたりしますし、何をやっても報酬が一定なら挑戦する意味が減るのでやる気ダウンです。
※達成感が過大なことの何が問題なのか?
ゲームは「挑戦と報酬」の連続です。
つまり、何度も報酬を渡します。
1か所が過大だった場合、相対的に他の報酬が見劣りします。
あるいはもっとすごい報酬を用意することになって、際限がありません。
このように、ゲームデザインでは挑戦難度に応じた報酬を用意してユーザーのモチベーションをコントロールしていく側面があります。
ここで前フリのことを思い出してみる
さて、冒頭の謎の前フリを思い出してみてください。
受けたダメージに対して別の癒やしがあったとして、それは本当に回復したといえるのだろうか、という話でした。
転じて、
ゲーム内での挑戦、それによって生じたストレス。
その回復手段として報酬を用意するのは、果たして本当に回復といえるのか。
挑戦によって受けたストレスは、挑戦の中でしか回復できないのではないでしょうか。
挑戦の中でどうやって回復させるのか。
それは「リアクション」です。
そういえばリアクションについて記事を作ったことがありました。
ゲームデザイン:反応の種類|あんてな (note.com)
さて、
いったんここでまとめてみます。
受けたストレスを別の手段で本当に回復できているのかな?
ゲームデザインって挑戦と報酬の繰り返しだよね
挑戦で生じたストレスって報酬で回復(代替)できるのかな?
挑戦のストレスは、その挑戦の中でしか回復できないのでは?
挑戦の中の回復方法は「リアクション」だと思うんです
お返しだ!のリアクション
殴られたら痛いですよね?
それは相手(敵)にとっても同じこと。
殴られたら殴り返す。
殴られた時にユーザーが「痛い!」と思うなら、
殴り返した時に相手も同じくらい「痛い!」はずだと想像できるようにする。
敵を攻撃したら、ちゃんと敵は痛がり、よろめくモーションを取る。
エフェクトでダメージの大きさを伝える。
数値を出してもいいし、文字で『クリティカル!』と出してもいい。
とにかく、敵だって痛がってるぞ、と伝わるようにする。
殴られたことで生まれたストレスは、殴り返すことで発散させる。
やってやったぞ!のリアクション
強敵を倒したら「ついに倒したぞ!」と伝わるようにする。
敵はよろめき、膝をつき、手を震わせて何かを求めるように伸ばしたあと…ゆっくりと崩れ落ちる。その後体中にスパークが走り、光の柱も飛び出たりして、凄まじい爆発とともに吹き飛び、キラキラと消滅し…そこに宝箱が出現する。
勝利(達成)の喜びをユーザーの中だけで感じさせるのではなく、ゲーム側でも精一杯盛り上げてあげる。
「やりましたね!」「すごい!」
そうやって「達成によるストレスからの回復」を果たす。
宝箱はオマケ…ではありませんが、達成に対する「当然の権利」です。
報酬があるのはあたりまえ。
挑戦が厳しければ中身がいいのもあたりまえ。
これは権利なので、ストレス回復の手段ではありません。
ストレスからの回復は「やったぞ!」という盛り上げによって果たしましょう。
難所をクリアした場合は?
難所をクリアした際の達成感は敵に比べると演出が難しいですが、アンチャーテッドシリーズが参考なると思います。
制作コストはかかってしまいますが、イベントやテキストで「いえーい、やったじゃん俺たち」と喜ばせる。
まとめ:それはそれ、これはこれ
ゲームを作る際に2つの思い込みがありました。
挑戦によるストレスは報酬によって回復させればいい
リアクションは盛り上げるための演出にすぎない
これに対して、
挑戦によるストレスは挑戦の中でしか回復できない
リアクションはストレスの回復手段である(そして重要である)
報酬はストレスからの回復手段ではなく「当然の権利」である
という気付きがありました。
誰かから殴られて、それをデザートで食べて落ち着けたとしても、殴られたことで受けたストレスはうっすら残ったまま。
現実では殴り返すわけにはいきませんが、ゲームの中ではガツンとやっちゃいましょう!
おまけ
「やったぜ」と思えるリアクションは映像業界が優れていると思います。
とくに特撮業界が得意としている気がします。
「や、やられた…ちゅどーん」という演出は、特撮業界では何十年と磨き上げてきたと思いますので。