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休む=悪という固定観念

毎日大学に行かないと、徐々に曜日感覚というものが失われていく。大学で講義やら演習やらの授業を受けていると、その履修登録の内容から、曜日や時間が実感できる。でも、今はさすがに何月かはわかるけど、今日が何日で何曜日なのかはわからなくなっている。ふとしたときにカレンダーとかスマホを見て、ようやく今日が何日であるのかを知ることになる。

元来の私は、暇な時間があると不安になるし、謎の罪悪感に襲われるので、予定を詰め込むタイプだった。忙しい時こそ生きている感じがするようだった。毎日電車に乗っているだけで、自分も社会の一員として運んで行ってもらえるような気分になる。そして、学校という場所に行く生活があるおかげで、休みのありがたみが享受できていた。

春休みになって、毎日が休みの生活を送っていると、その休みのありがたみも薄れてくる。予定が何もないという自由があるのに、その自由を私は持て余している。昔から暇の楽しみ方がわからないままで何も変わっていない。何かをしている時の方が落ち着くというのが私の性分なんだと思う。暇になればなるほど、いろいろ考えすぎて病むだけだから病まずにはいられない。


以前、大学の先生に休学を勧められたことがあったけど、私には「休んだ方がいいと思いますよ」ではなく、「大学に来るな」「今のあなたには大学に来る資格がない」というように聞こえたのを覚えている。悪いように拡大解釈しすぎかもしれないけど、その先生のことを大嫌いになった。

休学すると、一時的に大学生という肩書を剥奪されるような気もしていた。なかでも、休学したら卒業が1年遅れるという現実が、私にとってはとても重かった。いろんな大学の先生が「大学は4年で卒業しなければいけないところではない」とおっしゃっていたけど、私はスケジュールが狂うのを嫌う人間だから、あまりそういう考えが受け入れられなかった。

新卒カードという言葉もあるし、卒業が先延ばしになると後悔しそうだなと思う。今もだけど、「大学=4年で卒業するもの」というイメージがやはり強い。怪我や病気、留学とかもあるだろうから一概には言えないけど、サボってたの?って思う人もいそうだし、卒業が遅れる理由をいちいち説明する必要も生じてしまうのが面倒くさかった。


うつ病で休学して、大学を5年で卒業して今は複数の仕事をしている人の話を大学で聞いたことがあったけど、そういうふうにはなりたくないな…と思っていた。大学を中退した人がいるという噂を小耳に挟んだこともあったけど、そのときもそういうふうにはなりたくないな…と思っていた。仕方がなかったんだと思うし、複雑な背景事情があるのはわかっているけど、私はそうはなりたくないな…と正直思った。

心の中ではドロップアウトすることを恐れている。学校を中退した人や不登校の子供を見ても、それは決して楽な道ではないと改めて思う。一度立ち止まってみてもいいし、自分にとって楽な道を選ぶのはいいけど、どこかで巻き返さなきゃいけない場面もあるのかもしれない。あとになってすべてをやり直すことはできないから、失うものも得ることができなかったものも当然生じてくる。

私だったら、そういうときに過去の自分を責めてしまう気がしてならない。だから、目を背けたくなる。他人事だから、自分には関係ないと思いたくなってしまう。一歩線を引いて見ている自分がいる。


遅れた分をあとで取り返さなきゃいけなくなるのが、私は嫌だったし、怖かった。自分が周りに置いて行かれることで苦しみたくなかった。だから、最初から遅れることがないように、学校という場所にしがみついていなくちゃいけなかった。私は挫折したらなかなか立ち直れないとわかっていたから、挫折することを避けていた。

学校に死ぬほど行きたくなかった時期もかなりあったけど、もはや「学校に行けなくなる=死ぬしかない」というところまで追い詰められていたので、何とか行けてしまっていただけだった。

這ってでも学校、会社に行く、というのは不健康だとはわかっている。そんな状態なら、休んでちゃんと体調や精神面を改善することが望ましい。でも、どうしても休めない場合もある。休むことを許してもらえない場合とか、自分で休むことを許せない場合とか…。そういうときはもうどうしようもないとしか言えない…。


私は、結局大学を休学しなくて良かったと思っている。まあ、親に許可してもらえなかっただろうし、休学するという選択肢は自分の中にそもそも存在すらしていなかったのだけど…。私の場合は、いつも通り大学に通うということを自分に課さないと、逆に精神を保てなかった。

大学生というものを、一時的であってもやめたくなかった。休学は大学生をやめるわけではないと理解しているけど、ちゃんと真面目な大学生をこなせる自分でありたかった。そこへのこだわりだけは絶対に捨てられないんだろうなあ…と思う。自分でも頑固だと思う。

だけど、今の時期、私は初めて何もしない休みが確保できているような気がする。それなのに、不思議と心は休まらない。相変わらず謎に病んでいる。休む=悪という固定観念が払拭できないからかもしれない。はたから見たら、怠けているように見られるだけではないかと思ってしまう。休むって、なんなんだ?とずっと疑問に思っている。

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