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日記- 緻密な名曲「Megalovania」
はじめに
何気なく教えてもらった曲の凄さに戦慄した。
雑談でおすすめの曲紹介をしていた時に、曲紹介をしていた相手から、
「ゲームの音楽ですごく好きな曲があって、Megalovaniaっていう曲!UNDERTALEっていう名作ゲームがあるんだけど、生誕5周年の記念コンサートで演奏されたのがすごく良いから聴いてほしい!」と紹介してもらい、何気なく聞いていた。
(↓動画の2:54:31~開始)
その時の一周目は
オーケストラ編成だが、最初が電子音ではじまる!意外!
クラリネットに似ている楽器のソロが格好いい。楽器名なんだろう?
Cb, Fg, Tu, Tbの低音勢の音の重厚さが格好良すぎる(バリサク演奏経験があるので、低音を贔屓して聴きがち)
ヴァイオリン達と木管勢の畳みかける高音が美しい
打楽器の全体を支えつつ勢いある感じも好き
全合奏の圧倒的迫力が良い
と「すごい!格好良すぎる!」と思いながら聴いていた。
そして、「オーケストラもいいけど、元の曲は8ビットみたいな音源をしていて、こっちも格好いいよ」と紹介されるまま原曲を聴いた。
原曲を聴きながらゲームの説明を受けたり、実際の戦闘の動画を見たりして何度も曲を聴いているうちに、
「この曲って演奏するの相当難しそう。最初から続く独特なリズムは変拍子かな?テンポも200以上はありそう。かなりアップテンポの曲だな~何拍子の曲なのか気になるな~」と思い始め、「譜面を見たいな」と思った。
そして、譜面を見て戦慄した。
譜面とリズム構成
「megalovania 譜面」でYoutube検索し、ヒットした動画の譜面を見て驚愕した。
なんとこの曲、「4分の4拍子、♩=120(BPM120)」の曲なのである。
基本中の基本のリズムの曲ではないか。
例えば、自分は♩=120の速さの曲だと「行進曲 海兵隊」を真っ先に思い浮かべたし(あれはマーチなので2分の2拍子だが)、
有名な曲でいうと、「さんぽ(となりのトトロ)」が、「4分の4拍子かつ ♩=120」の曲である。
これらと一緒のリズム構成…!?と驚いた。
↓「行進曲 海兵隊」。吹奏楽界隈の中では知られた曲。
↓「さんぽ(となりのトトロ)」。こちらは老若男女問わず知られた名曲。
↓「Megalovania(原曲)」。上記2曲と同じリズム構成だが、聴こえ方は全然異なる。
リズム構成の基礎知識
ここで、曲のリズムを構成する拍子とテンポについてざっくり言及する。
詳細な説明は、以下の記事を見ていただければわかりやすいかと思う。
簡単に言うと、
4分の4拍子:1小節に4分音符が4個分入る
「いち、に、さん、し」でひとかたまりと数える
4分音符を1拍の基準にし、4つを集めて1小節(1部屋)にする
1小節の中全体で、4分音符4つ分の長さに一致すればいいので、「2分音符×2個」や「8分音符×8個」の音符を入れてもOK
(「全体の合計が4」になるように作る計算は「1×4」以外にも、「2×2, 0.5×8, 0.25×16, 3+1, 4×1, 1+2+1」と色々作れるイメージ)
♩=120(BPM120):1分間に4分音符が120回打てる速さ
BPM60が1分間に60回(=1秒あたり1回)の拍で、時計の秒針と同じ
BPM120はそれの2倍なので、0.5秒に1回拍を打つ速さ
である。
本曲の凄さ
本曲のリズム構成に話を戻すと、本曲は「何の変哲もない4拍子で、1拍0.5秒の速さの曲」なのである。
耳だけで音楽を追っていて、基本のリズムであると見抜けた人は本当にすごい。初見で聴いた自分は、「変拍子・大変速いテンポの特殊なリズムの曲」と錯覚した。
