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※思考整理番外編 オフィスカジュアルってなに?:オフィスカジュアルをハックする方法(マルジェラ/クロムハーツ/ハイデガー/ゴッホ)

※この前書いた「【思考整理】ファッションという実践から、「原衣服」の妄想へ:オブジェクト指向存在論へのファッション研究からの応答として」が、ちょっと速すぎる!わからない!という感想をもらったので(しかし感想をもらえてうれしい)、ちょっとゆるめにのんびりエッセイ的なことを書いてみます。

オフィスカジュアルってなに?

最近、「オフィスカジュアル」を着用するような職場で働くことになった。仕事内容は楽しい。しかし、特に言われたわけではないが、多分オフィスカジュアルを着用するのがマナーだと悟り、なるべくそうしているし、そうしたいと思っている。だが、なにが、どうすれば、どこまでがオフィスカジュアルなのか? 同僚に聞けばよかったのだが、なんとなく聞くのも違う気がする。なぜなら、そうやって聞かないでも実践されるもの、それがオフィスカジュアルだからだ。

なので、オフィスカジュアルについて調べてみた。

オフィスカジュアル
オフィスで着用されるカジュアルウエアのこと。メンズファッション業界のキャンペーンから生まれた。→カジュアルデー →ビジネスカジュアル

コトバンク

カジュアルデー
企業で週に一度自由な服装での出勤を認める日。日本ではこれを金曜日に当てて、カジュアルフライデーとすることが多い。

コトバンク

ビジネスカジュアル
ビジネスパーソンとしてふさわしい範囲内で、服装や持ち物にカジュアルウエアの要素を取り入れること。ビジカジ。→オフィスカジュアル

コトバンク

もともとは「(社会的セクシュアリティとしての)男性」がスーツではなく、仕事着をカジュアルに着崩すために生まれたものらしい。しかし、いまやオフィスカジュアルは「(社会的セクシュアリティとしての)女性」の社会進出にともない、いわゆるOLさん(これはもうほとんど死語だから今後は使わないようにしたい)が着ていたような制服がオフィスカジュアルに転向し、そしてスーツ着用するほどではないが「きちんと感」を演出するためのカジュアルな「制服」がオフィスカジュアルになっている。

私はシェアハウスに住んでいるので、同居人に「オフィスカジュアルってジーンズ履いてもいいの?」と聞いてみたら、ブラックのスキニージーンズとかならOKだけどブルーデニムなどいわゆる「ブルーカラー」っぽい感じのアイテムは基本的にNGかも、という返答を得た。いわく、「つるっとした/てろんとした」質感(目が荒くない生地感)のものがオフィスカジュアルなのだそうだ。なるほどと、なんとなく納得してしまった。

でも、まだオフィスカジュアルの定義がよくわからない。オフィスカジュアルとして実践されているとされるカジュアルウェアを辞書で引くと、以下のように書かれていた。

カジュアルウェア
かしこまらないで気楽に着られる普段着やスポーツタイプの服のこと。遊びを目的とした外出着、大学生の日常着などがこれにあたる。着やすく、活動的で、軽量な、上下の組合せによる服装が多い。使用される生地もざっくりした感触のもの、ニットなどがよく用いられる。フラノ、ジャージー、ニットなどを用いた、(……)形式にこだわらない、しかも個性の発揮につながる自由な着装、すなわち服装のカジュアル化が、若者のみならず一般の人にまで浸透し、現代服装の一つの特性となっている。

コトバンク/田村芳子(出典:小学館、日本大百科全書)

「ざっくりした感触」とか、「形式にこだわらない」とか、「個性の発揮につながる自由な着装」とか書いてある。でも、どうやら定義と実際を見比べてみるとカジュアルウェアはオフィスカジュアルではないらしい。ではいったいなんなのだろう? そう思って、もう少し調べてみた。実用的なオフィスカジュアルのルールがネットにはたくさん落ちていた。

当たり前に聞くけれど、実はベテラン社会人でも定義があいまいな「オフィスカジュアル」。 それは言葉どおり、オフィスで仕事をするのにふさわしいカジュアル服や通勤向けのコーディネートを指します。 社会人としてのマナーを守りつつ、制服やスーツ以外のカジュアルさを取り入れたファッションスタイルであるオフィスカジュアルは、もちろん会社の業種や社風、部署によっても様々

「オフィスカジュアルコーデの基本ルールを伝授!もうお仕事服に悩まない!今すぐ知りたいお洋服選びのコツ!」

フォーマルすぎずビジネスシーンにマッチした適度なカジュアル服のポイントは、上品で清楚な雰囲気が漂う「きちんと感」を意識することです。 

(同前)

オフィスカジュアルの定義が曖昧! 確かにそう思う。今までは大学で働いているときでも会社に勤めているときでも(業界として自由なファッションができた)、(多少わきまえてはいたが)自由な格好をしていたので、「きちんと感」=「清潔感」があればいいと思っていた。しかし、やはり働く場所によってマナーはわきまえたいなとは思う。あぶれたくないとかそういうことではなく、秩序の中でどう遊べるか、そういうスリルが味わいたいのだ。だから基本ルールもおさえておこう。

