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小瓶を流す(創作)
私の好きな表現は「小瓶を流す」です。この表現を使って、短い物語を考えてみました。
タイトル:「 」さんとの小瓶の物語
以前から僕は、宛名のない小瓶を大海原に時々流していました。小瓶の中には、誰に宛てたものでもない僕の心の叫びを書いた手紙が入っています。しかし、誰にも伝えられない不満や悲しみなどの思いは膨らんでいくばかりで、僕は毎日のようにあてもなく小瓶を流すようになります。どうせ読む人なんていないし、返事が来ることもないとわかっていても、ただひたすら小瓶に自分の思いを込めて、海に流し続けました。
そんな生活を送る中、ある日、浜辺に自分が流したはずの一つの小瓶を見つけます。僕は気になってその小瓶を手に取ってみました。間違いなく、僕が流した小瓶です。でも、中身がどうやら変わっているようでした。小瓶を開けてみると、優しいアクアブルー色の紙片が一つ入っていました。目の前に広がっているこの海とよく似た美しい色でした。その紙片にはとても綺麗な字で、僕が過去に書いた手紙の内容に対するお返事が書かれていました。
「いつも必ず小瓶を拾って、あなたのお手紙を読んでいました。ずっとお返事したいと思っていたんです。………」
最初にその言葉を目にして、僕は驚きとともに大きな感銘を受けました。まさか、僕が流した小瓶を拾って全部読んでいてくれた人がいたなんて…!!少し恥ずかしさや照れのような気持ちも感じながら、僕は少しずつ手紙を読み進めていきました。
その長いお手紙を一度読み終わってからも、うれしくて何度も何度も読み返しました。一つ一つの言葉が丁寧で、何て温かいんだろう…と僕は手紙を読み終わってから、とても感動していたんです。ずっとその感動を味わっていたかったくらいです。それくらい僕の心に響く素晴らしい内容のお返事でした。
手紙の最後には「 」と名前らしきものが書かれていました。その後、僕はこの人にまた手紙を書きたい!と強く思ったので、ちゃんと「 」さんへという宛名をつけて手紙を書きました。最後には自分の名前も添えておきました。わかりやすくするために小瓶にも「 」さんと宛名をつけておきました。次は返事が来るかな…、来るといいな…と心の中で願いながら。
次の日、またいつものように浜辺に行きました。すると、なんと!また昨日流したはずの小瓶が流れ着いているのです!!一目散に小瓶の元に行き、中身を開けてみると、またアクアブルー色の紙片が一つ入っていました。
「――さん、小瓶を流してくれてありがとう。」と僕の名前が最初に手紙の中で「 」さんに呼ばれていました。僕はそれだけですごく嬉しかった。心の中で得も言われぬ喜びを噛みしめていた。最後には「次の小瓶も待っています。いつまでも。」と書かれていて昨日と同じように「 」さんの名前が添えられていました。僕のことを待ってくれている人がいるという事実に、孤独だった僕は大きな幸せを感じていました。そして、ずっとずっと「 」さんの元に小瓶を流したいな…と思いました。
それからというもの、「 」さんと僕は毎日、約束しているかのように小瓶を通して、文通をし続けた。もはや僕の唯一の楽しみは「 」さんからの手紙になった。今でも、毎回「 」さんという宛名をつけて流している。だから、その小瓶が流れ着く先は、いつも「 」さんのところだ。「 」さんは自分の元に流れついた小瓶を見つけて、それを開けて、僕が小さな文字でびっしりと書いた紙片を読んでいるんだと思う。僕と同じように。
そして、「 」さんがそれに対するお返事を書いて、また広い広い果てのない海に、小瓶を投げ返すんだ。そうしたことを繰り返していくうちに、小瓶の中には過去の紙片がどんどん溜まっていくか…?と思いきや、小瓶の中にはいつも紙片が一つだけ。その点については、どうして?なぜだろう?と以前から不思議に思っていた。
ある折、「 」さんに過去の紙片を小瓶からどこかに移しているか?もう捨てているか?と手紙で聞いてみたけど、そうしているわけではなさそうだった。じゃあ、僕と「 」さんが過去に書いた数多の紙片は一体どこに行ったんだろう?…思い返してみれば、僕が手紙に宛名をつけたり、自分の名前を添えたりする前からも「 」さんはいつも僕の小瓶を受け取っていたようだった。どういうことだ…?謎が謎だ。「 」さんは心眼でも持っているのだろうか?
手紙の中の「 」さん曰く、小瓶が相手の元に流れ着くまでの海を彷徨っている間に、過去に私たちが書いた用紙は小瓶の中で自然消滅してしまう。まるで魔法がかかったみたいに。それらの紙片の行方は誰も知らない…。神様も。私たちの記憶の中だけに、消えた紙片たちは保存されている。
…なんてね。面白いでしょうか?私は結構、想像力が豊かなんですよ(笑)そして、かなりのロマンチストです。たまには、自分が想像する架空の世界に浸りたいんです。私は――さんからのお返事をいつも楽しみにしています。まだ―—さんが書いていない、存在すらしていないお手紙のメッセージに対するお返事を書くのも、これからもずっと楽しみですよ。とのことだった。
「 」さんは本当に生粋のロマンチストだなあ…と僕は思った。とても素敵な考え方だ。でも、なんだか意味深な文章にも思えた。と同時に、「 」さんはどんな人物なんだろう…とものすごく興味が湧いた。この大海原の向こうには一体どんな姿の人がいるのだろう?あちらはどんな世界で、どんな景色が広がっているのだろうか?
もしかしたら、「 」さんは人間じゃなくて、幽霊や天使、あるいは魔法使いだったりして……なんて想像も膨らませてみる。会いたいな…と思ったら、猛烈に会いたくなった。「 」さんの姿を、「 」さんの目に映る景色を、僕も見たい。
僕は読み終えた「 」さんの紙片を小瓶にしまい、また自分の紙片に手紙を書いた。そして、小瓶に入れて広い広い海に流した。いつもと何も変わらない、同じ手順通りに。丁寧に丁寧に準備して海に流した。
手紙の中の一文
「 」さん、僕はあなたにお会いしたいです。
end.
あとがき
この小瓶の物語は、宛名のないメール(https://www.blindletter.com/)というサイトと、綾辻行人さんの『十角館の殺人』というミステリ小説(アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』のオマージュ作品)から着想を得ています。
宛名のないメールでは、「メールを送る」ことを「小瓶を流す」というんです。私は最初に知ったときは中学生とかだったので、もう何年も前のことになりますが、私はその表現をとても気に入っているんです。とても素敵なサイトです。
綾辻行人さんの『十角館の殺人』では、プロローグの部分で小瓶が出てきます。海にいて、これから獲物を復讐の名の下に裁こうとしている人物が、その小瓶を闇に投げます。小瓶の中には、犯行計画が小さな文字でびっしりと記してある紙片が詰まっています。それらは、宛先なしの告白の手紙といえるでしょう。
その人物は、あらゆる生命を生み出した海に最終的な己の良否を問うてみたかったそうです。つまり、最後の審判を人ならざるものに託したということです。私はこのプロローグの部分から引き込まれました。最終的に審判が下るのですが、この小瓶を使った伏線はとても魅力的だと思っています。
私は綾辻行人さんの『〇〇館の殺人』という館シリーズを全部読みたいなと思っています。もし、興味があれば読んでみてね。