実際に譜面を見て奏でられる音符(画像1番上の楽譜)を追うと
曲全体の途中まで、8分・16分音符のみで構成される。4分音符主体のメロディーが一度も出てこない
全体のリズムとして、3拍目の序盤に16分休符を挟む
1拍目の後半・2拍目の前半・3拍目の中盤はスタッカートで音が短く弾かれる
16分休符前後の2拍目~3拍目はタッカ( {8分音符+16分音符}+16分音符)、3拍目終わり~4拍目の頭はスラーで、音が跳ねたり伸びたりする
ので、変則的なリズムが主体であるように聞こえるし、演奏されている8分音符を拾って聞くと、速度が倍(120×2=240)に聞こえるのである。
音符の配置のみで、躍動感や緊張感を出す圧倒的な表現力に感動した。
![](https://assets.st-note.com/img/1704732523367-EPM0xJSQGX.png?width=1200)
本曲の難しさ
奏者として本曲を演奏する際の難しさを考察してみた。
運指や息継ぎなどの厳しさも当然あるが、リズム構成において難しいと感じる点を記す。
まず演奏するにあたり、「基準となる4分音符が一切出ない中で、4拍子とBPM120(一定の速さ)を維持し続けること」が大変難しいのではないかと感じた。
この曲は時計の秒針の半拍(2拍で1秒)で演奏されるため、仮に音楽表現として「唄う」ことで1拍あたりの音符の速さが変わると「時計の秒針がずれた」ように聴こえ、違和感につながりやすいのである。
(仮に音楽に詳しくない人でも、時計の秒針の音は聞きなれているため、わずかな差異による違和感に気づきやすい。)
また1人で演奏する場合も難易度は高いが、複数人での合奏となると、2~4拍目のリズム、特に「3拍目の休符」が鬼門になりそうである。
音をぴったり合わせる困難さは勿論のこと、休符というのは「完全な無音の拍」なので、全員のリズム解釈が一致しないと揃わない。誰かが音を奏でてしまったら、その時点で休符にならないのである。
さらに、これはメトロノームを音源と一緒に鳴らして気づいたことだが、「常に一定の速度(♩=120)ではない」。
リズムは不変だが、何小節か経つとメトロノームが曲と合わなくなる。曲全体で速度がやや速くなるので、一定の速さを刻むメトロノームとずれるのである(おそらく♩=121~122辺りのわずかな加速)。
そしてドラムの裏打ちが目立つパートや、主旋律に戻ってきたときに再びリズムが合い、そしてまた加速してを繰り返す。
時計が1秒ずつ針がすすみ、30秒で半周、60秒で1周するような繊細な変化であるため、耳だけだと聴き取れない。
このわずかな変化はオーケストラ版でも忠実に再現されており、メトロノームを使わず耳だけで聴くと、原曲同様一定の速さに聴こえることにひどく驚いた。
速度を完全に一定に保つよう苦心しても、曲の再現に至らないとは、なんと恐ろしい難易度の曲だろう…と感じた。
![](https://assets.st-note.com/img/1704726461841-uEN9jqCnnG.png?width=1200)
最後に
一見特殊な拍・速さに聴こえる曲が、実は時計に近い基礎的なリズム構成だったことに驚いた。
考察する中で「唄うのではなく刻む」曲であり、「刻みながらも曲中でわずかに速度が変わることで、全体の勢いを増していく」曲であると感じた。
筆者は子供の頃に少し楽器経験があるだけだが、それでもこの曲の緻密さにおののいた。音楽の奏者の方、音楽理論に明るい方がいれば、ぜひこの曲を聴いていただき、凄さを言語化していただけると嬉しい限りである。
こうして音楽を考察するのは久々で楽しかった。「Undertale」のゲームはほかにも名曲が揃っているとのことなので、「Megalovania」以外のゲーム内楽曲も色々と聴いてみたい。