シオン #1azusa side

私 「ほら、しっかりして」
後輩「えーやだーまだ飲むー」
私 「タクシーきたから乗って
   じゃあ、また明日ね」
後輩「うーん…」
私 「ふぅ…疲れた…」

仲のいい後輩の佐藤カノンと呑んで
いつも通り先に酔ったカノンをタクシーに乗せた。

私「私も酔いたいのにな…」

ため息をつきながら歩いていると
目の前からテンションが高い男性3人組が歩いてきた。
ど真ん中を横一列に歩いてくるので、
ぶつからないようにかなり端に寄って
すれ違った瞬間。

??「あずちゃん?」
懐かしい声、懐かしい呼び方
??「なぁ、あずちゃんやろ?」
懐かしい関西弁
声聞いただけで泣きそうになった。

私 「久しぶりだね」
??「なんや大人っぽくなったな」
私 「そうかな」
??「あの頃よりもっと綺麗になってて
   一瞬分からんかったよ、元気やった?」
私 「うん元気」
??「そっかぁ…」
…気まずい、早く帰りたい
そんな事も気にせず元カレの蓮は話し続ける

蓮「雰囲気変わった?痩せたよな?
  ちゃんと飯食うてる?」
私「うん、食べてる」
蓮「また忙しくしてるんちゃうん?
  休めてるんか?」
私「大丈夫、もうあの頃とは違うから
  自分でコントロールして仕事してる」
蓮「俺の先輩と仕事しとるやろ?
  たまに先輩から聞くで、あずちゃんの話」
私「…」
蓮「…結婚するんやってな」
私「…うん」
蓮「ほんまなんや」
私「うん」

俺たち先行ってるね!と蓮のお友達たちが
いなくなってしまった。
2人にしないでほしかった。
なのに行かないでって声が出なかった。

蓮「…俺たち今も付き合ってたら
  結婚してたんかなぁ」
私「どうだろうね」
蓮「そこはないって否定せなあかんやろ笑」
私「そっか、ごめん」
蓮「あずちゃん、俺ずっと謝りたかってん。
  ずっと後悔しとった。ほんまにごめん。」
私「…もう覚えてないよ、大丈夫」
蓮「そっか…司うるさいやろ笑」
私「毎日楽しいよ」
蓮「やろうな!笑」
私「ごめん、旦那さん待ってるから」
蓮「そうやんな、引き留めてごめんな」
私「大丈夫、じゃあ元気でね」
蓮「おう、あずちゃんも幸せになるんやで」
私「…うん、ありがとう」

懐かしすぎていろんな思いが込み上げてきて
堪えきれず泣いてしまった。
やばい、そう思い俯いた。
その瞬間、頭に優しく温かい大好きだった手が
蓮「大丈夫、司なら幸せになれるよ」

違う、そうじゃなくて
私も言えなかったことがある
私「蓮…私…」
蓮「ほら、タクシー来たで
  愛しのダーリンのところにはよ帰り笑」

すみませーんと手を挙げてタクシーを止める蓮
私を乗せ、じゃあと言って行こうとした蓮は
あ!と振り返り
蓮「俺は昔も今もあずちゃんの笑った顔が
  宇宙一大好きやで。
  せやから、ずっとあずちゃんの幸せ
  願ってるよ。結婚、おめでとう
  幸せにしてもらうんやで!笑」
ほな、お願いしまーすと言ってドアを閉められた。
タクシーが出発して後ろを振り返ると
何か叫んで笑顔で手を振っている蓮が見えた。

一回緩んだ涙腺はなかなか元に戻らず
タクシーの中で涙が止まらなかった。
そして、窓に向かって小さな声で呟いた
私「蓮が幸せにしてよ…」

でも私の声が届くことなんてもちろん無くて。
東京の深い夜の闇と眩しいほどの光に
消えていった。

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