基本は、「カーディガンまたはジャケット+シャツ+パンツまたはスカート」という合わせ方が無難です。

「【コレで安心!】オフィスカジュアルの基本ルールとNGチェックリスト」

基本ルールとしては、上記の合わせ方とともに、

  • ベーシックカラー

  • パステルカラーはギリギリOK

  • ストッキングは着用したほうがいい

  • パンプスは必要

こういった感じだろうか。逆にNGなのは、

  • 露出が多い

  • ラインが出過ぎている

  • 透けすぎている

  • ラフすぎている

ということらしい。確かに、基本ルールはまさしく「オフィスカジュアル」然とした清々しいものだが、NGなものは私が今までも心がけていた「きちんと感」=「清潔感」への意識につながるものかもしれない。つまり、「過剰」すぎないということ。ということは、私はかつてから働くときはまあまあオフィスカジュアルしていたのではないだろうか? 基本ルールは多分守れないけれど、NGには踏み込んでいない気がする。NGに踏み込まないでハックする。これで、自らの「輪郭」は結構保たれるのではないだろうか。

オフィスカジュアルをハックする

では、私が今現在どうオフィスカジュアルしているか? 以下左が初出勤の時の服装で、右が割とオフィスカジュアルを意識してみた服装である。

左:ユニクロ×マルニのショッキングピンクなノースリーブとマーメイドスカート。
マルジェラの足袋ブーツを履いている。
右:ユニクロ×J.W. アンダーソンのブラウスとスラックス。
共通:ギャルソンのバッグ(これは前職の際「きちんと感」が欲しくて買ったもの)、
右手中指にはクロムハーツをつけている。

初日に足袋ブーツ履くのはどうかな…と思ったけど、一応静かなる「表明」をしてみようと思って履いて出かけた。マルジェラのメンズ7cmヒール。ガリアーノが担当した初めてのメンズのヒールタイプらしい(余談だが私がファッションに興味を持ったのは、高校時代に『Fashion News』という雑誌でガリアーノを見て衝撃を受けたからだ)。とりあえず「でかい」と言われた(私は173cmあるし、最近猫背が直りつつある)。ピンクは派手かなと思ったけど、目が細かい生地だし、「つるっと/てろんと」とはしていないが、許される範疇かなと思った。右手の中指にはクロムハーツのリングをつけている。
(ここでは深く言及しないが、私はユニクロのコラボ商品を好んで着る傾向がある。昔は人とかぶることに抵抗感があったが、服は脆いので、高級な服だったりすると着ているとすごく気を遣ってしまうのだ。)

足袋ブーツについて「表明」と書いたが、これはアイデンティティの問題というだけである。しかしながら、やはり靴というとハイデガーが言及したゴッホの靴の絵を思い出さざるを得ない。ゴッホの絵に描かれている靴は農夫の靴(実際、ゴッホが蚤の市で買った街の人の靴だという(四日谷、1996年、95頁))は労働のための「道具」であるが、脱がれ、置かれ、そして描かれたその靴はひとつのモノである。「この道具は大地に帰属し、農婦の世界の内で守られる。このような守られた帰属からこの道具そのものが生じ、それ自体の内に安らうようになるのである」(ハイデガー、2008年)とハイデガーは「大地」なんて大仰な言葉で書いているが、その靴が労働のために畑という大地で費やした時間が感じられるというくらいに解釈しておけば良いだろう。そしてこの靴がゴッホの絵に描かれるとき、そうした「大地」=道具としての存在とともに、「世界」=人間の生が行われえる場所が対立し、活性化され、ゴッホのこの絵は「作品」になるのである(渡邊、1998年)。

左:マルタン・マルジェラ「足袋ブーツ」
右:フィンセント・ファン・ゴッホ《古靴》1886年

エッセイ的、と言ったにもかかわらず、少し大袈裟なことを書いてしまった。しかし、これは【思考整理1/3】の補足にもなると思うので、このまま掲載することにする。

最後に、クロムハーツの指輪について少しだけ述べておきたい。これはクロムハーツであるが、「いわゆるクロムハーツ」(個々人のイメージの問題であるが、私にとってはもう少し十字架とか、そういったトゲトゲしたフォルムが「いわゆるクロムハーツ」だ)といった感じではなく、(少し太めだが)シンプルなフォルムである。(社会通念で言う)女性も男性も、指輪はどの職場でも見受けられる。そう、マリッジリングだ。どんなに厳しい職場でも、(多分)官僚でも、マリッジリングというアクセサリーは許容される(ただし、医療関係や飲食など「衛生面」が重視される職場、工場や建設現場など「安全面」が重視される職場、あるいは同僚への積極的配慮が必要な職場は着用が難しいようだ(参考:「結婚指輪って職場でどうしてる?仕事中のマナーや選ぶ際の注意点まで幅広く解説」))。

マリッジリングの起源は古代ローマで、カップルで揃いで着けるようになったのが9世紀ごろ、それが一般化したのが13世紀だと言われている。日本に伝わったのは明治時代で、キリスト教式の結婚式で指輪の交換があったためだそうだ。日本でのマリッジリングの歴史はそこまで深くないが、こういった「出来事」(マリッジリングという「モノ」を交換する「出来事」)への順応性の高さ(ex. クリスマス、ハロウィン、バレンタイン、最近ではイースターなど)とそこに加えて商業的な盛り上げが日本的というか、良い意味で祝祭的で私は好きだ。

クロムハーツ「XXXX  XXX」

私のクロムハーツに戻ろう。この指輪はクロムハーツではあるが、「いわゆる」という意味では積極的にクロムハーツではない。シンプルなフォルムとカリグラフィー、ちょっと太いは太いかもしれないがマリッジリングと何か違うかといえば、違いは無いと思う。なぜなら私は誓約したからだ、それに彫り込まれている言葉に。そして、ただそれを利き手である右手の中指にはめているだけである。

参考文献(登場順)

四日谷敬子『ハイデッガーの思惟と芸術』、世界思想社、1996年。
マルティン・ハイデガー『芸術作品の根源』関口浩訳、平凡社、2008年。
渡邊二郎『芸術の哲学』筑摩書房、1998年。

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